株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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 月刊ゴルフメイト誌 2003年12月号               出版社:丸善
  「迫田耕のアカデミック講座」(連載第1回)

ハザードの役割について  
 ハザードの役割について皆さんはどのようにお考えでしょうか?
フェアウエーの真ん中にナイスショットをしたのに、バンカーに捕まってしまた。こんなコースは良くない』とお考えの方のために、ハザードの基本的な考え方を少しおさらいしておきましょう。

 ルール上のハザードとは、バンカーとウォーターハザードしかありません
OBゾーンも長いラフも樹木や林もプレー上は立派な障害物ですが、ゴルフルー
ルではハザードと呼びません。
またウォーターハザードには、通常のウォーターハザードとラテラルウォー
ターハ
ザードの二種類があり、それぞれ入った時の対処の仕方が異なる事は
ご存じの通りです。因に通常のウォーターハザードについて言えば、水中の
ボールをそのまま打つ事を別にすれば2つのオプションがあります。
1. もと打った地点に戻って打ち直す。
2. 球がウォーターハザードに入った地点とピンを結んだ後方にドロップして
打ち直す。と言うものですが、詳しい説明はルールブックを御覧ください。
ラテラルとはプレー方向と並行して横にあるという意味で、通常のウォーター
ハザードの処理をすると、とんでもない所まで戻らなければならない状況も
あり得るので、通常のウォーターハザードでの処理の他にもう一つオプションを
追加しているだけだと覚えておけば良いと思います。
バンカーも含めてまとめるてみると、アドレスの時にクラブをソールしては
ならない場所をハザードと呼んでいるのです。

 どちらにしても、プレーヤーから見るとハザードには入れない方が良い訳
ですから、ハザードそのものをミスショットを罰する場所のように捉える事は
無理からぬ事に思えます。実際フェアウエーの横にあるバンカーは、スライス
やフックした打球が捕まりやすい場所に置かれるのが普通で、ある特定の
ホールに来ると毎回同じバンカーから打っている人も見かけます。
その人にとってスライスの曲がり具合と飛距離が丁度そのバンカーにぴったり
合っているのでしょうが、当人にとっては口惜しいバンカーには違いありません
同じように通常のウォーターハザードは、ダフったりトップした打球と距離の
判断を誤ったプレーヤーを罰する役目なのです。
このようにプレーヤーの特定のミスを罰する為に置かれるハザードを、科罰型
(ペナルタイプ)と呼んでいます。日本では大多数がこのタイプです。
 ところでプレーヤー各々の飛距離が違う事に加え、ミスの種類も千差万別です
スライスやフックはもとより、ダフりやトップ、引っかけやプッシュアウト、
風の判断ミスや距離感が合わないなど様々ですし、精神的なプレッシャーによる
場合もあるでしょう。
飛距離の出ない人がスライスした時用のバンカーと、飛距離の出る人がプッシュ
アウトした時用のバンカーは同じようにフェアウエーの右側に置かれますが、
ティーからの距離が違いますから巨大な物を作らない限り別々のバンカーに
なってしまいます。
ということはプレーヤーの数だけ、しかもミスの種類の数だけハザードの数も
必要になる訳です。またそうしないと距離のでないスライサーにばかり厳しい
コースとか、低い球しか打てない人にだけ厳しいコースとかになって、結果的
に不公平なコースになってしまいます。
一般的にはティーの位置を変えることによって、飛距離の出る上級者と飛距離
の出ないシニアや女性が同時に楽しめるホールを作ろうとしていますが、飛ぶ
人が上級者とは限りませんし、飛ばないけれど上手な方は幾らでもいらっしゃ
いますので、ある種の便宜的な方法でしかありません。
原則的には18ホールの中で少なくとも1箇所は各々のミスを罰するハザード
があるべきです。つまり科罰型コースでは、コースを良くしようとすればする
ほど、ハザードだらけのコースになりがちなのです。
科罰型(ペナルタイプ)全盛の時代に出来たコースには三百箇所以上のバン
カーがあったそうです。現代の標準では18ホール当たり百箇所以下ですから
改めてその数の多さにびっくりしてしまいますネ。

 さて、あっちに打っても駄目こっちに打っても駄目とばかり言われていると、息が詰まってゴルフが面白くなくなってしまいます。そこでハザードをミスを罰する道具としてばかりではなく、ゴルフゲームを面白くする道具として捉えられないだろうか?と考える人達もあらわれてきました。戦略型(ストラティジックタイプ)の登場です。
戦略型設計ではそこにボールを運べばホール攻略上有利になるような位置に
ハザードを置きます。するとハザードの近くに打てば打つほど、もしくは
ハザードを飛び越せればもっと有利な位置からセカンドショットが打てるように
なるので、腕と度胸のある人にとって挑戦しがいのあるホールになるのです。
ハザード近くに打てる自信のない人達は、科罰型設計と同じようにハザード
から徹底的に逃げる安全策をとることも可能ですが、大抵の場合遠回りに
なるので長くて難しいセカンドショットを残す結果となり、悪くするとグリーン
に上がるまでに1打余分に必要かもしれません。ただハザードか逃げて廻った
人達はそれ以上のトラブルはありませんから、悪くてもボギーでホールアウト
できるはずです。一方勇敢にハザード近くを狙い運悪くトラップに捕まった
プレーヤーは、ハザード内からグリーンを無理やり狙うか3打目でグリーンを
狙える場所に出すかしかありません。初にも書きましたがハザード内は
アドレスが取りにくくクラブをソールする事もできませんので、とても難易度
の高いショットが要求されるのです。結果的に多くの打数を失い急がば回れに
なりかねません。
このように科罰型設計ではハザードから逃げる事が最善の方法でしたが、戦略
型設計では場合によっては勇気を持ってハザードに立ち向かって行くことも
可能になったのです。逆に言えば戦略型設計のホールを攻略するためには、
ティーインググラウンドでの状況認識と決断が是非とも必要なのです。
ハザードの置き方とは直接の関係はありませんが英国ゴルフ場設計家協会では、
ドッグレッグしているホールは全て戦略型に分類する意見が大勢を占めています。
ティーショットでフェアウエーを狙うためにはハザードの有無に係わらず、
各自の持つ距離と方向性を勘案しなければならないからです。

 さて米国がゴルフ大国になった半世紀前頃から英雄型(ヒロイックタイプ)
設計というパターンも現れてきました。
このタイプは戦略型設計の一種という見方もあるのですが、ハザードを飛び
越す事に重きが置かれ、成功した時の見返りも大きい所に特徴があります。
池を絡めたパー5のホールなどで良く使われ、大きなキャリーボールで一気に
池をまたぐ事ができれば2オンが可能になりイーグルチャンスもうまれる。
といったギャンブル性の強い手法です。
英雄型設計は戦略型設計の持つ『ハイリスク&ハイリターン』という側面を
強調して登場した訳ですが、基本的に強打者に有利なレイアウトになりがち
ですし、不幸にもハザードを飛び越す事に失敗した場合は科罰型のフェアウエー
横のバンカーよりもずっと手痛い罰を覚悟しなければなりません。

 実際のコースではプレーヤー毎に飛距離もミスの傾向も違う訳ですから、
ホールの捉え方が違ってくるのは当然です。同じホールでも調子の良い日には
戦略型のホールに見えていたのに、当たらない日には科罰型に見えたりしますし、
スライサーとっては典型的な科罰型に感じるホールはフッカーにとっては英雄型
である場合が多いのです。
さて、最初の『フェアウエーの真ん中にナイスショットをしたのに、バンカー
に捕まってしまった。こんなコースは良くない』という命題をもう一度考え
直して見てください。きっと聡明な読者の方々はこの命題に疑問を感じて
下さると思います。それこそが今回の私の目的なのです。