株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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 連載・ゴルフ場セミナー誌 2000年5月号    出版社:ゴルフダイジェスト社
 (1)「トム・モリスの国から」(連載第9回)

練習場のボールとマット
 上級者は春先までに翌シーズンの使用クラブを決め、夏に向けて時間をかけてスウィングと新しいクラブをなじましていくのが一般的である。彼等はシーズンの途中で安易にクラブを交換したりはしない。交換したクラブによってスィングまでばらばらになり、
そのシーズンを棒に振るのを極端に恐れるからである。
そういう訳で、英国でもこの時期は練習場が混み合う。そこで今回は練習ボール
の話から始めることにしよう。
 日本でもキャロウエーのボールが話題になっているとは思うが、英国でも上
級者になればなるほどボールの品質には敏感である。単に良く飛ぶとかスピン
がかかるとかいう問題ではなく、インパクトの瞬間の重量感やコントロール
ショット時の安定性、パットとアプローチショットのタッチの整合性など多分
に感覚的な事に神経質である。そういう訳で、練習場のレンジボールもコース
ボールに近いフィールを求められ、しかもゴルフの腕前に合わせて希及水準が
高くなってくるのだ。
 現在市場に出回っているレンジボールは基本的に2種類で、射出成形(イン
ジェクションモールド)の1ピースボールが大半をしめている。 これは打感が
柔らかすぎる事とロングショットの飛距離が問題で、徐々にコースボールと同
じ2ピースボールの需要が伸びてきているそうだ。しかし2ピースのレンジ
ボールは現在のところ硬すぎて上級者には不評である。
 つい最近まで英国で唯一社だけ射出成形以前のたこやき成形方法を使って好
評だったメーカーがあったのだが、その生産性の低さから生産中止になってし
まい練習場経営者達を慌てさせてていた。
しかし探せばあるもので、台湾のメーカーが未だにこの方法で作っている事が
判り、大量発注があったそうだ。
 練習場のマットも議論の分かれる所で、日本の様に毛足の長い人工芝を使って
いる所は殆どない。多分ずっとコストの安い屋外用のカーペットで代用している。
これは毛足が短いのでボールが宙に浮いたような状態にならず、実際のコース
でプレーヤーが遭遇する状態に近く、ボールの手前にクラブヘッドが入って
ダフるとすぐに判る。
更にスタンスとの段差がなく、足元も適度に滑るので夏場のリンクスコースで
プレーしているような気分である。
足元のゴムマットも含めて、日本のゴルファーは条件の良い練習環境に慣らされ
すぎているようで、これが練習場シングルなる言葉を生み出す原因かもしれない。
 ところで、最近2つのゴルフコースを仔細に見比べる機会があり、少し考えを
改めなければいけないと思った。
両方とも数年前の同時期に同じような予算で造られたのだが、一方は有名な
ゴルファーの監修、もう一方は有名なゴルフ場設計家の作品である。
常識的にはゴルフ場開発の素人であるプロゴルファーは会員募集の役には
たっても、実際の設計には何の役にもたたないと考えられてきた。
実際、前者はお世辞にも良くできたレイアウトだとは言い難いし、バンカーの
位置などは単調だが、グリーン廻りのアイデアが豊富で適正である。
何よりも最後まで手を抜かずに仕上げたことが印象を良くし、プレーしていて
楽しい。
後者はコースとしての骨格がしっかりしていて、気品も備わっているのだが、
お決まりの予算欠如による排水不良を起こしていて一番重要な所を忘れている気
がした。結局、有名ゴルファー監修のコースに軍配を揚げざるをえなかったのだ。