株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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 連載・ゴルフ場セミナー誌 2000年6月号    出版社:ゴルフダイジェスト社
 (1)「トム・モリスの国から」(連載第10回)

欧州を取り込んだ英国ゴルフ場設計家協会
 のっけから私事で恐縮だが、4月に英国設計家協会のメンバーになることができた。
この機会に英国ゴルフ場設計家協会やその教育制度などについて書いておきたい。
 2年前にF・ホートリー氏の推薦で設計家協会の学生会員になった時、世界中でコース設計を公に学べるのは此処し
かなかったが、来年からエジンバラ大学にマスターコースができる予定である。
設計家協会及び教育制度の歴史は10年ほどで、それ以前のトム・モリスから連
綿と連なる百年は、設計家はもっぱら個人的な経験則と才能によってコース設
計をしてきた。
 先進気質と才覚は今後も不可欠な要素だが、現在では技術や歴史を体系的に
学ぶことも必要になってきたのだ。
その理由は、20年程前までは極少数の著名な設計家が決めたことに異議を唱え
る人などいなかったが、ここ15年ほどの間に特に米国から近代設計に対する批
判と見直しの気運が高まり、それに対応して設計家も理論武装をする必要に迫
られたのだ。
 当の米国では、ゴルフ場設計が宅地開発と深く結び付いてきた歴史からか、
公の教育制度は未だ無いと聞いている。
ゴルフコースの設計家を目指す者は、大学で造園学や都市計画などを学び設計
事務所に就職するか、宅地開発業者の下で住宅に付随するコースを設計しなが
ら腕を磨く以外にコース設計家になる方法はなかった。
 無論有名なプロゴルファーが設計監修する事もあるが、彼等が土木工学の知
識を持っていることは皆無で、実施設計は別な技術者が影武者のように仕事を
してきた。 J・ニクラウスが良い例で、彼の設計チームは、人の出入りの多い
ことも含めて、ニクラウス学校などと呼ばれている。
 英国に話を戻すと、現在の設計家協会の教育制度は2年間に合計10週間程の
セミナーがあり、働きながらでも履修可能である。宿題として6つの論文と4つ
の設計課題を通して職業としてのゴルフ場設計を学び、最後に卒業論文と卒業
製作で適正が問われるようになっている。
卒業すると設計家協会の片隅に加われるが、その後の仕事と協会への無償奉仕
の量などによって順次格付けが上がる。
つまり、この教育制度は各設計家達の手弁当によって成り立っているのだ。
 ところで英国ゴルフ場設計家協会は来年つまり20世紀と共に消滅して、欧州
ゴルフ場設計家協会に生まれ変わる事が決まっている。表向きは、お互いの利
害を超えて文化面からも欧州統合を後押ししようという事だが、裏には複雑な
事情が見え隠れしている。
現在ヨーロッパ内でのゴルフ場開発は成熟しきった英国を離れて、東欧諸国や
北欧に移りつつある。当然、その地でアメリカ人設計家との競合になってくる。
しかし資本力に乏しい英国側の切り札は、低コストの開発手法と歴史と風土に
根ざした維持管理方法しかない。そのために既存の大陸側のゴルフ場設計者を
取り込む必要があったのだ。たぶん英国側から見れば大陸側の設計者の設計手
法など、まだまだ未熟だとの自負心もあったようだ。
一方の欧州大陸側のゴルフ場設計家達にとって見れば、それまでの利権は安堵
され、しかもR&Aのお墨付きまで付いてくるのだから一も二もなく賛成だし、
早くも陣取り合戦を開始している模様である。
 今回のゴルフ場設計界の欧州統合は、英国と米国との覇権争いだが、見方を
変えればゴルフの正統性を賭けたサバイバルゲームでもあるのだ。