株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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 Choice誌掲載 (12) 2005年5月号     出版元ゴルフダイジェスト社

『知られざるマスターズ&オーガスタ』

ジョージア州オーガスタは北緯33度付近にあり、福岡市とほぼ同緯度のとても暑い街である。オーガスタナショナルゴルフクラブは開場当時から避寒地のゴルフコースとして計画され、現在でも夏場はプレーされていないらしいが、芝種の改良や管理技術の進歩により通年に渡って常緑環境を維持している。

元々この土地は、植物や園芸品などを販売していたベルギー人男爵が、世界中の
珍しい植物を集めて米国内に販売するまでの間、仮植えして備蓄しておく場所と
して開発したもので、それらの植物を流用したマスターズトーナメントの開催時
期は一年中で最も花の咲き乱れる美しい時期だとされる。

コースはスコットランド人の血を引く北イングランド出身のコース設計家アリス
ター・マッケンジーが設計し球聖と呼ばれた当代屈指のゴルファーR.T.ジョー
ンズが協力することにより完成したが当初はOUT,INが現在と逆に設計されていた。
マッチプレーからストロークプレーへ競技方法が推移し始めた時代にあって、重苦
しい難易度の高いホールを後半に多く配した旧来のマッチプレー型のコースより、
攻撃すればスコアーが派手に動くホールつまりクライマックスを後ろに持ってき
た方が興行的に有利なことは明らかだったのだろう。

マッケンジーとボビージョーンズとの出会いは、1929年にサイプレスポイントで
われた試合に惨敗したボビーがコースの設計者の手腕に感銘を受け、構想中のオー
ガスタナショナルの設計者として推薦したと伝えられている。基本的なルーティン
グや戦略性の検討についてマッケンジーが計画した後、詳細な詰めの作業はボビー
が実際に試打して検討を加えたに違いない。かくし当時世界で最も先鋭的な設計
手法と最も優れたゴルフ能力が融合し、ゴルフの舞台はリンクスランドを離れイン
ランドにその可能性を見出してゆく事になった。因みにハンデキャップ14のマッケ
ンジーが受け取っオーガスタナショナルの設計報酬は、他の米国での仕事に比べ
て少なく彼自身は後に不満を漏らしている。オーガスタナショナルは当初から著名
なプレーヤーを招待して競技会を催す事を前提に造られてはいたが、1980年代以降
のスタジアムコースのコンセプトとは異なり、英国のリンクスコースに範を得たグ
リーン近くのマウンドを利用したギャラリースタンド形式で、マッチプレー時代の
ギャラリーを引き連れてプレーするスタイルを踏襲している。マスターズトーナメ
ントの意義は歴史的に見れば、英国連邦から米国にゴルフの主導権が移った時期や
スチールシャフトが登場した時期と一致することだと思う。

常に最先端の画像伝達技術やコースの管理技術に挑戦し、プレーヤーの技術の進歩
や用具の発達に呼応して改修を繰り返す姿勢は、気高さを通り越して痛々しくもあ
特に近年登場したラフは、そのラインがマッケンジー氏の望んだ自然に見える
景観を台無しにしているようで心が痛む。