株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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 連載・ゴルフ場セミナー誌 1999年11月号    出版社:ゴルフダイジェスト社
 (1)「トム・モリスの国から」(連載第3回)

欧州のコースを覆い尽くす雑草グリーン
 英国のゴルフコースのグリーンはすべてベント芝で出来ていると思いこんでいる読者が多いと思うが、実際はほぼ完全にポー・アニュアと呼ばれるメドーグラス(メドウグラス)の仲間の雑草で覆われているという事実を知ると驚かれると思う。この芝の日本名はスズメノカタビラだが、日本のものとは種類が違うようにも思える。
 ウエントワースもサニングデールもグリーンの芝は、9割方がポー・アニュア
で残りの一割がフェスキューとベントと他の雑草である。
これらのグリーンは深緑のベントグリーンに比べて色が若芽のように黄緑色が
かっている他、フェスキュー芝よりしっとりとした感触でボールが吸い付くよ
うに転がっていく。
スピードもスティンプメーターで10フィートまでなら充分出せるし、期間限定
すれば11フィートまで可能だそうだ。つまり一般のメンバーシップコースでは
充分な品質であり、更にライグラスやポー・アニュアのアプローチエリアとの
繋がりもスムーズである。実際、倶楽部メンバーからの不満の声は聞こえてこ
ない。
 無論グリーンの新設や改造をする時は、アグロノミスト(芝種選定専門家)
の指示に従い、重量比でフェスキュー8割、ベント2割位の混撒をするのだが、
2、3年の内にポー・アニュアが優勢になり、その状態で安定してしまうらしい。
 グリーンキーパー達も未だに雑草との意識はあるものの、経済的な理由やコ
ミッティーとの関係から抜本的な改修ができず、結局のところ21世紀には欧州
全体の内陸コースにおいて、事実状の標準解(デファクトスタンダード)にな
りそうな気配である。
 この雑草がはびこる原因は色々な説があり、種子販売業者の品質管理に原因
を求める者や、土壌成分やpH、果ては異常気象が因子であると説く者もいる。
基本的には過剰施肥と恒常的な散水過多が最も有力な因子であることは疑う余
地がない。
問題は、自然環境の違いで未だにベントとフェスキュー芝が主体のリンクスコ
ースが、ゴルフ界が守べき伝統であるとの意識だけであろう。
日本のようにフェアウエーとグリーンの芝種が全く異なっていて、アプローチ
の方法が空中戦に規定されてしまうような不思議な状況でない限り、特に問題
視すべき点はみあたらない。最近はグリーンの速さだけではなく、硬さ(コン
パクション)も議論されてきつつある。以前の英国は、乾燥した夏場は硬く冬
場に柔らかくなるのが相場だったが、潅水設備の完備によって一年中柔らかく
なってきた。この結果、スピンの効いた球だけを止めたいのに、どんな球でも
止まるようになってしまった。またピッチマークの処理も問題になってきたのだ。
一方で天候や季節によってコースの難易度が変わっては、コースレートが安定
しないと主張する人もいる。
 ところで英国内で最も優秀な散水設備を備えているベスト4コースは、オーックス
フォードシャーGC、セント・アンドリュース・リンクス、ターンベリーホテル、
ウエントワースクラブだそうだ。これらは全て日本資本が絡んでいる事を考え
ると、多少複雑な気分になる。
散水設備への投資は眼に見えるが、もっと大切な排水設備は地下にあり眼に見
えないからだ。