株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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 連載・ゴルフ場セミナー誌 2001年5月号    出版社:ゴルフダイジェスト社
 (1)「トム・モリスの国から」(連載第21回)

狂牛病と口蹄役余話
 狂牛病に加えて口蹄疫に揺れる現在の英国では、牧養農家の敷地ばかりでなく公園等も閉鎖中の所が多く、公園の敷地内にあるゴルフ場も当然クローズしているが、事が事だけにメンバーからの不満の声は挙がっていない。
そればかりか人が沢山集まる場所(例えばサッカースタジアム)でも感染経路になる可能性があるためか、入場制限
があったり消毒液の中を歩かされたりするらしい。
英国は風土病が以外に多く、ゴルフ関係者にはこの機会に破傷風にも注意する
ように指示がでている程である。
 今回の騒動で不思議に思ったのは、普段活発に発言しているエコロジストや
青少年教育の専門家が鳴りを潜めてしまったことだ。
今や牧場は消毒液や殺菌剤まみれになっているし、ニュースでは公然と家畜を
屠殺する場面が写しだされている。牛の眉間にゲンノウで一撃を加えると
600kgもある巨体が崩れ落ちてゆく様は、相当にショッキングで暴力行為その
ものに感じるのだが、逆に疫病の脅威と被害の大きさを際だたせているような
気がする。
環境問題や教育問題は、ある程度の熟成された安定があっての話しで、疫病や
自然災害のような突然の危険の前には何の役にも立たないと痛感させられた。
ゴルフ場に於ても日々の安全管理と共に落雷や食中毒といった突発的な事故が
起こったときの対応は日頃から話しあっておくべきだろう。などと締め括るの
は簡単だが実はもっと激しい話しが控えている。
牧畜業者で資金繰りに余裕のない農家は今回の事件で離農し、纏まった土地が
買い叩けるかもしれないと踏んだ土地開発業者が、早くもゴルフ場の開発に
動きだし、設計家に打診してきたというのだ。
何とも期を見るに敏な連中だが、彼等は『政府が充分な援助をしないなら離散
農家の人達の手助けをしたい』と言っているのだそうだ。
もっとも、経済学者に言わせると株が暴落すると大多数の損をする投資家がい
る一方で、一握りの大儲けをする人達が必ず存在し、市中資金の総額が変わら
なければ富の偏在を助長するだけだそうだから、総ては経済原則通りなのだろ
うが、何ともやりきれない話しではある。
 次はゴルフグリーンのピッチマークの補修に使うピッチフォークの話題だが、
最近奇妙な形のものが発売されて困惑している。
この製品は元々は著名なパター製作者のデザインなのだそうだが、通常のピッチ
フォークを折曲げたうえ、部分的に厚みをつけてテコの原理で芝を持ち上げや
すくデザインされているという。
ピッチマークの補修の方法はゴルフを始めた時に先輩から厳しく躾られる作法
だと思うが、芝をえぐるように持ち上げてしまうと芝の根が切れてしまい、
グリーンを痛めてしまうので厳禁だったと記憶している。球が落ちた方向の反
対側からフォークを何度か突き刺し、芝の根を切らないように方寄せてから、
飛び散った芝を戻してパターの底で平たく直すのがお行儀で、自分のピッチ
マークの他にもう一つ他人の付けたピッチマークを直すように指導され、グリ
ーンを目を皿にして歩き廻っていたものだ。現代のグリーン構造ではどの方法
が良いか議論されるべきだろうが、テレビでトーナメントを見る限り欧州ツアー
ではティーペグで代用しているプロが多く神経質に芝をつついている光景が多
いが、確かにえぐるように芝を持ち上げている者も何人かいた。つまりグリーン
フォークが2本刃である必要はないのかもしれない。