株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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 Choice誌掲載 (4) 2000年9月号 Vol.117    出版元ゴルフダイジェスト社

ポール・ローリー

チョイス(以下、C
  昨年の全英オープンで劇的な優勝をしてから、一躍有名になったように書か
  れる事が多いみたいですけれど、実はジュニア時代から『アバディーンに
  ポール・ローリーあり』と言われていたんですよネ。

ポール・ローリー(以下、P
  ゴルフはたぶん6歳か7歳の時に父に習って始めたのが最初です。確かに子供
  の頃から体も大きく、飛距離も出ていました。ただ地元で有名といっても
  北スコットランドのアバディーンという地方都市のことですから、イング
  ランドの人達は知らなかったと思います。ジュニア時代の戦歴はスコット
  ランド内に限られていますので、田舎のガキ大将みたいなものでしょう。

C 故郷はどんなところですか?また子供の頃はどんなことをして遊んでいたの
ですか?
P アバディーンの冬は、雪が積もる事はまれですがとても寒く、ゴルフどころ
ではありません。その代わり、夏は日が長いので学校が終わってからたっぷ
り遊びました。
ゴルフ少年にとってまず最初に覚える遊びがグリーン廻りの必殺業でしょう
7番ぐらいのアイアンを短く持って、ほんの少しフェースを開いたままにし
ながら全くスピンの掛かっていないボールでアプローチするようになります。
友達と、この必殺業でアプローチ合戦をやりながら徐々にゴルフにのめり込
むようになるのです。
C それでスコットランドのリンクス育ちのゴルファーは転がすアプローチが得
意なのですネ。
P 風の中で硬いグリーンを攻略するには一番確実な方法ですから。でも少年時
代の私の自慢は必殺ロブショットだったんですよ(笑い)。
C その当時のアイドルは?
P テレビで見ることのできるアメリカのプロゴルファーは、手当たり次第真似
してみました。
でも今から思うと半袖でゴルフをする人達はみんなアイドルだったのかもし
れませんネ(大笑い)。
C ゴルフはお父さんに手解きを受けたそうですが、現在もお父さんに習ってい
るんですか?(笑い)
P いえいえ 先ほど紹介したアダム・ハンターがコーチです。
彼はアドレスの微妙な矯正やスウィング中の姿勢のチェックだけでなく
テンポを大切に考えてくれます。
私はゆったりとした大きなスウィングを目指しているので、これからも
2人3脚でやっていきます。
C 球筋は標準的な高さで、ストレートボールかほんの少しドロー回転のかかっ
たボールを打ってますネ。
P 現在のヨーロッパツアーで戦っている仲間の中では中庸の高さでしょう
飛距離に関しても260yardのキャリーというのは平均的で、特に飛ばすほう
ではありません。もちろん飛ばそうと思えば300yard近くまでは打てるの
ですが、コントロールと2打目のショットマネージメントとの兼ね合いから
260〜70yardに目標を設定することが多いようです。
球筋に関しては、ストレートに目標を狙います。ツアープロにとって球の高
低やフェードやドローの打ち分けは、それほど難しいことではありません
ライの状況にも依りますが、グリーンに着地してからの球の動向も加味して
球種を選択する必要があるのです。一般的に見て、ギャラーリーに判るほど
球を曲げるのは、特別な意図がある場合か明らかなミスショットです。
C パッティングについては?多くのプロが言っているように、スライスライン
の方が難しいですか?
P すみません。スライスラインとはどのような意味ですか?
C あっ!ごめんなさい。左から右に曲がるパッティングの事を、日本ではスラ
イスラインと呼んでいるのです。
P へぇー。面白い表現ですね。
私自身はどちらに曲がるパッティングも均等に練習しています。ただドロー
ボールでグリーンを捉えると、左から右に曲がるパットが残りやすい事も確か
です。それもあって可能な限りストレートボールを打とうとしているのです。
C ところで、あなたにとってゴルフの魅力とは何ですか?
P ライダーカップのようなチーム戦はまた別の面白さがあるのですが、1人の
ゴルファーとしての立場から見ると、自分のプレーに自分自身が責任をとる
ゲームに魅力を感じています。私は根っからの競技志向なのでしょうが
別に対戦相手を徹底的に打ちのめす事に魅力を感じている訳ではありません。
チーム戦に関しては、チームの為に各自がそれぞれの役割を全うし、それを
お互いに称えあう雰囲気が魅力です。チームの期待と信頼が私に別の力を与
えてくれるような気がして、とてもエキサイティングです。
C これは編集長からの質問なんですが、低いボールはどうやって打つのか詳し
く聞きたいのですが?
P これはレッスン記事なのですか?(笑い)でも編集長の直々の質問とあらば、
少し詳しくお答えしなければなりませんネ。
ボールを右足の方に寄せて、1番手長いクラブを使い、柔らかく打つ。
と言うのが基本的な動作なのですが、その前にどのような状況で低いボール
を打つのか、考えてください。
ピッチングウエッジを使ってグリーンに噛みつくようなスピンボールを打ち
たい場合と、向かい風の影響を最小限にする低い弾道が欲しい場合では
全く違った動作になるのです。
技術的により高度なのは向かい風に向かって打つの場合なのですが、そこで
起こりやすいミスを2つ紹介することがヒントになると思います。
1つ目のミスは、球が低く飛び出すのですがすぐに左に曲がり始め、貴重な
1打を失うものです。これはタイミングがずれて手首が返ってしまうか、又
はリストを固定しようとしすぎて肩の捻転が不十分になることが原因です
2つ目は、同じく低く飛び出すのですが、途中から急激に舞い上がり予定し
た距離に届かないミスです。鋭く打ち込みすぎてバックスピンが多めに
掛かった事が直接の原因ですが、球の置かれているライの状況判断に本当の
原因があることが多いのです。
インパクトの時にクラブヘッドが下向きに加速しながらボールとぶつかると、
クラブフェースとボールの間で予想以上の摩擦がおきてしまいます。つまり
ふかふかした芝の上にボールが乗っているような状況で、スウィングの最下
点の判断を誤ったときに、この舞い上がってしまうボールになりやすい訳です。
 実はこの打ち方を極端にしたものが先ほど話に出たピッチングウェッジな
どを使ったスピンボールです。
ボールを右足の方に置き、手首の動作を制御しながら鋭く打ち下ろすと
低く飛び出すスピンボールが得られます。逆から言えばこの打ち方は下向き
に打てる余裕のあるふかふかしたライでは打ち易いけれども、硬いライでは
使いにくい訳です。
先ほどの低く伸びのあるボールは、夏場の乾いたリンクスコースの硬いライ
からは案外と打ち易いのです。
(彼は説明しながら左手でインパクトの動作を繰り返している。左手甲を
くの字にして左肘と共に固定し、斜めに打ち下ろすしぐさが彼の言わんとし
ている動作なのだろう。)
 つまり、風のなかを突進してくれる低くて伸びのあるボールは、球の横面
にクラブフェースを平行に擦りつけるようにして打つのです。
C 今年からキャロウェイとナイキを使っていますが、キャロウェイのクラブの
使い心地はどうですか?
P ドライバーのホーク・アイは何よりも楽なクラブです。私はロフト10°の
クラブを使用していますが、自分に合ったロフトを選ぶことによって吹き上
がらない強い球が打てるので、横風のホールでも曲がり幅が少ないようです。
C 260yard以上のキャリーボールを打つにしては、思ったよりロフトのある
クラブを使っているのですネ。
アイアンのX-14はどうですか?
P ショートアイアンのソールが薄くカーブしているので抜けが良いように感じ
ます。またブレードが少し短いため、私のようにブレードタイプから移行す
る場合にも最小限の違和感で済むのも良いところです。またトップラインが
丸くなっていてシャープに見えるので、上級者にとって使いやすいクラブだ
と思います。
C シャフトについてはどうですか?実は私も先日X-14を買ったのですが、ライ
フルシャフトを注文すると6週間かかると言われました。
P X-14に標準で付いているコンスタントウエート・スチールシャフトは、腰が
あってとても良いシャフトだと思います。私は現在ライフルの6.8に統一
していますが、このシャフトはとにかくパワフルな印象です。キャロウェイ
のクラブにスチールシャフトを組み合わせる場合、ネック部分の処理が難し
いので全て本社工場に直接オーダーを入れるのだと思います。それでそんな
に時間がかっかてしまうのでしょう。
C ところで、X-12のレス・オフセットはどうですか?ハンデが5以下のキャロ
ウェイを使っている連中は、みんなライフルの6.0と組み合わせて使ってい
るようですが?
P 実はX-12は未だ使ったことがないので何とも言えません。私は去年キャロ
ウェイのチームに入ったばかりなので、X-14しか使ったことがないのです
C ウエッジについては?
P キャロウェイのX-14のピッチングに加えて、クリーブランド・クラシック
TA588の53°のピッチングとタイトリストのボーケーデザイン59°のサンド
を使っています。
C フェアウエー・ウッドはキャロウェイのスチールヘッド・プラスの3+ですネ?
P はい。それと7番ウッドを入れています。シャフトは1Wも含めて標準のBB-UL
シャフトです。
C えっ!あなたのような強打者が7番ウッドですか?
P アイアンは2番からですが、3番を抜いて7番ウッドで代用しているのです
距離の長いセカンドショットで、ピンフラッグを攻撃的に狙っていくには
弾道の高さが欲しいからです。
パターはオデッセイのホワイトホットでボールはナイキのアキュラシーです
この組み合わせは柔らかい感触で私の好みに合っています。
それからライ角度もロフト角度もなにも手を加えていません。どこの
プロショップでも手に入るものです。
C 今まで何度となく聞かれてうんざりしているとは思うのですが、日本の読者
にとっては初めてなのです。去年の全英オープンの事をもう一度聞かせて
ください。
P うんざりなんてとんでもない。喜んでお話しします。おっしゃる通り何十回
となく取材を受けたので、この話題に関しては口下手な私でもすらすらと
話すことができるようになりました(笑い)。
 最終日のスタート時点で、私と首位のジョン・バン・デ・ベルデ選手とは
10打差がありました。
最終日まで残っている選手だったら全員そう思っていたと確信していますが、
『自分は六位入賞を狙うために此処にきたわけじゃない。優勝してみたい
と私も思っていました。しかしあまりにも非現実的な目標だったので
『最後まで最善を尽くすそう』と心に決めてスタートしたのを覚えています
結果的に私は67で回る事ができましたが、スコアーカードを提出した時
『勝負は未だ終わっていない』と誰かが囁いたように感じました。
それで練習グリーンに直行して一心不乱に練習したのです。
ジャスティン・レナード選手とバン・デ・ヴェルデ選手と私の3人で4ホール
のプレーオフを行うことになった事は、練習グリーンの上で聞きました
でもこの時、すでに私は自分が優勝をすると判っていました。
あの時の事は今から考えてもとても素晴しい体験でした。
C 勝利を確信したのはプレーオフの3ホール目つまり17番ではなかったんですか
英国の雑誌にはそのように書いてありましたが?
P 実は、何度もあのときの体験を思い返しているうちに、プレーオフの4ホー
ルが私にとっての凱旋行進だった事に気がついたのです。
C 良い話ですね。ところで全英オープンの覇者になってから、生活やゴルフは
変わりましたか?
奥さんのマリアンさんがが『人はお金で変わってしまうものだけど、私の
ポールは変わったりしない』と言っていたのを雑誌で見ましたが?
P とても難しい質問です。
トーナメントプレーヤーの場合、朝ゴルフ場に到着してからスタートするま
でにおよそ200人位の人と挨拶します。大概は『おはようございます
調子はどうですか?』
とかいった他愛のない会話なのですが、ジ・オープンのチャンピョンになって
から、その1人1人が特別な感情を持って接しているのがよく判ります。最近
やっと慣れてきましたが、一生懸命に答えているとスタートする前に
へとへとになっていました。
でもプロゴルファーとして光栄な事ですから、できるだけ誠実に対応するよ
うに心がけています。
 ゴルフプレー中での変化は、自分のプレーに必要な時間を安心して取れる
ようになりました。
考えて見てください。もし私が無名のプロのままだったとして、グリーン
ジャケットを着たことのあるプレーヤーと一緒にプレーしているとしたら
ゆっくり時間をかけてトラブルショットに対処する余裕などあるでしょうか?
もちろん過去の戦歴などトラブルショットの役には立ちませんし、競技者と
して同伴プレーヤーに怯える必要などないことは判っているのですが、平静
な気持ちを維持するのはたいへん難しいことなのです。
私はその事も含め、できるだけ相手のプレーを見ないように努めています
C 今日はほんとにありがとうございました。このインタヴューで日本の読者に
ポール・ローリーのファンが増えると思いますよ。
P それは何よりです。日本の皆様に宜しくお伝えください。
C (プレーオフで敗れたジャスティン・レナードは『あいつがスコッツマンだ
という事が良く判った』と呻くように言ったという。
頑固で朴訥なスコッツマンは同時に心優しい狩猟民族でもあるのだ)