株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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 Choice誌掲載 (9) 2004年3月号 Vol.139    出版元ゴルフダイジェスト社

TPC at Scottsdale

今から20余年前の70年代後半、
PGA
コミッショナーだったデン・ビーマンはプロのトーナメントを開催する事を前提したコースの可能性を模索していた。
ツアーに出場する選手の技術が向上し早晩既存コースでは練習施設やコースの難易度が足らなくなることが予想された事ーナメントの度に観客席を設営
する労力と経費を削減したかったこと、同様に毎年開催コースとの間で起こる
補償問題を回避したかったこと、一時代を築いた花形選手の知名度を生かした
別のビジネスを起こす機運が高まってきたことなどを勘案しTPC(トーナメント
プレーヤーズ・
クラブ)という組織と、新進気鋭のコースデザイナーだった
ピート・ダイを起用して、一気にスタジアムコースというコンセプトを立ち上げ
たのである。

初仕事のTPCソーグラスは80年に完成し、開場2年目の82年からPGAトーナメント
のプレーヤーズ・チャンピオンシップを開催している。

1925年生まれで当時55歳のピダイがソーグラスで試みたPGAトナメ
のコースとは、コース戦略からいえばピンポイントを結ぶようなターゲット
ゴルフの具現化であり競技運営の立場から見れば巨大マウンドを観客席に転用
することであり、それら人工的な
舞台装置と人間的なプレーヤーの苦悶の表情
との対比ドラマを、テレビ
画面上に劇的に映し出すことを目的に造られていた。
初代チャンピオンのジェリー・ペイトが「よくもこんな難しいコースを作って
くれたものだ」と言わんばかりに、ディーン・ビーマンとピート
ダイを道連れ
に池に飛び込んだことをきっかけに、TPCとスタジアムコースの人気が沸騰した
ことは間違いない。

一方でこの衝撃的なレイアウトは物議をかもし、特に17番パー3の池に浮かんだ
グリーンは常に議論の的だった。

個人的にはトーナメントティからでも140ヤード以下、つまりツアーに参戦する
ような猛者にとってはウェッジの
守備範囲であることを考えると、容認される
べきデザインであると思うが、デジタライズを嫌うアナログ
世代には現在でも
すこぶる評判が悪く、毎年1万数千個のボールが水揚げされるという。
現在、TPCのコースはリゾートクラブ(日本でいう所のセミパブリック)が10ヶ所、
プライベートクラブが15ヶ所になり、其々のコースで毎年
PGAのトーナメントが
開催されている。実に年50週前後の全米ゴルフシーズンの6分の1(今年は49
試合中8試合開催)の週で、TPCネットワークのコースがPGAツアーの開催地に
なる勘定なのだ。

それでは、TPCスコッツデールの地理的な条件などを整理してみよう。
ロサンゼルスから飛行機で1時間ほど東南東に飛び、アリゾナ州の州都である
ニックスの隣町であるスコルは、完全に砂漠の中に人工的に造られた高級住宅街である。年間降雨量は20ミリという少なさ(因みに東京は1500ミリほど)で、サボテンとガラガラヘビがマス
コットになるといえば、埃っぽい乾いた風を連想して頂けると思う。

はフェニック周辺関東平野ぐらいの大きさの巨大な盆地の中に位置し
周辺の山から吹き降ろす風が砂漠の砂を運んでくるため、コースは砂防緑地帯
の役割も担っている。

TPCネットワークは当初、ピートダイ、トム・ファジオなどの特徴的なエリート
設計家を使ってきたが、回を重ねるごとにコース造成や運営ノウハウが集まり、
TPCスタイルが確立されてくると、ジャック・ニクラス、アーノルド・パーマー、
ゲーリープレーヤーなどの往年の名選手も設計に加わり、彼らの名声をも利用
できるようになってきた。他にグレッグ・ノーマン、へール・アーウィウン、
マーク・マッカンバーなどの設計コースも全米各地に散らばっている。 
今回訪問したTPCスコッツデールは、トム・ワイスコフと設計家のジェイ
モリッシュの共同設計で、TPCとしては6番目のコースとして1986年12月26日
開場している。翌年からフェニックスオープンを開催し17回目の昨年は23アンダ
の261ストロークでビジェイ・シンが優勝しているので記憶されている読者も
いることだろう。また、この本が出る頃には新チャンピオンが誕生している
はずだ。

さてコースそのものはTPCネットワークの中では、クレジットされる設計者が純粋な設計家から往年の名プレーヤーに移り変わていく過渡期の作品だがトーナメント開催時と日常営業の両立を図り、投資効果を緻密に考えたとても良くできたコースである。
土地利用ではーナメント開催時の観客の動線が併設された住居群に及ばない
ように、あえてリゾート施設をコースのフロントナインに使用する片側に寄せて、
住人のプライバシーを守る配慮が行き届いている。
コース内では、フルバックに相当するTPCティからは7089ヤード、パー71
コースレート74.5、スロープレート136と充分な難易度確保しながら
アマチュアのビジターが使う白ティでは、6049ヤード、パー71、コースレート
68.9、スローププレート120と随分易しくなっている。これなど、大衆ゴルファー
が難しそうに見えるが実は易しいコースが大好きなことを、あからさまに具体化
している事例といえよう。
他にも、ショットの難易度に呼応したフェアウェイ幅の設定やハザードの構成も、
よく煮詰められていて飽きさせない。ま、マウンドの大きさや配置が適正で、
砂漠地帯の風情を残した周囲と調和し、摩訶不思議なバランスを生み出している。
芝種はフェアウェイグリも高麗芝と同じで冬場に枯れてしまうバーミューダ
芝を使っているが、常緑のライグラスを部分的にオドし、フェアウェイ
やバンカーエッジを際立たせる独特の管理をしている。
日本はもとより欧州でも見たことが無い手法だが、何故か日本のグリーンキ
はオーバーシードに拒否反応が強いので、導入は難しいかもしれない。
さらに感心したのは、カート道路の絶妙な敷設で、此処には多くのノウハウが
詰まっている。
米国の標準解はなくカートがフェアウェイに乗り入れられないタイプだが、
プレーヤーの気持ちと行動をよく考えてルートを設定している。池やハザード
くのルールを熟知した経路選定、大きなマウンドを迂回しながらグリーンの
傍までの乗付ける方法、目立ち過ぎずベストルートを案内する仕組みなど勉強
になる部分がとても多い。

さて、実際のコースを見てみよう。
トーナメントのクライマックスに近づく15番は、こコースの中で最もスコアーが
動くホールとして計画されているTPCティから558ヤ、白ティから439ヤ
のパー5なので、殆どのプレーヤーが2オンを狙ってくる距離だがTPC名物のアイ
ランドグリーン(奥行き36ヤードの3段)が待ち構えているこの場合3オンという
選択肢があるので理不尽ではなく、大きな池を挟んで両方から観戦できるのも
このホールの利点だ。冷静に考えれば手前に刻んでバーディー狙いが得策だが
観客が許すまい。18番は池を挟んでフェアウェイが斜めに横切り自分の飛距離
に応じてどの地点まで池を跨ぐかが重要なホール。

グリーン面が池の方に傾斜しているので、R.T.ジョーンズのS字型と同じ英雄型設計だが、パー4用にアレンジしてある。
此処もそうだが、米国ツアーの最近の傾向としてフェアウェイが先細りになって
きてきた。極端に飛距離選手対抗した措置らしいが、20年前全く逆だったと思う。現代において距離を出す事のご褒美は、いったい何なのだろうか?

 残念ながら日本では比べるべき対象を知らないの、欧国際大会開く
ような名門倶楽部と比較してみるとTPCスコッツデールは米国の商業主義の文法
に沿った経営方針からか、全て箇条書きできる特徴によって成り立っているように
感じられた。
英国のプライベート倶楽部は言てみれば無形文化財的な閉鎖性を感じ、無言の
うちに歴史と伝統を醸し出している。中に入ると排他的な優越感と組織内での
義務感から自分自身の行動様式を律し、自発的な献身が美徳と考えられてきた。
TPCスコツデールでは、すべての要素がよく考えられ、公平でしかも過不足
なく整い明快な基準がある、逆に言えば抑揚が無いから、ても開放的で裏表が
なく、裏切られることがない。非日常を求めて来る旅行者から見た顧客満足度は
素晴しく高いだろう。

スタジアムコースというコンセプトは
ピート・ダイによって創られたが、過去20年余りの間にTPCによってファッションとして定着したかのように見える。
しかし、トーナメント
の半数が同様の
コースで開催される現実を考えると、大衆文化の要求は留まる所なくエスカレートしていき、近未来の姿さえ想像するのが恐ろしい。

当初6857ヤードで行われたソーグラスのトーナメントは、22年後の昨年には7093
ヤーと236ヤードも距離を伸ばし(平均すると毎年12ヤード)このまま行けば75
年後には8000ヤードを突破するのだ。ツアープロとアベレージゴルファの技術
格差は開く一方だから、もっと抜本的な対策を講じるべき時が近づいている。

(コラム1として)319w
TPCの経営状況は明らかではないがPGAツアーの入場者収入や放映権、旅行者の
ビジター収益などによって賄われている。プライベートクラブではさらにメンバー
フィ(平均60万円ほどの入会金とほぼ同額の年会費)が集まる。これは英国
欧州
の一般的な倶楽部よりは特に年会費が高めだが付属施設も充実している
ので許容範囲と言えよう。
ところで、コース造成費を含めた初期投資はコースに隣接した宅地開発と抱き
合わせで捻出しているがこれは米国のゴルフ場の標準的な開発手法である
ゴルフコースと同時開発された7ベッドルームの建売住宅は4000万円ほどで購入
でき、トーナメント開催週に家族旅行に出かけ空き家を観戦者に貸し出せば、
望外の臨時収入を得ることもできる。

(コラム2として)413w
砂漠地帯では緑地管理きな経済的負担になるため政府民間活力を
利用し、コース造成用地を無償で貸与してゴルフ場の開発許可許を与えた。政府
は砂防緑地機能を犠牲にせずに莫大な水道料金を民間に肩代りさせ、TPCは用地
確保代金を節約したのだ。
開場時のハウス建設を含む総開発費は、現在のレートを使うと2億8千万円。今の
物価や人件費で再評価すると20億円程だそうだ。ブルドーザーを駆使して大量の
土木工事をし、全ップ75に入るリゾートコースを造る金額は、日本でのハウス
建設費と同程度なのだ。
グリーンフィは2人乗りのカートや練習ボール、冷たい飲み物まで含めて200ドル。
また90人と少数ながらメンバー(年会費4200ドル)も在籍し、法人会員もいる。
それらを含めた全ての入場者で年間45000ラウンドにも達し、1日平均125人などと
計算しているとスコッツデールを含めたTPCのクラブ運営は革新的で的を射た
ものであるといいたくなる。

撮影:三木崇徳