株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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 連載・ゴルフ場セミナー誌 2001年9月号    出版社:ゴルフダイジェスト社
 (1)「トム・モリスの国から」(連載第25回)

ワイン作りとコース管理の共通点
 毎年夏になると水不足の心配をしなければならないのは、欧州でも同じことである。
奇妙な事は、欧州は年間降水量が概ね1000ミリ以下で少ないことに加え、冬場に雨量が多く夏場は乾燥しているのに比べ、日本は2倍以上の雨量があり
夏前に梅雨が在るにもかかわらず水不足を招くという無策である。
国土の傾斜がきつく、治水管理が容易でないことは充分理解できるが、主たる
河川計に直接キャパシタンスを負わせるのは得策ではなかったのだろう。安易
な公共事業に頼るばかりで自然の摂理に背を向けた水資源開発は既に限界にき
ていると思う。
 今回はゴルフと一見無関係に思えるワインの話である。
個人的にここ数年、半年に1回の頻度でフランスのボルドーまでワインの買い
出しに行っている。一度に150本位買うものだから、今では結構知り合いもでき、
我が家のハウスワインにしている蔵元とは苗木の剪定の仕方まで話すように
なった。
フランスの赤ワインと言えばブルゴーニュ(英国ではバーガンディーと呼ばれ、
なで肩のボトル)とボルドー(同じくクラレットと呼ばれ、いかり肩のボトル)
が二大産地で、特にボルドーと英国は繋がりが深く、英国系の資本によって開
発された所も多い事はご存じの通りである。
全英オープンの優勝カップは通称クラレットジャグと呼ばれているから『ボル
ドー赤ワイン用の徳利』と言う意味になる訳だ。
 現在のワイン界ではイタリアやフランスの他に、ニューワールドと呼ばれる
ヨーロッパ以外の産地のワインが台頭してきた。カリフォルニアやチリの南北
アメリカ大陸、オーストラリア、南アフリカなどのユーラシア大陸以外から葡
萄の香り豊かな赤ワインが運ばれてくる。
これらは総じてコストパフォーマンスが高く、味が安定しているので、評論家
の受けも良い。が、個人的には土地の薫りがしないので不思議に思っていた。
疑問はとても簡単に解けたのだが、それはフランスは葡萄畑に散水をしてはな
らないと法律で決められているからなのだ。
 近代的なニューワールドのワイン畑にはドリップ式の自動散水設備さえあり、
水不足から葡萄の生育が抑制されることはない。つまり毎年安定した品質のワ
インが安価に生産できる可能性が高いのだ。
ところが、恒常的に散水すると葡萄の樹が怠惰に育ち、地中深くまで根を張る
必要がない。結果的に葡萄の香りが強く地面の味がしないワインになってしま
うように思う。
フランスの高級ワインは出来の良い年と悪い年がはっきりしていいて、育てる
ほうも飲むほうも気合がいるが、喜びが大きいのだ。
 何を言わんとしているか、もう判ったと思うのだが、最近のリンクスコース
の管理方法は正にこの方法に近い。
コースを管理する側もプレーする側も歴史的なコースに敬意を払っていて、総
てをあるがままに受け入れる準備ができているように見える。
散水も施肥もぎりぎりまで抑制し、除草剤や殺菌剤、殺虫剤の使用も殺菌剤を
除いて殆ど使用しないのだ。
 プレーヤーもラフに関してはゴースであろうとフェスキューの穂だろうと
文句を言ったりはしない。球を打ったのは他ならぬ自分だからだ。
ただ近年の全英オープンを見ているとバンカーの顎の傾斜が年々きつくなり、
手前の傾斜を変えて球をより集めやすくして、バンカーのペナルティーの度合
を強くしている。
距離や、戦略性以前のスタンスを大切に考えているようだ。