株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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 特集・ゴルフ場セミナー誌 (4) 2002年8月号  出版元ゴルフダイジェスト社

ミュアフォールドのコースマネージャー
コリン・アーバイン氏(37歳)に聞く
コース管理手法
 
それでは、ミュアフィールドの自然環境からお話ししましょう。
コース面積は約25万坪、その内グリーンが1.7ha、カラーとエプロン部分が3ha、
ティーが1.2ha、フェアウエーが10ha程です。
7月の平均気温は17℃程ですが、年間降水量は随分少なく500mmを下回ります
コースの北側は海岸線、西にはガレーンの丘があるので微気候の影響があり
盆地性気候のような特徴も持っています。
具体的には東風の時は湿気が多くて寒くなり、西風のときは乾燥して気温が高
くなるのです。

 リンクスコースは透水性の良いサンドロームの上にあるので、排水設備は基
本的には必要なく、実際ごく限られた場所にしかありません。
2箇所のグリーンとフェアウエーの数箇所に古い土管が埋まっていますが
プラスティックの有孔管による排水システムは持っていません。
 逆に給水はレインバード社の全自動のシステムを98年に敷設しましたが
我々の考え方が特徴的に表れたシステムなので説明しておきたいと思います
ティーグラウンドの先端から始まってグリーン手前のエプロンの部分まで
2列にスプリンクラーヘッドを配置し、フェアウエーのみならずラフにも同時
に散水しています。
コース全体で577個ものヘッドを持っている立派なものなのですがグリーンと
ティーインググラウンドには敷設していません。
ゴルフコースで最も大切な場所には我々が必要な時と場所と量を感じながら与
えたいからです。
それに、散水設備メーカーの営業マンが口を揃えて言う『グリーン全面に均等
に水を撒く事ができる』というのは、私に言わせれば馬鹿げた間違いです
水は高い所、例えばマウンドの頂点だけに撒くべきで、ハロー部分に撒くべき
ではありません。
水は高い所から流れて、低い所で溜まる性質があるからです。

 芝の種類はコース全体にわたってフェキューとベントが大半でメドーグラス
やカタビラも5%位ありますが、場所によって割合が少しずつ違うので管理上の
指標になります。
フェアウエーにはその他に色の濃いヨークシャー・フォグや雛菊も交じってい
ますが、同様に何故そこに生えるのかを考える指標になります。
 冬場にはグリーンにも苔が発生する事がありますが、苔でさえも我々にとっ
て大切な指標になるのでお話ししておきます。
日照時間が短く雨量の多い冬場は、ウォーターテーブルが一年中で一番高くな
る時期です。苔が発生する場所は地表ぎりぎりまでウォーターテーブルが上昇
している事を示している訳で、乾燥した夏場にはもっと低くなるはずです
という事は年間を通して芝の根が届く地表近くにいつもウォーターテーブルが
ある訳ですから、芝はいつも充分な水分を得ることができます。
逆に、冬場でもウォーターテーブルが充分低い位置にあるマウンドの頂点など
は夏場には芝の根が届く範囲を超えてウォーターテーブルが下がってしまい
恒常的な散水をしない限り渇水状態になりやすいのです。
どの場所でも地表から同じ深さにウォーターテーブルがあるのが理想でしょうが
現実にはアンジュレーションに沿ったウォーターテーブルを作ることは難しい
作業です。
無論、苔は取り除きますすが、家庭用のモスキラーのような薬剤は使いません。
バーチカル又はスパイキングをした後に、金属性の先の尖った熊手で掻き取る
ようにします。また場所によってはホロータインで空けた穴に砂を充填して地
盤改良をする場合もあります。
要はファインサンドキャップ効果を断ち切ることと、地表が乾燥しやすい状況
を作ってやる事で苔を退散させれば良いのです。
昨年の冬場は平年に較べて雨量が多かったので、多くの場所で土地改良を実施
しました。

 次に刈り込みについて、我々の方法をご紹介しましょう。
グリーンは手押しモアで5mmにクロスカットします。20年程前までは月、水、金曜
にしか刈りませんでしたが、私の先代からカップ切りも含めて毎日刈るように
なりました。週末にしかプレーできないメンバーから随分喜ばれたそうです
The Open 開催時はスティンプメーターで11.5フィート(約3.5m)にR&Aから指示
されていますが、夏場のこの時期としては標準的なスピードで、極端に刈高を
落とす必要はないはずです。
私たちはグルーミングモアを持っていないので、専らバーチカルを掛けてサッ
チのコントロールをしています。此所ではセント・アンドリューズなどに較べ、
年間ラウンド数が少ないので、随分管理が楽です。

ミュアフィールドとジ・オラナブル・カンパニー・オブ・エジンバラゴルファーズ

 最初にミュアフィールドのコースとジ・オラナブル・カンパニー・オブ・
エジンバラゴルファーズという倶楽部組織について説明しておこう。
世界最古のゴルフ倶楽部組織である The Honourable Company of Edinburgh
Golfers 直訳すると『名誉あるエジンバラ市ゴルファーの会』は1744年に市の
東端リース(Leith)にある公共の野原にできた5ホールのコースを起点にしている
以後、コースをもっと東のマッセルバラ(Musselburgh)現在のロイヤル
マッセルバラGCの位置に移したが、この時もコースは他の倶楽部との共用であった
折りから始まったThe Open(当時はベルト)に選手を送ったり、セント・アン
ドリュースとプレストゥイックと共にマッセルバラにホームコースを置く
ジ・オラナブル・カンパニー・オブ・エジンバラゴルファーズは、初期の全英
オープンからゴルフ界を牽引する役割を負ってきた。
手狭なマッセルバラからもっと東のミュアフィールドに自分達だけのコースが
完成したのが1891年。
オールド・トム・モリスのオリジナルレイアウトであったが、以後幾度となく
改造され、現在に至っている。

 セント・アンドリューズではグリーンを取り囲むカラーは概念さえ存在しま
せんが、我々のコースでは伝統的にカラーとエプロン部分を一体化して考えて
います。
通常は乗用モアを使って8mmに毎日刈りますが、大会間近には手押しに切り替
えてクロスカットします。
この部分の速さを測ったことはありませんが、一般的なコースのグリーンより
少し遅い程度の速さです。
 フェアウエーは13mm、セミラフは50mmの高さに刈ります。
通常セミラフを刈るときははバケットを付けませんが、大会一月前から刈り屑
も集めます。またフェアウエーの幅やセミラフの範囲も変化を付けて、単調に
ならないように気を付けています。
 本当のヘビーラフ(ジャングル)とセミラフの境目に5m(ギャングモアの往
復分)程のラフを設けています。150mmの刈り高ですが、頻度は決まっていま
せん。このラフはヘビーラフの草が短いラフの方に倒れ込まないようにするの
が目的です。
このラフがないと、セミラフからヘビーラフに転がり込んだボールが倒れ込ん
だ芝の下に隠れてしまい、見つけにくい事に加えキャリーでヘビーラフに突っ
込んだボールに較べても脱出が難しく、アンフェアになるからです。
ハードラフ(セミラフをAラフ、このラフをBラフと呼ぶ人もいる)の背丈は
プレーヤーのスコアーに直結しますから、コース全体の難易度をこの部分で調
整する事も可能です。
グリーンのスピードを変えたり、バンカーの位置や形状を変えてコースの難易
度を変化させるには、莫大な労力が必要ですが、ラフの構成を少し変化させる
のはたやすい事です。

 バンカーの話が出たので、砂の話しをしておきましょう。
我々のコースはリンクスコースで海岸沿いの砂丘地帯にありますから、良質な
砂を敷地内から採取する事ができます。具体的には海岸に一番近い5番ホール
のティー裏の人目に付かない場所に採砂場を設け、採取した砂を4mmメッシュ
に掛けて小石を取り除いただけで使用しています。
無論洗浄も着色もしませんし、砂の粒径分布さえも測ったことがありません
バンカーの砂の厚みは、しばしば議論の的になりますが、一般的に上級者ほど
薄い方を好む傾向があります。
彼等は薄く砂を取るバンカーショットをしますし、足場をしっかりさせたい為
でしょうが、5cmもあれば充分だと言う人もいるくらいです。
ミュアフィールドはパブリックコースとは違い、技術的に未熟な人達(HC18超)
は来ませんから、他所のコースに較べて砂の厚みは薄くても構わないのです
バンカーの顎はこの数年の全英Openで随分立ってきました。
我々も年間5回のコミッティーとの協議を通して時間を掛けて考えてきました
ご存じのように我々のコースはバンカーに特徴が有ると言われていますが
現在の状況が私達の回答です。
すなわち、顎の角度は60度を上限とし、砂の面がすり鉢状になるように、かつ
周囲のアンジュレーションの呼応した形としたのです。

 今までお話しした事で想像がつくと思いますが、私たちは自然現象をうまく
活用することによりコース管理をしたいと考えていますので、化学薬品の使用
は最小限に抑えています。また60mの深さから汲み上げられた井戸水を含め
pHの値が6.5〜7.0で安定していることも薬剤使用量削減に有利に働いています。
とは言っても刈り屑を取り去る場所については肥料も必要です。窒素8、鉄2の
割合で施要していますが、リンとカリはやっていません。
 色々な環境団体がコース内を調査をして、多様な植性や生体系を報告してく
れますが、個人的にはゴルフコースが一番重要で自然環境を守るために働いて
いる意識はありません。

 管理費は、人件費と管理機材の償却費の影響が大きく、肥料や薬剤に費やす
金額などわずかです。
人件費は私を含めて11人分、管理機材の償却期間は3年に設定して、機材の陳
腐化を防いでいます。
人件費を除いて、年間35,000ポンド(約6500万円)程ですが、散水設備を導入
するまでは、4000万円程で収まっていたのです。

ベスト・オブ・ザ・ベストコース

 私の個人的な見解だが、The Open開催コースの中でミュアフィールドはバー
クデール、サンドゥイッチと共にベスト3に入る。
これらのコースは古典的なコースとしては第2世代で19世末に完成しているが
当時の理想的なレイアウト(実は今でも)を伝えている。
前半の9ホールは、西向きの1番からコースの外週部を時計廻りに廻るのでスラ
イサーに優しく、後半の9ホールは北向きの10番と南向きの18番を含め反時計
廻りに進む。
第一世代の海岸沿いの細長いリンクスコースでは、前半と後半の風向きが逆に
なる事が多いが、ミュアフィールドでは風の向きがホール毎に変わるのでより
楽しめる。
今回、初めてクラブを持たずにコースを見て廻ったのだが、過去にプレーして
いる時に感じた『捕らえ所の無いボウヨウとしたコース』と言うイメージは間
違っていたと気付いた。
セント・アンドリューズほど判り易くはないが、真の上級者が腕を競える舞台
だと感心した。
尚、ミュアフィールドはそのバンカーレイアウトに特徴が在ると言われ、全て
のバンカーはティーから見る事ができるべきだという彼等の原則に従って作ら
れている。多い時期には224箇所も在ったが現在は随分統合整理され、現在は
148箇所である。

 コースマネージャーという役職名は、私の先代クリス・ウィトゥルから始ま
りました。この20年の間に管理方法が随分と変化し、コースで作業をする以外
の事務的な仕事が増えてきたためです。マネージャーは実際のコース管理
例えば芝刈りや散水や更新作業をする代わりに、コミッティーや業者と打ち合
わせをしたり、薬剤の施用量や時期を決めたり後進の指導をするのが仕事です。
その意味からヘッドグリーンキーパーとの違いは、実際の管理作業をするか否
かですネ。
スーパーインテンデントは米国で良く使われる名称で英語とは違うかもしれませんが、
私たちの認識として18ホールのコースを複数同時に管理する場合、各ヘッド
グリーンキーパーの統括をする人をスーパーインテンデントと呼んでいます
それと、BIGGA(英国グリーンキーパー協会)の会員つまり公的な資格を持っ
ている人は全てグリーンキーパーと呼び、スタッフとは呼びません。主体性を
持った責任感のある仕事をしてもらいたいからです。
現在ミュアフィールドではコースマネージャーの私とグリーンキーパー10人
それと研修中のスタッフが一人います。少ない人数の割に手作業が多く
皆とても忙しいのですが、これでも先代のクリスがグリーンを毎日刈り込むと
いう条件で倶楽部と交渉して人数が増えたのです。最後に私個人の経歴をお話し
しておきましょう。
私は全くの土地っ子で、隣町のノースベリックの学校に行っている時から此所
でキャディーをしていました。
無論ゴルフプレーも大好きでしたが、16歳で学校を卒業すると、此所のグリーン
キーパー見習いになりました。88年からドイツのゴルフ場でサブとヘッドグリーン
キーパーを経験した後92年に戻ってきて、94年からマネージャーになりました。
友人のアメリカにいるグリーンキーパーは、私の3倍以上の収入があるそうですが、
今はこの伝統あるコースの管理をする事に誇りを持っています。