株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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 連載・ゴルフ場セミナー誌 2001年12月号    出版社:ゴルフダイジェスト社
 (1)「トム・モリスの国から」(連載第28回)

日照時間と樹木の位置関係
 夏時間が終わり日本との時差が9時間に戻ると、広葉樹はすっかり葉を落として、ゴルフコースは全く別の表情を見せるようになる。
広葉樹の幹や枝は、針葉樹に比べ複雑に折れ曲がっていてなにやら不気味な気配さえ漂い、葉の繁っている時の穏やかな風情と対照的で面白い。
十世紀以前の英国は針葉樹しかなく、広葉樹はその後海外から移植した物だと
言われているが遽には信じられない。現在ではイングランドはオークランド
(樫の土地)などと呼ばれ、樹齢300年を超える物も珍しくないのだ。
 この時期から年末にかけてはゴルフ場に限らず庭の樹の枝打ちをしたり、
伐採する仕事が待っている。1ヵ月ぶりにコースに出ると、コース脇の樹が伐
採されて突然フェアウエーが広くなったような気がしてびっくりする事もある。
 造園の専門家に言わせると、樹齢のそろった林は不安定に見えるのだそうだ。
老木と若木が適度に混じってこそ健全で自然な森林形態だそうで、ゴルフ
コースではそれが無視されがちなのだそうだ。
同様に、コース内では成熟した樹が戦略的な意味での立体的なハザードとして
扱われている事が多く、その樹が枯れてしまった時の為に早くから若木を傍に
植えておく事は、彼等の常識なのだそうだ。
 もう一つ、この時期は後輩から卒業論文に関しての問い合わせが多いし、
私のテーマが樹の伐採に係わることだったので、この機会に述べておくことに
する。
 何度も記したように、日本に比べてヨーロッパは緯度が高く、太陽が低い位
置を通る。
更に冬場の日照時間が少なく、夏場に比べて天候も優れない事も手伝って、
ゴルフコースの優劣はほぼ冬場のコンディションで決まると言っても過言では
ない。
私の卒業論文はゴルフコースにおける日照をテーマにしたもので、日本の建築
設計で求められる日影規制の考え方を応用したものだった。
元々この規制は、日本の劣悪な住居環境を少しでも良くしようと考えられたも
ので、大雑派に言えば『冬でも隣の家の2階の窓には陽がさすように自分の家の
高さを考えてください』というものだ。
現在ではパソコン上で動く『日影ソフト』も多数在り、これを応用して、樹種
や樹木の配置によって日照時間がどのように変化するかを検証してみたのだ。
広葉樹や針葉樹の仮想モデルを作り、位置関係と大きさ(樹齢)を決めると、
ある特定の地点における日照時間を求めることができる。逆に、特定の地点の
日照時間を決めると、周りにあるどの樹木が日照の邪魔をしているかも判る。
このソフトを利用すれば、グリーンの傍に数本の戦略的に重要な樹木が在った
としても、どの樹のどの枝を落とせば効率的に日照を確保できるか判るし、
樹木の成長に合わせた長期計画も立てやすい。
この提案は、太陽高度が低く樹齢の高い欧州では切実な問題に思えたのだ。
 簡易的な方法としては、木村浩先輩指導のもとで裾野CCで行った、魚眼レン
ズで天空を写して太陽軌跡と較べる方法でも充分実用になると思うが、長期的
な見通しやデーター管理の簡便さから見てパソコン利用に軍配が上がる。
 コンディションは日照問題だけで解決できる訳ではないが、夏場に較べて
極端に状態の悪くなるグリーンの場合、疑って見る必要があるだろう。
 論文提出後『シャドー』というあまり有難くないニックネームを貰うことに
なった。
ゴルフ界の恥部と言う意味らしく、暗に有色人種と日本のゴルフを揶揄してい
る事ぐらいの見当はついたのだが、バカバカしくて取り合う気にもなれなかった。