今回は、ゴルフボールの飛距離とスピンの関係について考えてみましょう。
ゴルフボールの飛び方を決める三要素は、初速・スピン・方向です。
無論これは同一気象条件下の話で、風の影響や大気圧、温度や湿度は考慮されておりませんし、ボール其の物の性能差も考えられていません。何よりも、プレーヤー毎のヘッドスピードやプレースタイル
による適正は、論じられる事がありませんでした。しかも、メーカー毎の宣伝文句も
まちまちで、何を基準に選んでよいのか判り難くなっているようです。始めに
ドライバーで打つ事を例にとって、ボールメーカーの主張とクラブメーカーの
主張がどのように変わってきたか、初速に関して見てみることにしましょう。
旧来ボールメーカーの基本的な考え方は、強打者はより硬いボールを使えば
飛距離が伸びるというものでした。インパクトの瞬間にボールが変形する量を、
効率の良い潰れ具合に抑えるためには、余り変形し過ぎない方が良いと考えられ
てきたため、強打者は硬いボールを使う事が推奨されてきたのです。
しかしクラブメーカーの方は、当初カーボンやジュラルミンをインサートに使い、
フェースが硬ければ反発力が増して飛距離が伸びると宣伝していました。つまり、
球をより変形させた方が飛ぶと言う訳です。ところが最近は、フェース面を故意に
撓ませる事、つまり柔らかいフェースはトランポリン効果が働き初速が増す、
という説明に宗旨替えしたようです。最近のボールメーカーとクラブメーカーの
主張は、「ボールの潰れ具合とフェースの撓み具合を最適化する」という其々違う
意見ですが、結果的に見れば同じことです。
さてスピンの方はどうでしょうか?
練習場で使われているレンジボールはコースボールに較べて柔らかく潰れ易いの
ですが、練習ボールの方がコースボールに較べて、ドライバーで打ってもウエッジ
で打っても、スピンが掛かると思っている読者はどれだけいらっしゃるでしょうか。
実際ボールメーカーの検証結果でも変形の少ないボール、つまり硬いボールはより
スピンが掛かりやすいとされているのです。感覚的にアプローチなどで柔らかく
感じるボールは、スピン量が多いように思いがちですが、事実は逆のようです。
スピンの役割は地面を掴んですぐ止まる事ばかりでなく、飛距離に関しては弾道を
決めるという大きな要素もありますので、少し説明をしておきましょう。
私が大学生の頃(30年も前)に勉強した力学の教科書では、ゴルフボールを含む
回転球の空力特性はマグナス効果と呼ばれ、ディンプルによって空気抵抗が半減
され、最大ではゴルフボールの重量に匹敵する揚力が得られる。と習った記憶が
あります。
当時はスモールボールからラージボールへの転換期で、空気抵抗の中でも前投影
面積が飛距離に及ぼす影響が大きいことを実感しておりました。因みに現代でも、
深いディンプルが沢山あるボールは前投影面積が小さくなりがちで、低く飛距離の
出るボールになりますし、浅く角張ったディンプルは高い弾道になり易いと言わ
れています。ゴルフは何が何でも飛距離を出したいドライバーショットだけでなく、
高い弾道でピン傍にぴたりと止めたいショットも必要ですから、ボール選択は
悩みが尽きません。
最後は方向の問題ですが、飛び出す角度などの難しい問題は割愛して、ボールの
均一性の問題をお話しておきましょう。これは私自身も以前、試合前日の晩行って
いた方法で、試合球を決める目的で始めたものですが望外の用途があり、読者の
皆さんにも条件付でお勧めします。用意するものは、ボールと油性サインペン、
台所にあるボールと塩だけです。
8分目まで水を張ったボールに、ゴルフボールが浮かぶまで塩を溶かし(結構大量に
使います)、浮いたボールの頂点をサインペンで突いて塩水の中に押し戻します。
この作業を1つのボールについて数回繰り返すと、ボールに幾つかのサインペンの
印が付くと思います。良いボールは表面にランダムに印が付きますが、ボールの
コア部分が偏心している物では軽い部分に固まって印が付くのです。無論メーカー
の製品検査に合格した物ですので、ほんの僅かな誤差で気にすることも無いのかも
しれませんが、精神衛生上の理由で試合には使いたくありませんでした。
ひょっとして真っ直ぐ転がらず、勝負の掛かったパッティングを外すのではないか
と疑心暗鬼になり、これらは練習ラウンド用のボールに回していたのです。問題は
その割合で、糸巻きボールでほぼ半数、2ピースボールの時代になっても4/1は
何らかの問題がありました。最近は、大量の塩分を下水に流すと環境負荷が増大
するため、実験を差し控えているので判らないのですが、ボールメーカーに勤める
友人に聞くと、随分と工作精度が上がったようなので安心しています。
この実験の利点はもう1つあり、同じ塩分濃度で違うメーカーのボールを較べると、
片方は沈んだままなのに片方は浮いてしまうという現象が起こります。ブランドに
よって内部の構造が違い、結果的に比重が違う事が原因ですが、言うまでも無く
沈んだままのボールは重量の割に体積や表面積が少ないわけですから、風に強い
低い弾道がでる可能性があります。
逆に浮くボールは、ロングアイアンでも高い弾道を期待でき、硬いグリーンを持つ
コースでは強い見方になってくれそうです。ボールメーカーの援助を受けない代りに、
ラウンド毎に使用ブランドを変えられる我々アマチュアは、明日の天気やコース
攻略法を思い浮かべながら、前日の晩から色々と楽しめるので、ある意味でとても
幸せですが、日本メーカーの高価なボールの希望小売価格には納得がいきません。
個人的には80前後で廻る経験豊かなプレーヤーでも、現代の高度に工業化された
均質な新品を使う限り、3つで1000円程度のボールで充分な性能を持っていると
思います。ここでトーナメントに出てくるような上級者のボール使用法についても
考えておきましょう。
一般的に彼らは1ラウンドで3つのボールを使用するそうですが、ホール毎に
ボールをチェンジするそうです。これは主に気温とボールの温度を平均化するのが
狙いです。ポケットの中と外気温の違いが大きいと、使い古したボールから新しい
ボールに変えた直後の温度差で、飛距離のばらつきが出るのだそうです。3つの
ボールを順番に使っていけば、その誤差が平均化され、最小限に抑えられるという
のが彼らの主張ですが、素人目から見ると効果があるかどうか判りません。
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