株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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 Choice誌掲載 (5) 2001年1月号 Vol.119    出版元ゴルフダイジェスト社

スコットランド ナウ
 今回スコットランドを案内してくれるのは、グラスゴー出身のミスター・
ジェイミー・シャープ(Jamie Sharp)。
私の同級生で若きゴルフ場設計家です。私達は今年の4月に英国ゴルフ場設計
家協会(BIGCA)のプロフェッショナル・ディプロマを卒業して欧州ゴルフ場
設計家の仲間入りをしたばかりです。
 足掛け3年前に入学した時イングランド2人スコットランド1人ドイツ2人
アメリカ1人、ギリシャ1人、日本1人の合計8人いた生徒は、卒業時には4人
になってしまいました。
スコットランド出身のジェイミーはとても博学で論文ではいつもトップでした
し、ゴルフもハンディキャップ1の腕前です。さらに両親共ハンディキャップ1
までいったトップアマチュアで、特にお母さんは昨年までロイヤル・ツルーン
のレディースキャプテンだった人です。
今回のスコットランドの案内人に、彼よりもふさわしい人材は見当たりません。

080  彼の卒業論文は、『ゴルフコースの管理費用を安
く抑える為にはどのような設計をするべきか?』と
いう難解なテーマでしたが、その論文の中でゴルフ
コースに利用されていないリンクスランドの写真が
あり、私達を始め教官も皆びっくりしました。
スコットランド内でも大概のリンクスランドは開発
されてしまい、この写真(場所は秘密)のような所
は少ないはずです。でももし開発が可能であるとし
たら、たぶん4億円位でクラブハウスまで建ってし
まうでしょう。現在の英国内でのゴルフ場の新規開
発費は用地代やクラブハウスを含めて8億円程度ですから随分と安くできる訳
です。(因みに日本では何故か100億円程度です)
設計家としてジェーミーがやるべき仕事といえば、トム・モリスがやっていた
のと同じようにクラブハウスからの道順を考えて、グリーンとティーの位置を
決める事だけなのです。
この写真に写っているバンカーの原形を眺めていると、我々設計家が等しく求
めていた物に出会ったような気がするのです。
 それでは前置きが長くなりましたが、ジェーミーにバトンタッチすることに
しましょう。何といっても土地っ子にはローカル・ノレッジがあるのですから。


 初めまして、コウとはBIGCAの中でもとても仲がよかったので、一緒に卒業
できて嬉しく思っています。
ヨーロッパゴルフ場設計科協会のメンバーの一員になったとは言ってもすぐに
仕事がある訳ではありません。当分は今までやって来た土木監理の仕事との二
足のわらじになりそうです。
 さて、スコットランドの現在のゴルフ環境をレポートする前に、ここの気候
や地理的な条件を整理しておきましょう。
エジンバラやグラスゴーはスコットランドの中でも比較的南に位置しているの
ですが、それでもロンドンから700km程北にあります。夏は朝の3時ごろから夜
の11時近くまで明るく睡眠不足になる程ですが、冬は暗くて雨が多く憂鬱な季
節です。緯度が高い割には暖流の影響で暖かく、雪が積もることは稀です。

 次に、リンクスについてもきちんと説明しておかなければなりません。
 ミュアフィールドの航空写真をご覧になって判るように、リンクスランドは海岸線の砂浜と平坦な農耕地との間に細長く伸びた砂丘地帯の事を言います。インターネットなどで『リンクを張る』などといいますが、それと同じように海岸と農地をリンクさせる場所と
言う意味からリンクスランドと呼ばれるようになったのです。
 この砂丘に草が生えただけの場所は、起伏がありすぎて農耕地には適しませ
んが、家畜の放牧地としてならばなんとか使えたようで、羊飼い達が原始的な
ゴルフを始めたことはご存じの通りです。
 このリンクスランドに自生する草はイネ科の植物で、冬でも藍い麦の仲間です。
それもあって羊の放牧に使われたのでしょう。現在でもスコットランドのリン
クスコースはベント芝やフェスキュー芝といった麦の仲間の芝が主体です。
一方日本に自生している高麗芝はアメリカ南部のバミューダ芝などと共に、同
じイネ科でも稲の仲間で寒くなると冬眠してしまうのです。前者を冬芝、後者
を夏芝などとも呼んでいます。

 さて、リンクスランドや砂丘地帯ができる条件を考えて見ると、砂を供給す
る川と、その砂を海岸に押戻す波と風が必要でしょう。
セント・アンドリューズを中心にしたスコットランド東海岸は、大きく見ると
2つの河に挟まれた入江のような格好をしていて、これらの条件にぴったりの
場所です。
その為ばかりではないのでしょうが、少なくとも15世紀から19世紀の半ばまでは、
ゴルフはこの地方(北のカヌースティーから南のノース・バーウイック)だけ
で行われていた郷土娯楽だったのです。
 1851年にセント・アンドリューズ出身のトム・モリスがプレストウイックに
プロ兼グリーンキーパーとして雇われた時から事態は一転します。
スコットランド西海岸にも素晴しいリンクスランドが在ることに気が付いた彼は
次々とゴルフコースを設計し始めました。それはそのまま当時のグラスゴーと
エジンバラの経済力の差を顕わしていたのです。
 全英オープンが1860年から開催されるようになると、もう流れは止まりません。
スコットランドの海岸沿いのリンクスランドばかりでなく、イングランドへと
ゴルフが拡大していくことになりました。この過程で交通機関とリンクスラン
ドの開発は表裏一体で、鉄道の敷設がしやすい海岸沿いから順に開発が進んで
いったという事情もあるのです。
 ただ、海辺のゴルフコースだからと言っても全てがリンクスコースという訳
ではありません。
たとえば切り立った断崖絶壁の上にあるコース(素晴しい景観を持っていると
は思いますが)ではリンクスランド自体が存在しませんから、リンクスコース
とは言えません。シーサイドコース又はクリフコースと呼ばれています。
 現在のスコットランドでは、リンクスコースを含めたシーサイドコースは
ほぼ開発されてしまい、後に開発されたインランドコースの方が数の上でも圧
倒的に多くなっています。
また近年、湖を使った美しい水辺のコースが開発され始め、高額のプレー
フィーも含めてロッホ・ロモーモンドなどが話題を集めています。

047 ところで、『イングランドではプライベート倶楽部の個人会員で、ハンディキャップが18以下の人達をゴルファーと言い、ハンデキャップ21とか24の人達のことはノービス(未熟な)ゴルファーと呼んで区別しているみたいですけれど、スコットランドでゴルファーと呼ばれるのはどんな条件が必要なんですか?』という質問を受けることが
あります。
ゴルフ倶楽部の会員であることは当然ですが、誤解を恐れずに正直に言えば、
スコットランドでゴルファーと呼ばれるのはハンディキャップが5以下の人達
です。子供の頃からゴルフをやっているので、少年時代にシングルハンデ
キャッパーになる場合が多く、青年になるまでに精進した人はスクラッチか3
以下のハンデになるし、仕事や勉強たまに女性とデートするのに忙しかった人
は8ぐらいのハンデに止まると言った具合です。ですからスコットランド人が
『私はゴルフをする』と言ったら間違いなく彼は3以下のハンデキャップです。
『私のゴルフは、お遊び程度です』と言ったら彼のハンデは6か8ぐらいで
しょう。
普通真面目にゴルフに取り組めば、シングルハンディには2〜3年でなります。
この先に5以下と3以下と1とスクラッチという4つの関門があると良く言われて
います。私の場合も3までは順調に来たのですが、1になるまでに3年かかり
ました。
 やっと両親と同じハンディキャップになった訳ですが、ゴルフの内容や考え
方は随分違います。
父は飛距離はそれ程でもないのですが、ウエッジでゴルフを組み立てて行きます。
ですからグリーン回りのプレーッシャーのかかる場面を経験する事が多く、
ゴルフの情緒的な部分に引かれてきたようです。そのせいかゴルフに関する書
物を読みあさり、結果的にゴルフ書籍のコレクターになってしまいました。
私はドライバーが得意なので、何処にティーショットを運べばよいかいつも考
えていました。それでコースの戦略的な側面に興味を持つようになり、コース
設計を学ぶようになったのでしょう。
母は社会派ゴルファーとでも言うのでしょうか、倶楽部の運営や競技会の準備
などには随分エネルギーを使うのですが、自分の使うクラブに対しては殆ど
無頓着です。
 面白い話があるので紹介しましょう。たまたま前日に練習した父が、自分の
ドライバーを間違えて母のキャディーバックの物と差し替えてしまいました。
彼女は黒く塗装されたヘッドにカーボンシャフトのドライバーをずっと使って
いたのですが、父の物はメタルヘッドに硬くて重いスチールシャフトでした。
彼女はその日とても調子良く、5番ホールまでに2バーディー1ボギーの1アンダー
だったそうです。6番ティーグラウンドでワッグルをしながら『あらこのドラ
イバーは銀色だワ』と始めて気が付きました。それで自分のバックの中に規定
本数以上のクラブが入っていない事を確かめると、その後も彼女は父のドライ
バーで調子良くプレーを続け、あと1つバーディーを重ねて結局3アンダーで
その日のプレーを終了したそうです。
父や私はクラブのスペック、特にシャフトの調子にとても神経質で、年中クラブをいじくりまわしているのに、母は全く関心がありません。それでも5
オーバー以上たたくのは稀ですから、
今度は子供用のプラスチックのおも
ちゃのドライバーを入れてみようと父と企んでいるところです。スコットランドでは両親共にゴルファーである家庭は、
別に珍しい事ではありません。つまり私が特別な家庭環境や境遇で育ってきた
訳ではないのです。
 鮭や鱒釣を趣味にしている人やローン・ボーリングをやる人、歴史や考古学
研究に没頭している人などさまざまな趣味があります。10年も同じ趣味を
持っていたら、その趣味に熟達するのは当然な気がします。もし未熟なまま
だったら、きっとその趣味をやめてしまうと思うからです。
 はっきり言ってスコットランドでは90以上のスコアーしか出せない人は、
ゴルフに関して意見を言う場は与えられません。さらに言うとコミッティーの
メンバーで10以上のハンディキャップしか取ったことの無い人は聞いたことが
ありません。

 スコットランドでは良く言われていることなのですが、ゴルフ倶楽部の年会
費は2週間分の給料、つまり年収の4%程が適当だと考えられています。普通の
サラリーマンは年収に見合った倶楽部にはいるでしょうし、年収の多い人は年
会費の高い倶楽部に入れば同じクラスの人と付き合え、話題も合うでしょう。
それでもたまには他のゴルフ場にも行くでしょうし、毎年新しくなる用具にも
興味があるでしょう。結果的には年収の5%以上をゴルフに費やしてしまうかも
しれません。
いくら大好きな趣味とはいっても年収の1割以上を割くのは良いバランス感覚
とは思えません。
 英国の倶楽部は日本と違って入会金が安く(年会費の2倍程度)年会費が
相対的に高いのが普通ですが、スコットランド内の一般的なコースでは年会費
の平均が500ポンド位(8万円程)だと思います。
リンクスコースは数が限られている上に開場してからの年月が経っているので
スコットランドに於いてもプレステージが高いのですが、ロイヤル・ツルーン
で母の払っている年会費は1600ポンド(28万円)程度です。コースを造るのに
あまりお金がかからない事や、プレーヤーのマナーが良いので管理費が安くて
済むのです。
 倶楽部の会員になると他の倶楽部にビジターとして出かけることは殆どあり
ません。ただ他の倶楽部の会員に誘われて、彼のゲストとしてプレーすること
はよくあります。英国ではゲストフィーはビジターフィーの半額程度なのですが、
それでも20ポンド(3200円)は覚悟しなければなりません。日本に較べれば安
いのでしょうが、スコットランド人は基本的につつましい生活を旨としていま
すし、自分の倶楽部でプレーすればお金は掛りませんから、無駄な出費は抑え
るべきです。
 倶楽部会員のカテゴリーについては、正会員、平
日会員、ジュニア会員は何処の倶楽部でもあります
が、シニア会員、終身会員、家族会員、ハウス会員
(クラブハウスの使用だけ)を持っている所もあり
ます。
さらに有名な倶楽部では地方会員(クラブハウスか
ら400km以上離れた場所に住んでいる)や海外会員
を受けいれている所さえあるのです。会員数は18
ホールに換算すると600名から800名で、900名以上
の所は稀です。
倶楽部への入会は、その倶楽部に3年以上在籍したメンバー2名の紹介とコ
ミッティーとのインタビューや同伴プレー、以前に所属していた倶楽部からの
推薦状などによって決定されますが、早くて半年、3年位待たされることが
普通です。
700名のメンバーが1年間に15名位づつ世代交替しているのですが、その数はク
ラブハウスに半旗が揚がる数とほぼ同じなのです。

 体が弱くなって自分でバックを担げなくなるまでは、トローリー(手引き
カート)は使いません。ラフに球が入った時やグリーン回りでは、トローリー
では近くまでいけないからです。ラフの中をトローリーを引きずって歩くと、
ラフの中に轍ができラフが自然のラフでなくなってしうので、フェアウエーに
トーロリーを置き、球探しをするのがお行儀です。また、雨が降って地面がぬ
かるんでいる時もトローリーは使えません。最近はダブルショルダーの軽量
バックがあるので、随分楽になりました。父の時代は雨ガッパを着てハーフ
セットでプレーしていたそうです。その名残でしょうか今でも5本マッチとか
3本マッチといった倶楽部マッチがよく行われています。

049 服装のことについて、スコットランドは似非貴族
趣味のイングランドの倶楽部に較べて喧しくはあり
ません。しかし基本的なルールはあります。プライ
ベート倶楽部の場合、肉体労働をする時のような格
好でクラブハウスに入ることはできません。つまり、
ブルージーンズ、Tシャツスニーカートレーナー
はこの意味から禁止です。
我々はプレー中にクラブハウスで食事をする習慣は
ありませんが、もし在ったら大変です。食堂にいく
度にシャワーを浴びて身支度をしなければなりま
せん。食事の場所に汗クサイ衣服のまま登場するのはとても無礼な事だと考え
られているからです。

 プレースタイルは現在でもマッチが主体です。ですからプレー時間も早く、
ラウンド4時間を越えると皆いらいらしてきます。その点アメリカ人はプレー
が遅く、今年の全英オープンでも彼等のために5時間半もかかった組もありま
した。でもアメリカ人が嫌いな訳ではありませんヨ。用具は殆どがアメリカ製
なのですから。
 ドライバーは当然ですがパターやチッパーにおい
ても、スコットランド製または英国製のクラブを
使っている人を見かけることは稀です。
確かに通信販売や初心者用の安価なセットではメイ
ドイン・イングランドも売られています。しかし技
術レベルが上がるにつれて実績のあるクラブ、つま
りテレビや雑誌にでてくるような上級者が使ってい
るクラブを使う傾向があるようです。
1960年以降アメリカ製のクラブはどんどん良く
なって、父が現役のプレーヤーだった2〜30年ほど
前には、既にベン・ホーガンやマクレガーのクラブでプレーしてしていたそう
です。
私自身もジュニア時代こそ父のお古を使っていましたが、大学に入ったときに
ピンのクラブを買って貰って以来、ずっとパターとアイアンセットはピンを
使ってきました。
ドライバーは近年色々なクラブが出てきましたので色々試していますが、結局
はタイトリストの975Dに落ち着くでしょう。殆どの上級者が975Dかキャロウェイ
を使っています。
それと、日本のミズノ製のクラブはジュニアや上級者にとても人気があります。
ただシニアで使っている人は見たことがありません。
 スコットランドゴルフの特徴といえば、必ず1番か2番アイアンがキャディー
バックに入っていることでしょう。もちろん風対策なのですが、スコットランド
人は気が短くスィングテンポも早いため、ウッドクラブが苦手だからなのかも
しれません。父は『男子たるもの2本以上ウッドを持つべきでない!』などと
言っていましたが、『男子たるもの常に靴下を履くべきだ!』という意見と
何処が違うのか判りません。

 風といえばリンクスランドの強風は有名ですが、スコットランドのプレーヤー
は風の強さや悪条件でのプレーをとても誇りにしています。だから、ピンがし
なるほどの風の日でもそよ風が気持ち良かったなどと強がってみせるのです。
球を低く打つ技術はスコッツマンならば当然持っていますが、風の日の本当の
敵はグリーンなのです。吹き抜ける風に水分を奪われたグリーンは硬くて止ま
りにくくなりますし、パッティング中に体の揺れを止めるのは至難の業です。
それに較べれば低いパンチショットやバンプ&ラン(ランニングアプローチ
などは簡単です。
 リンクスコースでの海風は何も遮る物がないため強いのですが、逆に一定の
方向に同じ強さで吹き続ける性質があります。内陸のコースでの風は強弱が付
くのが普通です。山や谷や森林などに共鳴して風が巻くからです。だからシー
サイドコースの風の方が、コツをつかんでしまえば簡単だと思います。

078 英国でも近年アメリカのゴルフクラブ量販店が続々と出店してきましたし、米国に旅行した際にクラブセットを買って新大陸のゴルフ場でプレーした後、そのまま英国に持って帰ってくる友人も沢山います。
私自身が今年の春に米国に旅行した経験からいえば、旅行中の米国内で安売りの量販店を探す手間を考えると、イン
ターネットを利用した通信販売や英国内の量販店で買ったほうがメリットが大
きいように感じました。また英国ではコースで試打してから購入するのが普通
なので、ウエッジなどは所属している倶楽部のプロショップで買う事が多いよ
うです。そのコースのバンカーに丁度良いバウンズのクラブを揃えている事と、
グリップやロフトの調整など購入した後も色々手をかけることが多く、その時
のプロとの会話がとても良いヒントになることがあるからです。
 上級者の間では極あたりまえの事として認知されている事なのですが、トー
ナメントで戦っているプロフェッショナルゴルファーよりアマチュアや倶楽部
プロの方が、多彩なウエッジプレーを要求されます。
トーナメント会場では、バンカーの砂はいつもフカフカに手入れされていて砂
の厚みも適度にあるのですが、倶楽部選手権などでは、硬く締まった砂や砂の
厚みが不均一な場所からもプレーしなければなりません。
そういう事情でトーナメントプロのウエッジとアマチュアのそれとでは違った
機能が要求され、今だに父のようにフランジの厚いベン・ホーガンを手放せな
い人が多い訳です。

 『良い当たりのティーショットをフェアウエーの真ん中に打ったのに、バンカーに捕まってしまった。このような設計はいかがなものか』と言う意見を聞く度に、いつかきちんと説明しなければと思います。
詳細な説明とその後の発展、それに関連するスタイミーやスタンダード・スクラッチ・スコアー、またボギーベース
のプレーの事は、歴史的にみてスコットランドからイングランドにゴルフが南
下した後のことですから、次回の『サリー州の3W』でコウに説明して貰うこと
にしますが、今回は基本的なハザード・レイアウトのパターンとそのフィロソ
フィーだけでも説明させてください。

 チョイスの読者ならばご存じだとは思いますが、ゴルフルールで定められた
ハザードとはバンカーとウオーター・ハザードの2ヵ所だけです。アウトオブ
・バウンズも、球を見つけるのにも苦労するような深いラフも、ルール上のハ
ザードではありません。これらもプレーに支障をきたすという意味からは立派
な障害物なのですが、現在のルールではハザードには入っていません。
極簡単に言えば、クラブをソールしてはいけない場所のがハザードです。

 ホールごとに考えて、ハザードの置かれた場所について ●ペナルタイプ
(科罰型) ●ストラテジックタイプ(戦略型) ●ヒロイックタイプ(英勇
型)の3つのパターンがある事はご存じの通りですそしてこれらのパターンの
原形はすべてリンクスコースに見ることができるので、典型的なホールをご紹
介しながら、説明してゆきましょう。

 ●ペナルタイプ(科罰型)の目的は単純です。プレーヤーが行うべきショット
以外のミスショットを罰するようにハザードが配置されたホールの事をペナル
タイプのホールと呼んでいます。リンクスコースの大多数のホールはこのタイ
プです。
フェアウエーの左右に配置されたバンカーは、スライスやフックを罰する役割
ですし、フェアウエーを直角に横切るバーン(小川)はトップして低く出た
ボールを罰する役割です。このタイプはプレーヤーが犯すミスの数だけハザード
が必要なので、ハザードだらけのホールになりがちです。またそうしなければ
不公平になるのです。一番厄介なのはプレーラインをまたぐハザードで、距離
の出せない女性やシニアに辛くなることが多いことです。
 ●ストラテジックタイプ(戦略型)は1850年にセント・アンドリューズで
アラン・ロバートソンが偶然に発見したと伝えられています。このタイプの
フィロソフィーは、複数のホール攻略ルートがあり、ショットをする前に
プレーヤーがどのルートを選ぶか決める事ができる(若くは決めなければなら
ない)ところにあります。このタイプではハザード近くに打てれば打てる程
有利になることが多く、一種の知的ゲームの要素があることが特徴です。スト
ラテジックタイプの目指すところはすべての技術レベルのプレーヤーが楽しめ
るホールを造るところにあります。無論中級以下のプレーヤーはParをあきら
めなくてはならないでしょうが、少なくとも自分であきらめる事ができると言
う自由度は与えられているのです。
 ●ヒロイックタイプ(英勇型)は3つのタイプのなかでは1番新しく、主に米
国で発展してきたパターンです。Par5のホールで使われることが多く、ロバート・
トレント・ジョーンズ・シニアの水を絡めた設計が特徴を良く顕わしていると
いわれていますが、雛型はやはりスコットランドのリンクスコースにあります。
デスモンド・ミュアヘッド氏によればノース・バーウィックの15番レダンホール
が原形なのだそうです。
このタイプはホールに複数のルート有り、ティーショットでリスキーなルート
を選ぶと、セカンドショットを有利な場所から打てるるという意味ではストラ
テジックタイプと同じなのですが、ティーショットにギャンブル的な要素が強く、
失敗したときはペナルデザインと同じことになるというのがコンセプトです。

 実際のコースではフェアウエーやグリーンの傾斜、ハザードの形態バンカー
の顎の処理などによってさまざまなバリエーションがあります。
またプレーヤーの性格や飛距離によっても受け取り方は色々なのです。

 写真に掲げたフォースブリッジは19世紀の末に建造されたものですが、エジンバラからセント・アンドリューズに向かう途中のフォース湾に架かる橋です。当時の英国の主要産業であった鉄鋼を使い、建設技術の粋を集めて造られました。総ての鋼材を延ばすとパリまで届くと評判になったそうです。
この橋はエジンバラから沢山のゴルファーを運んできたのと同時に、ゴルフの
楽しさを世界に広げてくれました。そういう意味でゴルフの王国ファイフから
エジンバラの方向の写真で私のレポートを締めくくりたいと思います。

 追伸
信じられないことかもしれませんが、英国のパブは11時で閉まってしまいます。
10時45分に鐘が鳴り、それ以降はビールを買うことができないのです。
現在6時半。まだ明るいのですが、今晩コウと飲むパブに直行する時間です。