株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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 連載・ゴルフ場セミナー誌 2000年1月号    出版社:ゴルフダイジェスト社
 (1)「トム・モリスの国から」(連載第5回)

自然保護と環境問題
 イギリス人達が考える環境問題や自然保護の概念の根底には、庭造りに触発された部分が大きいという。彼等特有の歴史認識を面白く思ったので紹介する。この話はゴルフ設計家から仕入れた事を始めに告白しておきます。
 最初に自然保護の反面教師になったのは、ルイ王朝時代のフランス庭園文化であった。
ベルサイユ宮殿を頂点とする幾何学模様を大胆に取り入れた壮大な様式美は、
樹木の自然樹型を無視し、構成要素としての均整を整えるためのみに単純な形
態に刈込む事を要求した。
時の権力者の権威を具現化するには、自然までも意のままに操るかのごとき激
しい作為が必要だったのだ。
 一方英国人は彼等に言わせると、『自然らしく』みえることにこだわり続けた。
自然の中でその花や樹木が最も美しく見える状態を追及して、こつこつと手入
れする方法を選んだのだ。
入念に仕上げられた庭は、季節ごとに違う表情を持つように植物の配置が考え
られ、年間を通して飽きさせない。
さらに天候や時間ごとにうつろいを見せる『装置』例えば、風に揺れる長い葉
をもつ植物とか雨水を弾く産毛をもつ植物とか日陰に咲く花とかも効果的に使
うことによって、より『自然らしさ』を強調する事を彼等は発見したのだ。
つまりイングリッシュ・ガーデン(ゴルフコース?)は手入れをすることで、
『自然らしさ』を演出しているのだ。
 ところが今世紀に入ってアメリカから自然保護と言う概念が沸き上がってきた。
最初は心無い旅行者や密漁者からコロラドの自然を守れというスローガンであった
のだが、時が経つにつれ、何もしない事が自然にとって一番正しい。自然に何
も手を加えてはならない。というように主張が変化していった。
その後この運動は大規模な国立公園制定という流れを創ることになり、世界中
に観光地と化した広域公園がきることになった。
 更に時代が下り、今度はドイツから国立公園を通る道路の傍から森林が枯れ
てゆく現象が報告され、自動車の排気ガスが槍玉に上がった。緑の党の誕生で
ある。この現象は、眼に見えない物質でも簡単に環境破壊を引き起こすことを
我々に認識させたと同時に、今や環境問題は政治の重要な課題であることを印
象づけた。
 最後は90年代初頭におきた日本のバブル崩壊である。
過熱した景気と土地神話を一気に突き崩したのは、日本のゴルフ場が起こした
環境問題が発端であると論じる者もいるのだ。色々の思惑が交錯する現代にお
いて、纔な危険材料に過剰に反応する世論と、政治の無策が瞬く間に東アジア
一帯を経済危機に陥れた。
逆にいえば環境問題と経済問題は今や非常に近い関係にあるとも言える。と言
う意見だ。
 さて、私自身はこの歴史観に素直には同調できない。
英国は元来は樫の木を主体にした森林国で、丁度ロビンフッドの物語に出てく
る国のような場所だったらしい。
ところが10世紀ごろから、羊などの牧畜をするために多くの森林を伐採し、国
中を芝生の丘陵地に変えてしまったのだ。英国を訪れた事のある読者は容易に
想像できると思うのだが、現在では何処でもゴルフ場になりそうな感じのする
英国は、その昔、東北や北海道の鬱蒼とした森林地帯のような場所だったのだ。
環境破壊や自然保護などと言う概念さえなかった時代に開発してしまい、その
後に起こった現象を他人事のように批評するのはフェアーではないと思うので
ある。