株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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 連載・ゴルフ場セミナー誌 2001年11月号    出版社:ゴルフダイジェスト社
 (1)「トム・モリスの国から」(連載第27回)

理想的なクラブ運営
 今回のテロ事件を伝えるメディアの
反応を見ていると、英国人達の持って
いる世界観にびっくりさせられる
 大きくは2つの理由からだと納得し
たのだが、1つ目は世界地図に対する
理解で、彼等の考える東洋とはインド
であるらしい。中近東とはインドより
少し近い東の国、日本はインドよりずっと東だから極東と呼ばれている訳だ
欧州で使われる世界地図は、ロンドン近郊のグリニッジ天文台を中心に、西側
に米国大陸、東の端に中国が描かれている。日本は作図方法の為にずいぶん弓
なりに歪んだ形で表現されていて、彼等の日本観を象徴しているようだ。
 もう一つの理由は、ここ数百年の間で、他国との戦争に負けたことがない国
を挙げて見ると、英国と米国を含む極少数の国しかなく(フランスは一度はド
イツに全面降伏したのにちゃっかり勝戦国の仲間入りをした)しかも自国内が
主戦場になった事のない国はほぼこの二国だけだと思う。
 だからという訳でもないのだろうが、総てのルールはこの両国の利害を軸に
創られていているようだ。この事はゴルフ界についても同様で、R&AとUSGAが
自国の実情に合わせてルールを決めているように思う。
 当然、反対勢力も存在するはずで、R&Aに対してはミュアフィールド
(ジ・オナラブル・カンパニー・オブ・エジンバラ・ゴルファーズ)が最右翼
だろうと思っていたら、最近イングランドでそれに匹敵する倶楽部を見つけた。
サニングデールを勇退したハリー・コルトが自らのゴルフ観を具現化しようと
仲間と創った倶楽部で、アスコットとサニングデールの中間に位置するスイン
リー・フォレストという倶楽部である。
 此所はロイヤルの称号はついていないが、325名のメンバーの大半が何らかの
称号を持っているので、ことさらに皇室との関係を誇示する必要もないらしい。
倶楽部運営もある意味の理想を具現化している。毎年度末には、その年に掛
かった経費をメンバー全員で均等割りにして年会費としているのだ。
当然ビジターフィーに頼る必要などなく、会員の紹介状を持参した者だけがプ
レーすることを許される。因にビジターフィーは90ポンド(1万3千円程度)で
ある。
 もう一つ特徴的な事は、未だにボギーベースのスコアーカードを使っている
事だろう。
パーベースのスコアーに慣れた我々には馴染みが薄いと思うので、この機会に
説明しておく事にする。
ゴルフ競技がマッチプレー形式からストロークプレー形式に移行し始めた頃、
当時の最高のプレーヤーが18ホール総て最高のプレーを続けたとしたら、どん
なスコアーになるだろうか?という疑問が話題になった。現実的にはどんな人
も総てのホールで最高のプレーなどできないから、当時流行していた童話に出
てくる幽霊の名前をとって、そのスコアーをボギーと名付けた。
 時代が下り、用具も技術も進歩するとボギーより1打少ないスコアーも出始
めた。人々はプレーヤーを誉め称える為に、今度は実在する精力絶倫爺さん
(オールドマンパー)の名前を取って、パーと名付けた。この意味でパーは当
時の感覚では現在のバーディーと同じである。
 さらに時代が下ると、ある特定のホール(大抵がボギー5のホール)で標準
打数を上回るスコアーが続出するようになったので、パーを基本にスコアー
カードを造り直す倶楽部が現われ、それが瞬く間に標準解になったのだ。つまり、
70年前のボギー75だったコースは40年前にはパー72程度になった訳だ。