株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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 連載・ゴルフ場セミナー誌 2000年10月号    出版社:ゴルフダイジェスト社
 (1)「トム・モリスの国から」(連載第14回)

建築とゴルフ場の類似点は国際競争力の欠如
 家族の休暇を利用して、イタリアのヴェニスで開催中のに国際建築展覧会に行った。
  普段あまり接することのできない国からの参加も多く、世界の建築はどんな方向に向かおうとしているのか知りたかったからである。しかし日本館の展示には失望を通り超して怒りをおぼえた。
 建物を白いペンキで塗回し、床に白っぽい小豆砂利を敷き詰め、白い小菊の
造花を10cm間隔で所狭しと植幼女え付けた上、の写真を10枚程配置した日本館の
展示は、ワビサビと芸者ガールを現代的解釈で表現したつもりなのかもしれない。
しかし他の国の展示と較べても明らかに見劣りがし、同行した家族が『公衆便
所』とあだ名した程の失敗作であった。自動車会社に勤める彼女は『建築物や
ゴルフ場は移動できないから、横に並べて比較検討される機会が少なく、国際
競争力を養う機会がなかった』とまで言うのだ。
見渡すと実験的な試みに入れ込み過ぎて未完成の展示も散見されたが、それで
も創造に賭けるエネルギーに感銘を受ける展示が多かった。
 早めの夕食を運河沿いのレストランでとっていると、若いアメリカ人らしい
女性が二人、隣の席に案内されてきた。
金曜日の夕方だったこともあり、精一杯のお洒落をしている。食事後に若者が
集まるダウンタウンに繰り出すつもりなのだろう。
 通常イタリアのトラットリアではナイフが一本とフォークが2本セットされて
いる。これは前菜を一組みのナイフとフォークで食べた後、パスタをフォーク
一本で食べるのに都合良い。主菜の時は肉か魚かによってそれ用のナイフと
フォークが出てくる訳だ。ちなみに英国式は大小2組みのナイフとフォークを
セットするが、フォークの先端は天井を向く。フランスは逆にフォークの先端
がテーブルの方を向くのが正式である。
 我々がびっくりしたのは、彼女達がスパゲッティーをナイフでずたずたに切
り刻み、やおらフォークを右手に持ち変えて食べ始めたからである。
日本人は麺類好きで蕎麦と同じ調子でスパゲッティーをズルズルと音を立てて
食べる癖があるとは言われるが、麺をあらかじめ切って食べるという発想はない。
しかし食べ物が異なり道具が変われば食べ方も違って当然だと思う。
 私は日本人が音を立てて食べる理由を外国人に説明する必要に迫られた時、
ワインの味見をする時の事を話すことが多い。西洋でも香と風味をより味わう
ために口の中で空気とワインをゴボゴボと音を立てて混ぜ合わせる事は、味見
の時だけは許されている。(普通はやらない方がよい)
日本食の繊細な味をより引き出す為には、口の中で空気と食べ物を混ぜ合わせ
た方が良く、いつしか日本人は音を立てて食事をする習慣が身に付いたのだと
説明するのである。
 問題は、音を出して食べることが無作法とされる場所にいるにもかかわらず、
それを認識できない事なのだと思う。
人も情報も急速に情報化の波にさらされつつある昨今、日本独自の慣習が通用
しなくなってきている事は確かだろう。
 ところで、ゴルフコースの難易度や戦略性のみならず環境問題への取り組み
や地域社会への貢献度などを統一基準で評価しようという人達がいる。現在は
欧州内に限られているが、もしこの評価基準が一般に浸透してくると一種の格
付けのように機能し始めるだろう。ゴルフ倶楽部やコースが外国と同じ土俵で
比較検討されるような時代が、もうそこまで来ているのである。