株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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 月刊ゴルフメイト誌 2004年9月号                出版社:丸善
  「迫田耕のアカデミック講座」(連載第22回)

ゴルファーの理想的な体型
アテネオリンピックを見ていると、同じアスリートでも競技によって其々望ましい体型が違っているようです。
そこで今回は、ゴルファーのタイプを色々考えてみたいと思います。
1980年代ジャック・ニクラウス全盛時代には、理想的なゴルファーの体型について以下の様な事が言われていました。

身長は180cm内外で高くも低くもなく(当時の米国人男性の標準)、肩を回しても
顎にぶつからないように首が長いか撫肩で、大きなアークを描けるように手が
長く強い背筋力が必要なので胴体も長く安定した土台を作るために足は短く
あるべきだ。

さらに、バードングリップ(オーバーラッピンググリップ)を採用する右打ちの
プレーヤーでは、じゃんけんのパーを出した状態(指を全部開いた状態)から、
左手は中指と薬指と小指が、右手は中指と薬指を意識的に引っ付ける事が可能な
人が上手になれる、と信じられていたのです。

80年代に言われていたゴルフ競技に適した身長は、当世随一のプレーヤーだった
ジャックニクラウスを標準解にしようという意図が強く感じられますが今でも
背の高いプレーヤーがショートアイアンを持つと多くの場合球に覆い被さり
過ぎるので苦手意識があるようですし背の低いプレーヤーラフの中からロング
アイアンを打つのを躊躇する事が多いようです。

確かに身長が高すぎると、目とボールの距離が遠くなるのでダフリやトップが
多くなり低すぎると横振りになるのでクラブヘッドのトウ&ヒール方向のスが
増えるといった経験則は存在するようです。しかし、クラブの長さを変えたり
ロングアイアンをショートウッドに持ち替えるなど、工夫すれば幾らでも方法が
ありますので、現代では余り問題視される事はありません。要は自分の特徴に
あったクラブセッティングをする事によって、背丈の問題は克服できるように
なったのです。

首が長い事や撫肩の件は、ゴルフスイングが体の捻転を伴う運動であるためか
現代でもある程度真実ですしかし効き目が左目の場合は、ジャック・ニクラウスの
ように顔を飛球線後方に傾けた状態でバックスイングを始める事(チンバック)も
可能ですしその後レッドベターなどが提唱し始めた顎を突き出す(チンアップ)
アドレス方法でも解決可能ですのでいかり肩のプレーヤーも悲観する事は
ありません。

手の長い事は確かに有利かもしれませんが、長いクラブを使えば同じ事ですし、
現代の軽いクラブを使えば有利不利が逆転す可能性さえありその証拠に最近の
飛距離増大は目を見張るものがあります。標準的な統計ですが、腕1本の重さ
体重の8%ほどあり、両腕を合わせると10kg以上あります。(因みに頭部は8kgほど
です。)

つまり、重い腕の代わりに軽くて長いシャフトを使えば、胴体にかかる負荷が
なくて速い回転が得られる訳ですそのことから考えると高々200gのドライバー
ヘッドの軌道を云々するよりも腕とクラブを合わせた質量系の運動を解析する方
が飛距離UPには有益だと思うのですが、そのような論点は見た事がありません。
最後の胴が長い事や足の短い事など、犬や猫の品種改良じゃあるまいし、ほっと
いてくれ!と言いたくなりますネ。

さてこれまで述べてきた人体寸法ばかりでなく、別な特徴も度々話題に上ります。
一般的にせっかちな人は早いテンポのスイングになりがちで、おっとりした人は
ゆっくりとしたスイングテンポが合っている。とか、筋肉質の人は小さなバック
スイング、体の柔らかい人は多少のオーバースイングでも構わないともわれて
います。また、手の大きな人はコックを良く使うプレーヤーになりやすく、指の
短い人はパームグリップに近くなるので正確性の高いプレーヤーになりやすい。
とか、アドレス時に肘が外側に向く人はスライサーが多く、逆に肘が内側に向く
サル腕の人はフッカーが多いなどとも言われています。
 
これらとは別に、加齢による飛距離の経年変化も考えておかなくてはなりません。
先日往年の名プレーヤーに伺った所では、40歳を境に10年毎に1割程度の距離を
失うが、道具の進歩がそれ以上のスピードで進化してきたので70歳になった
今が生涯最長の飛距離を誇っているのだそうです。

これらの意見は其々膨大な経験則に基づいて言い伝えられてきた事ですから、
ある程度の傾向は捉えているのでしょうが、ゴルファーの肉体的な特徴だけでは
不足だと感じるのは私だけではないでしょう。つまり身体的な特徴だけではなく、
もっと別の上手になるためのゴルファー気質なるものも存在しそうです。

そこで、ゴルフ上達曲線なるものを考えてみると面白い事が判ります。
飛距離について見ると、技術の上達や道具の進歩によって階段状の変化をします。
また若者は別として壮年以降は加齢に伴って体力が緩やかに衰えていきますから、
滑らかなカーブを描きそうですところがスコアーに直結する、ショートアプローチ
やパットの数は今まで述べてきた事例とはまったく別の不思議な変化をする事
が多いのです。

確かに飛距離が伸びて基準打数でグリーンを捉える事が多くなると(スコアーで
換算すると80から90の間)パット数が増える傾向があります。これはグリーンの
端に乗るようになったためロングパットの機会が増え、3パットが多くなる事が
原因ですから、アプローチ数とパット数の合計を吟味すれば、着実な進歩過程
示されるものです。

今の話しはそれとは別の現象ですこの現象を、今までは視力の衰えなど身体的
な原因に答えを求める事が多かったのですが本当はもっと奥深い人間性や個性と
言ったものが関与しているのではないかと思うようになりました日常的な仕事や
家事でも、初めから何でも器用にこなす人もいると思えば、最初はうまくいかなく
ても良く練習して徐々に上手
なり熟練の成果が著しい人もいます。ウサギと亀の
話を思い出しますが、前者のタイプは才能で勝負するためか、練習の効果が表れ
難い事が多いようです。

さて最後にオリンピックのマラソン選手と短距離走の選手が追いかけこしたら、
どちらが勝つでしょうか?答えはどちらの選手が追う側になっても、必ず相手
追いつく事が出来るのですこの一見矛盾したように思える命題そのまま
ゴルフにも当てはまり、興味が尽きる事はありません。