株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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 連載・ゴルフ場セミナー誌 2001年6月号    出版社:ゴルフダイジェスト社
 (1)「トム・モリスの国から」(連載第22回)

海外に輸出された預託金制度
 海外に住んでいると、日本の悪い所ばかり目につくが、冷静に観察すれば米国や欧州も日本からの影響を受けている事に気付く。今回は日本で生まれた預託金制度が海外でどのように発展しているかをレポートしよう。
 この数年、英国内だけで20カ所以上ものゴルフコースを買収し、そのトラブルも含めて話題になっている米国資本
の会社がある。この会社の経営手法は日本の預託金制度の発典型とも言えるも
のだが、YOTAKU(れっきとした英語になっている)と言う表現は使っていない。
大まかに言ってこの会社の預託制度は日本と2つ相違点がある。
 一つめは会員が退会した場合には預託金を返還するウェイティングリストに
載る。新規入会者が現われた時には、彼が払った預託金がリスト順に退会者に
支払われるシステムになっている事。二つめは預託金の額が比較的少ない事と
金額が毎年改修費用などで目減りしていく事だと思う。これは見方によっては、
年会費の一部を前倒しして納めている事でもある。
 ゴルフ場は歴史が経てば総合的な価値は上がるはずだが、一方で耐久消費財
的な側面もあり、ハウスの設備などは十数年ごとに修繕するだろうし、コース
の改修も必要だろう。その都度かかる費用を予算化して、その時点の会員が分
担する原則である。
この場合、最初の会員は膨大な初期投資を分担しなければならず不利に思えるが、
英国では倶楽部創立当初からの会員は創立メンバーとして有形無形に優遇され
るシステムができ上がっているのだ。
 英国では1870年代にゴルフブームが興り、朱玉のコースが生れたが、その資
金は新興富裕階層が海外の植民地などから吸い上げたものであったことは前に
もお伝えした。彼等がゴルフのために莫大な資金をつぎ込んだまま凍結させて
おくほど優雅で貴族的でない事は考えるまでもなく明らかで、利益を創立メン
バー同士で再分配する手法を色々と編み出してきた。
またその地方の有力者が集まり、女性のいない倶楽部内は陰の行政府でも
あったのだ。
 ゴルフ場の開発費を広く浅く集める方法は、H.S.コルトがライGCの創立当時
に考えだした手法が最初のものだろうが、同氏のセントジョージスヒルGCでの
宅地開発と結び付けて募集する手法で一応の解答がでたと思う。
この手法はその後英国内ではあまり発展しなかったが、第二次大戦後の米国に
渡って標準化され現在も続いている。
 日本の預託制度は宅地開発の付加価値としてのゴルフから脱皮して、ゴルフ
そのものに価値を与えたところに意義を認めたい所だが、その錬金術は今から
思えば抜け漏れが多く、特に預託金と年会費の配分が片寄りすぎていたようだ。
その補修を怠った所に現在の預託金償還問題の原因があると思うのだ。
 英国での話題に戻ると、件の米国資本は急激な買収を繰り返したためかトラ
ブルも表面化しつつある。
この企業のシステムでは、一定の会員数を確保できれば採算割れにはならないが
以前からの会員の預託金返還にも応じる義務がある。が、コースを買収した上
に実質的には懐に入ったことの無い預託金を払う事は避けたい。
新入会員があるまで退会希望者に年会費を払わせるとか、系列コースの割引券
を配布するとか苦肉の策にでているようだが、民事訴訟の多い国では特効薬と
はなりえない。
 退会希望会員が出ないのは、あたりまえだが骨格がしっかりしていてメイン
テナンスに抜かりのないコースだけなのだそうだ。