株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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 特集・ゴルフ場セミナー誌 (2) 2000年8月号  出版元ゴルフダイジェスト社

トム・モリスから数えて8代目の若きグリーン
キーパーは、20世紀最後のThe Openをどのよう
に迎えようとしているのか?
その前に、一般には判りにくいセント・アンドリューズのゴルフ場と倶楽部
組織、管理団体や全英オープンとの関係などについて、リンクストラストの財
政及び経営責任者であるイアン・マクレガー氏が説明してくれた。


 ご存じのように現在のセント・アンドリューズのゴルフ場はセント・アンド
リューズ市が管理する公共施設です。現在18Hsのゴルフコースが5コースと9Hs
のコースを併せると合計で99ホールあり、全てパブリックコースです。
 セント・アンドリューズにあるコースをホームコースにしている倶楽部組織
は幾つもあります。R&Aを筆頭にセントアンドリュースゴルフクラブニュー
クラブ、レディースクラブ、セント・アンドリューズ大学ゴルフ部などです
 コースの管理やマネージメントはリンクストラストが行っており、グリーン
キーパーもこの組織に属しています。平年では99ホールで54名、オールドコー
スを例にとると年間四万二千ラウンドに対してグリーンキーパーは15名です
スターターやコース監視員なども含めてリンクスマネージャーが統括しています
他にクラブハウスなどを管理する部署と財務管理する私の部署をあわせて総勢
150名程で運営しています。
 リンクストラストの収入はグリーンフィーの5億7千万円を初め全体で
10億5千万円程です。支出は単純支出が8億1千万、道路や散水設備の新規開発
費1億7千万などです。
(1999年、1£=170円換算)
 全英オープンはR&Aの主催ですから、期間中はR&Aがリンクストラストから
コースを借りていることになります。入場料などの収益はR&Aのものですが
準備や後片付け、また期間中の施設使用料などをR&Aから貰うことになってい
ます。

 セント・アンドリューズ オールドコースのヘッドグリーンキーパー
エディー・アダムス氏に聞く

 事前に質問内容をFAXしていただいて助かりました。技術的で詳細な質問が
多かったので、広報担当のキャロラインが目を丸くしていました。BBCのコメ
ンテーターも取材にきましたが、今までこのように突っ込んだ質問をしたメデ
ィアはありませんでした。日本のグリーンキーパーのお役に立てるかどうか判
りませんが、できる限りお答えします。

 まず初めに、理解しておいていただきたいのは、リンクスコースの場合、排
水設備は基本的に必要ないという事です。オールドコースではフェアウエーも
グリーンにも排水設備は持っていません。と言うよりも必要ないのです。地下
数十メートルにも及ぶ砂地の地層の上にコースが乗っている訳ですから、ブラ
ックレイヤーなどの不透水層を作ってしまわない限り、透水性は問題がありま
せん。ただ、後でお話しすると思いますが、1番グリーンの周囲には排水設備
が欲しいと思っています。

 グリーンの総面積は3haにもなります。5番と13番のダブルグリーンなどは
6500m2もあり、毎日の芝刈りだけで一時間半もかかってしまうのです。
 グリーンの芝種はチューイング・フェスキュー主体(75%でベントグラスが
20%程交ざっています。
これはグリーン限らずフェアウエーもラフもすべて同じ割合です。
5年ほど前から徐々にベントの割合を減らしてきました。ベント芝をあきらめ
た理由は、肥料や水分をたくさん要求することと、サッチコントロールが難し
い為です。管理の方法にも依るのですが、現在ではできるだけ自然の状態に近
い方法で管理することがセント・アンドリューズの伝統に沿う事だと考えてい
ます。
 一例を挙げると、今年は未だ一度もポップアップスプリンクラーを使ってい
ません。マウンドの頂点などの乾きやすい場所に、たまに手撒きするだけです。
また肥料もフェアウエーとラフには過去10年間全く使っていません。ティーグ
ラウンドには N:P:K:Fe=8:0:2:4(単位は(1/4oz)/yard2)の割合で化学肥料を
与えました。グリーンには動物の乾燥血液や蹄などを粉砕した有機肥料を目砂
に混ぜていますが、施肥料としては極わずかです。
 また更新作業もプレーヤーが多いため、コアリングができません。冬場のオ
フシーズンに1回だけバーチカルをかけるだけです。
このような管理にはベント芝よりもフェスキュー芝の方が適しているようで
徐々にフェスキュー芝主体に移行してきた理由です。

 刈高はグリーンで5mm、ティーとフェアウエーが8mmで、日曜日を除く毎日刈
ります。他のコースより刈り高が高いようですが、此処の芝は直立性が強く
この高さで十分なスピードになります。それとサッチコントロールの目的でグ
ルーミングモアを2mmにセットして週1回かけます。縦の櫛刃でサッチを除去す
るだけなので、芝の刈り高への影響はありません。ティーグラウンドは隔週
フェアウエーにも毎月グルーミングモアをかけます。同じく2mmセットです
ローラーによる転圧はしたことがありません。
 セミラフの刈り高は75mmで週1回、ラフはハリエニシダの一帯を含めて全く
刈りません。自然の植生そのままです。

 私達のコースではグリーン周りのカラーという概念がありません。ご存じの
ように昔はグリーンとティーとの区別もありませんでした。19世紀では、ホー
ルアウトすると、そのカップの近くにティーアップしプレーしていたのです
ティーグラウンドからフェアウエー、グリーンに至るまで全て同じ芝でできて
いて、刈り高だけでグリーンを区別する事が、ゴルフ本来の姿だと考えていま
す。つまり、コース内の均一性がとても大切なのです。

 バンカーやトップドレッシングに使う砂の事についてお話ししておきましょう
よそのグリーンキーパーにいつも驚かれるのですが、此処ではグリーンのトッ
プドレッシングに使う砂も、バンカーに使う砂も全く同じものです。とても細
かい(粒径平均が0.1mm以下で、比較的粒の揃っている物に感じた砂を購入し、
白すぎる色を抑えるためにアンバーの着色をしたうえで、バンカー用の砂とし
て使用しています。
砂の厚みは随分厚く、45cmを下回らないようにしていますが、元々砂地なので
何処までがバンカーの砂なのか我々にも区別がつきません。
 このバンカー用の砂に先ほどお話しした有機肥料を少し混ぜて、毎月1mm 厚
でグリーンのトップドレッシングに使用しています。ティーグラウンドには隔
月3mm厚です。
 同じバンカー用の砂にフェスキューの種を混ぜ、発芽させてから、コース内
にできたディボット痕の補修に使います。同じ砂を年3回、3〜5mm厚でフェア
ウエーとラフにも撒いています。

 バンカーの話が出たのでバンカーの顎の補修についてお話ししましょう
セント・アンドリューズのオールドコースのバンカーは全部で112個あり、全て
に名前がついています。フェアウエーの面と砂の面との高低差が最低1m、ヘル
バンカーなどでは3mもあるので、バンカーの縁が崩れてしまいます。昔は枕木
を使って補強していましたが、顎の傾斜が急すぎて『枕木に跳ね返った打球で
プレーヤーが危険である』という理由で現在は使わなくなりました。
代りにリベッタリングと呼ばれる芝土を煉瓦積みにする方法で補強するのです
が、芝土が乾いて風化してしまい長くは持ちません。大体20年周期で補修を繰
り返してきました。つまり年間5〜6個の補修をしてきた訳です。今回世紀末の
THE OPENを迎えるに当たり、全てのバンカーのリベッタリングをやり直すこと
にしました。当初は人工的すぎるという批判もあったのですが、徐々になじん
できたようで安心しています。

 今回の全英オープンの準備は5年前から計画し2年かけて取り組んできました
いつもの年よりも9人多い23人のスタッフに加え全英オープン期間中は55人の
臨時スタッフと6人の機械整備要員それとBIGGA(英国グリーンキーパー協会)
から55人の応援も来てくれる事になっています。
 ただ、特に管理方法を変えたりはしません。グリーンのスピードは10.6フィ
ートにR&Aから指示されていますが、刈り高をわずかに落とせば対処できる範
囲です。5mmの刈り高で通年平均8.5フィートですから乾燥した夏場はずっと
速くなっているからです。

 次に最近良く話題になるエコロジーの問題と農薬使用についてお話しします。
リンクスランドは海岸がすぐ傍にあるわけですから、農薬の使用には神経を使
います。日本は過去にゴルフ場からの農薬流出で社会問題を起こし、現在では
とても進歩的な農薬施用をするようになったと聞いています。その意味で日本
とは農薬基準も違い、我々の取り組みがお役に立つかどうかは判りませんが...
 基本的に自然な状態に近づけるという原則に則り、殺虫剤や殺菌剤は全く使
用しません。コース内で今の所問題になっているのは、雛菊(Daisy)ですが
フェアウエーとラフは放置しています。グリーンとティーグラウンドだけには
2-4D Mecapropという除草剤をhaあたり3リットルの割合で施要しました。
 面白い話があるので、紹介しましょう。1番と18番を横切るように流れる
スリルカンバーンという小川には絶対に農薬を流してはなりません。手蒔散布
の場合で小川から1m、機械を使った散布では5m以内に入ると、毎回数十万円の
罰金を払わなくてはなりません。ご存じのように、1番グリーンはこの小川に
隣接していますからとても管理がしにくいのです。そこで1番グリーンの周り
に排水設備を作ってこの規制を緩和して貰おうと思っているのです。

 最後に予算や機材の話をしなければなりません。平年のメインテナンス予算
は、人件費も含めて2億4千万円弱です。この予算自体は英国やスコットランド
の他のコースに較べても破格に高いのですが、個人的にはもうちょっと給料を
上げて欲しいと思っています。何故ならばセント・アンドリューズのゴルフ
コースだけで4千個ものポップアップスプリンクラーありますが、前にお話し
した通りオールドコースに関しては今年は一度も使っていません。
そんなものに莫大な予算を振り分けるよりは、地元の我々に還元して欲しいと
思うのです。

 エディー・アダムスはセント・アンドリューズで生まれ、16才でグリーン
キーパーの見習いになってから25年間ずっと此処で働いてきた。
彼よりも年上のスタッフも沢山いるが、皆彼を信頼している。『良いグリーン
キーパーの条件は、問題が起こりそうな所を逸早く見つける眼を養うことだ
という彼の言葉は、そのまま彼の人生を顕わしている。

別表1 使用機材表
20 Green-mower GS 55 Textron
10 Tee-mower Marquis Textron
6 Fairway-mower LF 3400 Textron
2 Bunker-trims Sidewinder Toro
4 Rough AR 250 Textron
6 Apron 160 D Textron
20 Utility