株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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 連載・ゴルフ場セミナー誌 2001年3月号    出版社:ゴルフダイジェスト社
 (1)「トム・モリスの国から」(連載第19回)

コース内でのエチケット
 同じ英語でも英国と米国の言葉を較べると随分違う。
同じ日本人でも米国に住むほうが英国よりずっと早く英語が上達すると言われているが、その理由は何事にもあけすけなアメリカ人の国民性だけではないように思う。
英国に住み始めた外国人は大概が電話で苦労するという。
イギリス英語特有の回りくどい表現方法が判りにくい事と、慇懃無礼な言い回
しがはっきりした意見を包み隠しているように思えるのだ。
もっとも彼等に言わせれば、我々から見ると不必要に思える会話も相手の好み
や感情を感じ取りながら会話を自分の有利な方向に向けるための方便なのだそ
うで、大切な社会性の一つなのだろう。
 相手の感情を大切にするためか、誰かと話している間は電話が鳴っても決し
て話しを中断して電話に出る事はしない。逆に電話中は例え誰が話しかけよう
としても断固として拒否されるのだ。
 ゴルフにおいても人間関係の大切さは変わらない。
不幸にも打球事故が起こったとしても、球を打った本人が『フォー!』と声を
掛けたかどうかが争点になる。
声を掛けて相手もその声に気付いていれば、謝りに行った時も話しはスムーズだ。
逆に声を掛けていなければ、例え球に当らなかったとしても敵対関係とみなさ
れる事が多い。
余談だが平均的男性が打ったゴルフボールの破壊力は、22口径の拳銃から発射
された銃弾と同程度なのだそうだ。
人は無論のこと樹木も毎日何回も22口径の弾丸を打ち込まれては堪ったもので
はない。
 また気を使うという意味では倶楽部競技や大きな競技会中であっても、同伴
競技者が球を探している時に一人だけ自分の球の所に歩いて行く人などいない。
同伴競技者の打球の行方を見ていないのは失礼な事だし、例えパートナーでな
くても礼を尽くさなければならないからだ。
 『会話する時は必ず相手の眼を見て話しなさい』と何処かで聞いたことがあ
ると思うが、本当は相手の表情の変化を感じ、臨機応変に対応しなさいと言う
意味なのだ。
その意味で相手から眼の色が窺えないサングラスは大変に無礼な物らしい。
欧州は日本に較べてずっと緯度が高く(因みにロンドンは北緯51度だが稚内で
も北緯45度程度)太陽が低い位置を通る為に眩しい事が多い。しかも西欧人は
眼の色が薄くすぐに眼が痛くなるようだが、英国内の由緒ある倶楽部のメンバー
で、表情の判らなくなる程色の濃いサングラスを掛けている人は見たことがない。
逆に言えば他人との交流を拒否している人が、どうして倶楽部組織に属するの
か理解できないわけだ。つまりサングラスや自動車の窓は被視認性がある事が
重要なのだ。
 被り物も同様でゴルフプレー前後に交す握手の時には、男性は必ず帽子を取
らなければならないし、握手は素手の右手でするのが常識である。
 西洋社会では相当勇気がいる事だが、私個人は帽子を被ったままの人が握手
を求めても拒絶することにしている。
すると彼等は必ず後で非礼を謝りに来る。これは彼等が個人で考えるばかりで
なく、仲間とその事件について話し合っている事の証明なのだ。
 20世紀はマスメディアによる均一な情報の提供が重要視されてきたが、今世
紀は個別の相方向情報交換によってより深く細分化した意見がうねりとなって
社会を形成していくように思われる。無論これはIT産業の情報処理技術の進歩
のお陰だが、一方で個人の情報処理能力が問われる時代でもあるのだ。