株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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 連載・ゴルフ場セミナー誌 2000年3月号    出版社:ゴルフダイジェスト社
 (1)「トム・モリスの国から」(連載第7回)

石灰分の多い水環境
 寒い季節はお風呂が一番。という訳で、今回は入浴の話から始めたい。
外国映画などで美女の入浴シーンにドギマギした経験はだれにでもあると思うのだが、彼女達は例外なく泡のついた体のままバスローブを羽織っていたことにお気付きだろう。
大学時代建築を学んでいた時の教授が、『僕なら泡をシャワーで洗い流してバ
スタオルで良く拭いてから服を着ますけど、外国人は石鹸の付いたままでも気
持ち悪くないんですかね?』と言っていたのを懐かしく思い出す。
実は、ヨーロッパの水道水は石灰分が多く含まれていて、そのまま体を洗い流
してしまうと、皮膚の皮脂成分も溶かしてしまい、すぐに皮膚がカサカサになって
しまうのだ。試しにミネラルウォーター(エビアンとかヴォロビックなど)で
顔を洗ってみてください。また日本から持参した蛇口に付けるタイプの簡易浄
水器は2週間程で詰まってしまい、使い物にならなかった。
そういう事情でお風呂に入れる石鹸は保水成分が含まれているし、その泡を逃
がさないために素肌に直接バスローブを掛ける訳なのだ。
余談だがこの水質と乾燥した気候のせいか女性に限らず顔の皺ができやすいら
しく、年齢を聞いてびっくりする事がよくある。
 水道水でさへこのような有様だからゴルフ場でコースに散水する水も石灰分
を多く含み、ポップアップスプリンクラーのヘッドを詰まらせる。
グリーンキーパーは年がら年中散水設備のメインテナンスに追われてしまうのだ。
メインテナンスといえば、グリーンやフェアウエーの排水パイプの掃除も大切
な仕事である。ホースを排水管の中に突っ込んで水を勢いよく流し、中に詰まって
いる物を洗い流すだけなのだが、出るわ出るわ泥や苔などは言うに及ばず、動
物の死骸やら落ち葉やら、何処から入ったのか拳大の石まで出てきたのには驚
いてしまった。
メインテナンスとはえてしてこうしたもので、不具合を修理していると、別の
不具合の原因になりそうな箇所を事前に見つける事ができるのだ。先の例だと、
グリーンの肋骨排水管の何処かの接合部がはずれている疑いがある。
と、言うことは転圧によって排水管がひしゃげている可能性も否定できない訳だ
 排水設備で最も頭を痛めるのは、その放流先である。なだらかな地形の場合、
放流先まで延々と暗渠排水を引き回さねばならず、必要な排水勾配が足らなく
なってしまう。特にグリーン手前のアプローチエリアでこの問題が起きやすい。
この場所はグリーンの排水管とガードバンカーからの排水管、さらに散水設備
の給水管が集まりやすく、フェアウエーの排水設備が疎かになりやすい。つま
り設計家の腕の見せ所なわけだ。悪いことに、この部分はコース設計者の現設
計に満足できない倶楽部側が、独自の判断を加えて後で改修してしまった所が
多く、責任の所在がはっきりしないことがよくある。
いきおいグリーンキーパーにおはちが回ると言う寸法だ。
 ところで、バンカーの縁の処理で、コースの表情が随分と変わって見えるも
のだ。
一般的に日本のコースでは芝草の縁を丸めてバンカーの砂の面に繋げている処
理が多く、画一的すぎると思う。
英国では、芝土ごと10cm程切り立てて見せるのが一般的だが、バンカー縁の耳
芝を長く延ばしてバンカーの内側に垂らす方法や、バンカーの顎の上部にだけ
ヘビーラフをはやす方法などさまざまなバリエーションがある。