株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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 連載・ゴルフ場セミナー誌 1999年10月号    出版社:ゴルフダイジェスト社
 (1)「トム・モリスの国から」(連載第2回)

ゴルファーの認定制度と喫煙問題
 今回はEU統合に向けてゴルフクラブが直面している奇妙な喫煙問題についてレポートしたい。
 前回、英国においてのゴルファーの定義は、ゴルフ倶楽部の個人会員であると書いた。この事は、自分の所属する倶楽部を名乗ることが自分の階級や仕事、役職ひいては資産までも暗黙のうちに公にすることでもある。
現在でも階級意識の強い英国では、ゴルフは純粋なスポーツとしての枠を越え、
社交的な側面が多分にあり、立派な資格審査の意味を持つ。
 一方フランスでは、ゴルフはこれまで一部の特権階級の贅沢な遊びと認識さ
れてきた。しかも個人主義の徹底したフランスの場合、ゴルフクラブはサロン
的な色彩が強い。
 英国旅行客がバカンスにくるスペインやポルトガル及びフランスの海岸沿いは
開放的なリゾートコースが多く、イタリアや東欧はこれからゴルフブームが起
こりそうな気配で、ゴルファーの資格審査などは無いに等しい。
 ところが、ドイツ及びドイツ文化圏ではゴルファーの検定試験が行われている。
各国のゴルフ協会によっ実施される内容は概ね同様で、フィンランド人の隣人
の話ではアプローチ、パット、ティーショットの飛距離、バンカーショットな
どの実技とマナー、ルールの試験があり、全てに合格してやっと一人前のゴル
ファーとして認めらる。この検定証書を持っていないとゴルフコースでプレー
できないので、暗く長い冬場にはヘルシンキの巨大な室内練習場が混雑するそ
うである。
 S・バレステロスの出現によってヨーロッパ大陸にゴルフが浸透し、B・ラン
ガーの活躍によりドイツでゴルフブームが起き、現在のスェーデン勢の強さが
スカンジナビア諸国にゴルフ場建設ラッシュを巻き起こしているのだと評論家
は分析しているが、その下地には、英語がEU内の公用語として認知され、人々
が英国文化に関心を持つようになった事が大きい。
 これらの事は金融界にとどまらずゴルフ界もEU統合にむけて熱心な討議が繰
り返されている現在、思わぬ波紋を投げかけている。距離表示をメートルにす
るかヤードにするかなどという問題ではなく、ゴルフクラブの在り方自体が、
本家の英国を巻き込んだ論争になりつつあるのだ。
 英国以外の大陸では、ゴルフ場はサロン化したものであるにせよ、リゾート
施設の一部であるにせよ、パブリック性を持つ。つまり不特定多数の人間が出
入りする駅の構内と同じとみなされている。
ドイツやスカンジナビアのようにゴルフクラブの上部組織である各国のゴルフ
協会が個人に対して認定証を発行している場合など尚更で、認定証を持ってい
る人なら誰でもゴルフクラブを利用する権利が生まれる。
 時代の趨勢として、公共性を持つ建物の内部では禁煙になり、利用者数に応
じた車椅子で利用できるトイレも必要になってくる訳だ。
 英国ではこの議論に関しての反応はすこぶる鈍い。倶楽部組織が会員を選別
しており、閉鎖的ではあっても公共性などには興味がない事と、自分達がゴル
フの本流であるとの自負が対応を遅らせている原因である。大陸側もゴルフの
近代化と国際化に必要不可欠な要素として強硬である。
 振り返って日本はどうだろうか? 1200万人と言われるゴルファーの算定方
法は、年に数回ゴルフをする人数だという。とすればビジターがプレー可能な
殆ど全てのゴルフ場は、大陸方の不特定多数が利用可能な公共的色彩の強い建
物だといえるだろう。