株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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 Choice誌掲載 (7) 2004年1月号 Vol.138    出版元ゴルフダイジェスト社

農耕民族の我々にとって

 農耕民族の我々にとって、黄金色
に変色した芝は、豊穣な実りの季節を
連想させる色でもある。冷夏と長雨に
祟られ、十年ぶりの米の不作が伝えら
れた今初秋、重そうに頭を垂れた稲穂
を見て、植物しいては森羅万象の健気
な努力をいとおしく感じた。自分の死
と引き換えにしてまで、子孫を残そうとする母性は、献身を通り越して気高くも
ある。このような農耕民族独特の美意識の為か、これまで日本では枯れた芝の上
でのゴルフは疑問視されてこなかった。

 それが近年、あらゆる分野において世界標準という言葉が一般的になり、ゴルフ
の世界でもグローバルスタンダード化が意識されるようになった。
国内のゴルフ場の評価にエバーグリーンというカテゴリーが存在するようになった
のも、その表れかもしれない。先に述べたように、芝を観る、景色の変わる様を眺
めながら季節を感じ取ってきた農耕民族にとって、その移ろいをプレーしながらに
して感じられる喜びも大きいのではないかと思う。
冒頭に掲げた大原御宿の冬景色は、故井上誠一氏が晩年に設計した純日本的な美
意識の結晶だと思うが、氏はもう一方で、高麗グリーンとベントグリーンの、2グリ
ーンシステムを一般化させたことも忘れてはならない。
コースの戦略を語るうえで、ボトルネックのようにティからカップに近づくにつれ、
ホールが狭まるというコース設計の反面教師的に扱われるケースは多い。 しかし、
2グリーンシステムには、周知の通り高温多湿と芝の管理という日本の風土から
必然的に生まれたものであり、また、見方を変えれば1グリーンでは得られない利点
さえ僅かだがある。

 例えば、三好徳行氏と小林光昭氏の共作による鳩山カントリーには、2グリーン
の利点を最大限に生かして造られたパー3がある。グリーンが左右に並列し、右側
のグリーンは手前を池が塞ぎ、左側のグリーンには大きくアゴの張ったバンカー
が横たわっている。しかも、両者間隔が大きく、同じティグラウンドからでも、
構えた時の視界には狙うグリーンしか入らない。た、バックティからでも160ヤー
ド前後しかない短い距離のために通常逆のグリーンによって戦略上の恩恵を受け
られるということもない。
このように、まったく違った性質のハザードを、リーンごとに組み合わせることで、
コースの単調さを補い、季節や曜日によって二倍楽しめる要素ももっている。
た、少し距離をおいて互い違いにグリーンを配せば、その日の使用グリーンによっ
てショットルートがティグラウンド上から変化し結果的に戦略性が高まりさらに
ドッグレッグと組み合わせれば、その設計要素を強調することもできる。1グリーン
と2グリーンが混在するコースがあっても不思議ではないし、定型に押し込む必要性
など何処にもないはずだ。
日本には日本独特のスタイルがあり、それは現在の世界標準からは、少し外れている
のかもしれない。しかし、欧米の有名なコースみが我々の目指す努力目標では
ないことは明らかだし、国情や文化に合った展開を模索していく努力も必要だ。
歴史的な背景を見れば、日本のゴルフ場は神戸でその第1号が端を発してから100年
と少しでしかない。しかし、その1世紀の間に作り上げたコースの数は2300にも上る。
この数はアイルランドを入れた英国全体のコース数(約3000)に迫る。米国、英国に
次ぐゴルフ王国ともいえよう。誇りとまでは行かないまでも、ジャパンシステムに
対する意識をもっと高く持ってもいいのではないか。
はっきり言えることは倶楽部ごとに、その土地柄や地形そしてゴルフゲームの
多様性を受け入れたうえで、存続していくべきだということ。
それが充分な議論の末の物であれば、立派な倶楽部の歴史になると確信している。