株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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 連載・ゴルフ場セミナー誌 2000年9月号    出版社:ゴルフダイジェスト社
 (1)「トム・モリスの国から」(連載第13回)

情報戦の果てにあるオープンタイトル
 色々考えた末に、今回は来世紀のゴルフを占う意味から先月開催された全英オープンの総括をしておきたい。
 事前の現地では、優勝スコアーは
10以下に収まると予想されていた。
過去の優勝スコアーや距離を延ばした事、またバンカーの縁を切り立てた事がその理由だが、実際には優勝スコアーは20アンダーに届きそうな勢いで、
予想を遥かに上回っていた。
 この事は天候と優勝者の才能に帰結すると考えられがちだが、実は去年の
カヌスティーであまりに深いラフに選手達から苦情が出たことがきっかけに
なっているのだ。
今年は春先から給水を制限してフェスク芝の穂だけ高くし、見かけよりは簡単
なラフに仕立てる一方で、バンカーについてはクレームが出なかった事に気付
いたグリーンキーパーは、顎の角度をより急角度にしてペナルティーの度合を
強めたのだ。オールドコースではアンジュレーションの変更はできないから、
残された方法はフェアウエーやグリーンを可能な限り硬くする事とラフの境界
線を変えることでフェアウエーの幅を一部狭くする事しかない。
 セントアンドリューズはトムモリスが反時計回りに変更して以来、コースの
内側を使うルート、つまりフック系のボールが有利で安全な攻め方だと言われ
てきた。
ただ外側のOBラインぎりぎりにもっと有利なルートが存在することも指摘され
ていて、今回はそのルートを強調するようにラフを刈ってあったのだ。この
ルートはティーショットに大きなリスクを負わせるが、セカンドショットで
受けグリーンに向かって打てるという大きなアドバンテージがあり、硬い
グリーンにボールを止める為にはとても有利である。練習日を見ているとこの
コースの変化に早めに気付いた選手から、風向きによってティーショットの
使用クラブを色々と試し始めていた。
 さらにタイガーとデュバルのチームだけは、他の選手と別の情報を集めてい
たのだ。
彼等だけはティーショットやセカンドショットの落下地点とその後の転がりを
綿密に計測するチームを持っていて、場合によっては複数個のボールを打って
確かめていた。
最終練習日などは、あえてピンを狙わず、本戦初日の予想ピン位置に向かって
打つ程の周到さで、スゥイングの調整に余念のない日本選手とは明らかに大き
な差があった。
 確証は無いのだが、複数のチームがコースの綿密な等高線図と弾道のコン
ピューターシュミレーションソフトを使って(両方とも既に存在する)ある
程度の確率計算をしていると思う。足らないのは弾道の落下地点の地面の反発
係数だけで、これを実測により補なっていたのだろう。
 今やトッププレーヤー達は飛距離や球を操る技術だけではなく、情報戦の中
で戦っている。そこには陳腐な精神論は迷い込む余地など無く、冷徹な経済原
則だけが支配する世界なのだろう。
スター性のある若者には全ての富と情報が集まり、更にその価値を高めてゆく
一方で、過去の物として忘れ去られてゆく物もあるにちがいない。
 その中に必要な物はないのだろうか?ゴルフコース内での携帯電話と競技中
のカメラの使用は、是非とも残してもらいたい躾だと思う。
もっとも練習日には選手もコース内から所属事務所と連絡をしていたようだし、
優勝者の肉親でさえカメラを撮っていたぐらいだから、難しい時代になったも
のだ。
 不満を言う事は簡単でも、一つに纏め上げることは大変な作業である。
我々は大会関係者の熱意と努力に更めて敬意を表するべきだと感じた。