株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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 連載・ゴルフ場セミナー誌 2000年2月号    出版社:ゴルフダイジェスト社
 (1)「トム・モリスの国から」(連載第6回)

ゴルフ倶楽部の転売顛末
 最近の英国でゴルフ場の売買とその後日談が話題になっている。
好景気に支えられて会員数に不足がなく、プレー回数も多くて収入の豊かな倶楽部は、どんどんファシリティー
(付帯設備)を拡張させる傾向にある。
例えばテニスコートだとか、フィットネスジムだとかを新設し、会員の家族にも気軽に利用できるような体制を整え
るのだ。会員の方でも格安の料金で家族サービスまで付いてくるのだから嫌な
顔はしないだろう。
色々のファシリティーが充実してきた所で、つまりその倶楽部の市場価値が一
番高い時期に、倶楽部自体を何処か別の会社に転売するという算段である。
この転売劇の影には多くの場合ユダヤ資本が絡んでいると噂されているが、は
っきりした事は判らない。一説によれば今やロンドンにおいて過半の土地はユ
ダヤ資本が持っているそうである。
 転売先として数年前ならば日本を含む極東資本が真っ先に名乗りを挙げたは
ずだが、現在ではほぼアメリカ資本に特定されている。ヨーロッパはEU統合で
忙しく、中近東も政情不安でゴルフ場などに投資する余剰資金などない。残るは、
コンピューター通信事業などで息を吹き返し、好景気を持続している米国だけ
というわけだ。
 問題はこれからで、彼等は資本投入後、賢くも倶楽部組織には最初から手を
付けず、倶楽部の運営方法の効率化や運営組織改革から始める。
どう言う方法かと言えば、まずマネージャーの給料を米国なみに高く設定する
代りに、彼等の役割と責任を明確にしようとする。その時点でマネージャーは
秘書が欲しいとか、公用車が欲しいとか、勝手な要求を出すだろうが、それは
快く受け入れられる。
次に数値目標を定めて、その目標達成のための計画作成とネゴがあるだろうが、
英国人ならばこの手の仕事はお手のものだろう。マネージャーは長年培ってき
た人脈で実現不可能なものも含め、経営側が喜びそうな資料を用意するに違い
ない。
 さて、実現段階になると色々のトラブルが起きて、計画の達成は難しくなる。
はっきり言えば、当初の役割と責任分担上、マネージャーの権限が制限されて
いて、結果的に見れば彼が大風呂敷を広げすぎた格好になる。
通常英国ならばこの時点で色々の言い訳を作り、責任逃れがさせてもらえるの
だが、彼は始めに高い給料と要求を出しているので、つまり米国的なマネージ
メントを受け入れている事になるので、それもできない。
計画段階で気軽に応じてくれていたコミティーも、自分達に火の粉が降り掛り
そうになると二の足を踏むようになるに違いない。
 マネージャーの置かれた状況を一口で説明すれば、判断を先延ばしにすれば
無能の烙印を押され、結果を伴わない判断は激しい断罪の理由になるのだ。
結局、彼は自ら早期退職の方法を選ぶしかないのである。
 経営側はマネージャーの勇退の為に盛大なパーティーを催し、長年の労をね
ぎらって彼の面目を保つ一方、新たに自分達の息の掛ったマネージャーを置く。
先のマネージャーの高い給料や法外な要求も、実は彼のために用意されたもの
だったのだ。
これらの事件は部外に漏れることはなく、傍眼には最初から決まっていたこと
のように円滑に進んでゆく。
 此処でもう一度考えてもらいたいのは、この一連の買収劇で誰が不満を持った
かということである。
会員は予期せぬ付帯施設が使えて満足だろうし、転売元の資本家は自分の行った
資本投下が正当に評価されて満足だろう。転売先の資本家は自分の経営手腕を
発揮する可能性を手にいれ、かのマネージャーさえも自分の尊厳を傷つけられず、
米国的な経営手法を経験したという意味でゴルフ、他の場への転職の道が開ける。
 だから内部での激しい葛藤があるにもかかわらず、事は円滑に流れてゆくのだ。
 英国ではそのマネージャーの身の振り方と倶楽部の今後に話題の中心がある
ようだが、私は西欧人のしたたかな社会性を見せられたような気がしている。
日常的な経費や人員の削減は、組織の活力を奪うだけでなく、個人を疲弊させ
る事になりかねない。今、日本のゴルフ場とその経営に最も必要なのは、当事
者全てが不満をもたないような道筋を造ることであると思う。