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特集・ゴルフ場セミナー誌
(1) 1999年8月号 出版元ゴルフダイジェスト社 |
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カヌースティー
リンクスの ヘッドグリーン
キーパー ジョン・フィリップ氏に聞く |
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インタビューは全英オープンの開催されるちょうど一ヵ月前という大変忙し
い時期に行われた。
ジョン・フィリップ氏は生粋のスコットランド人で、英国グリーンキーパーズ
協会の公式トレーニングを受けた後、セント・アンドリューズなどでグリーン
キーパーをし、若くして名門カヌースティーのヘッドに任命された逸材である。
今では全英オープンの名物の一つにもなっているが、各バンカーに英国中のゴ
ルフクラブから派遣されたグリーンキーパーが一人づつ付いてメインテナンス
するを御存じだろう。この習慣は、彼がセント・アンドリューズにいた1984年
(S.バレステロス優勝)時、他ならぬ彼が考えだしたことだという。今では
グリーンキーパー同士の情報交換の場として無くてはならないものとなってい
るばかりか、お目当てのグリーンキーパーの傍で観戦するギャラリーもいるらしい。
今回のカヌースティーのバンカーは115個。毎晩繰り広げられるであろう御当地
自慢と優勝予想は評論家達の情報戦よりずっと辛口に違いない。
私共のカヌースティーリンクスは現在3コースあります。各コース共、互いに
関連を持っているのでそれぞれの敷地面積を計算することはできませんが、
全部あわせて320エーカー(130ha)ほどあります。年間降水量686mm(1998)、
年平均気温11.2℃(7月は18℃、湿度44%程度)ですが、年によるばらつきが
大きく毎年苦労する所です。
グリーンは平均650〜700平方ヤード(550m2)でチューイング
スレンダー
フェスキューとクリーピング レッド フェスキューとブラウン トップ ベント
の3種類が主体でコロニアル ベントグラスなども少し混ぜています。この組み
合わせは砂地のシーサイドコースの植生として自然なものです。
グリーンの刈高は普通4〜5mmですが、The Openでは1/8inch(3.2mm)にします。
またエプロンは6.4mm、ティーインググラウンドは7mm、フェアウエーは7〜8mm
(普段は10mm)です。セミラフは5m程の幅で1.5〜2inch(40〜50mm)ラフは御
覧の通りまったく刈りません。自然の植生に沿った芝は風に倒されてしまう事
もなく、プレーヤーに踏まれてもまた元気に伸びてきます。
30年ほど前までは、フェアウエー以外はすべて膝まであるラフでした。想像
して見てください。球がフェアウエーに止まるかラフに捕まるかはそれこそ天
と地ほどの差だったのです。現在はセミラフがあり、ティーショットを多少曲
げても球を見つけることも容易ですし、ミドルアイアンでグリーンを狙うこと
さえ可能です。随分とゴルフが簡単になってきたものです。
散水設備についてはグリーン、フェアウエー共に持っていますが、毎日一定量を
撒く事はしません。いつもいつも芝の状態とにらめっこしながら決めています。
平均してグリーン一面あたり400〜500ガロン(つまり約3.6リッター/m2)ぐら
いです。また夏場の昼間1時から2時頃に1〜2分間撒くこともあります。無論こ
れはヒートストレスを緩和するためです。私共はグリーンにはミスト散水設備
は持っていませんので、通常の散水設備を回しています。芝が暑いといってい
る時はプレーヤーも暑いのですからその事で苦情などは聞いたことはありません。
ミスト散水はバンカーの顎の部分で使っています。リンクスランドの特徴とも
いえる60度の切り立った顎は、リベッタリングという芝土を積み重ねる方法で
補強しますが、その芝土の管理に今まで苦労してきました。特に顎が南西に向
いているバンカーの傷みが早く、毎年やり直していたのです。最初はバンカー
の縁や顎の頂点に散水ヘッドが垂直になるように設置していたのですが、砂が
濡れるばかりであまり効果がありません。あるときヘッドを水平に設置するこ
とを思い付き、リベッタリングの真ん中に散水できるようになりました。去年
から徐々に施工しましたので未だ未だ試行錯誤の段階ですが、青々としたバン
カーの顎は今後このコースの特徴になってくれるものと期待しています。
バンカーの話になったついでに砂の事についてお話ししておきます。バン
カーの砂の粒径は0.125mm平均、グリーンなどのトップドレッシングに使う砂は
0.25〜0.75mmですが地元のテイ川の川砂を使っています。以前は近くの浜辺の
海砂を使っていまいたが、7年ほど前から規制ができて使えなくなりました。
砂はふるいにかけて粒径の選別をするだけで、特別な処理はしていません。
内陸のコースで近くの山砂を使う場合、シルト除去の為の洗浄をしなければ使
えないのでしょうが、ここではその必要はありません。また以前海砂を使って
いた時も洗浄はしていませんでした。
肥料については化学肥料も使用しますが、必ず有機肥料と混ぜ、さらに充分
な砂と一緒に施肥することにしています。具体的には硫安と乾燥血液や牛の角
や蹄を細かく砕いて粉にしたものを2:1:1の割合で混ぜ、グリーンでは手蒔
きしています。ティーはスピナーを使いますが、ドロップスプッレッダーはあ
まり使いません。
徐草剤は春先の5月始めに窒素肥料とあわせて45〜50g/aを施用しますが、
その後は極稀にスポット噴霧するだけに止めています。エコロジー的な考え方
から見ても徐草剤に頼るよりも他の要素を変化させて植生を変化させる方法の
方が、理にかなっていると思えるからです。
エアレーションは通常のホロータインの他にハイドロジェットも使います。
3週間おきにフェアウエーのマウンド上部にできたドライスポット対策に使用
しました。
その他、グリーンは5面を改修しましたし、バンカーの位置をよりグリーン
に近づけ、フェアウエーのアンジュレーションもトーナメントプレーヤーのセ
カンドショット地点とレイアップエリア両方について見直しました。さらに
バンカーに向かって傾斜をつけて球をより集めるようにしたり、グラスハロー
を付け直したりと、現在のトーナメントプレーヤーの技術にふさわしい舞台を
造ったつもりです。
全英オープンについては5年ほど前に開催が決定しますが、準備を本格的に
始めたのは一昨年の冬からです。このコースの場合、クラブ競技だけではなく 国際大会を開催することも多いので、5週間ごとにカリキュラムを組んで
メインテナンスのピークを維持する必要があるのです。
今回は1万4千席の観客席を設営したり、ギャラリー用のフェンスやトイレなど
の設備、また仮設テントや他の2コース内に練習施設を設定するなど The Open
ならではの苦労があることも確かです。
とはいっても25年ぶりにジ・オープンを迎えるのは名誉なことです。それは
大会前にプレーする人達も同じでしょう。今日は大会1ヶ月前ですが、先々週
バーチカルをかけた所なので、グリーンは多少凸凹していますが大会当日には
滑らかな転がりが得られるでしょう。フェアウエーは既にチャンピョンシップ
レベルの仕上がりですが、プレーヤーにも協力してもらって大会一ヵ月前から
はセカンドショット地点やアプローチエリアからはプレー不可としています。
プレーヤーやスタッフの熱意が大会を成功に導いてくれると信じているのです。
R&Aの関係も更に交通規制をお願いする警察との連携も気を配らなくてはなり
ませんでした。こうした現実的な事ばかりでなく、過去の気象データーなどの
記録やふるい写真などからコースや The Open の歴史を振り返ることも意義の
あることです。
このコースのように古いコースはその伝統に則っていく使命があると感じています。
最後に、良いグリーンキーパーになる素養を日本の若いグリーンキーパーに
伝えたいのですが? と質問すると彼は随分長い時間考えた後に『ディティール
にこだわって欲しい』と答えてくれた。もう一つ最後に充分な給料を貰ってい
ると考えていますか? と不躾な質問をすると『私はこの地方で生れて育ったから
この土地を離れることは考えませんでした。それに今の仕事に誇りを持ってい
ますよ』と笑ってくれた。
古い伝統を頑なに守る職人に会えて良かったと思った。
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