株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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 連載・ゴルフ場セミナー誌 2002年1月号    出版社:ゴルフダイジェスト社
 (1)「トム・モリスの国から」(連載第29回)

安直な補修工事が産んだ悲劇
 今回は酒でも呑みながら議論して貰うために、歴史的なホールがグリーンキーパーによっていとも簡単に堕落してしまった例を紹介しよう。
無論この事例は、メンバーの無知とスタッフの日和見主義が招いた結果なので、キーパーだけを責めるのは見当違
いだが、コース管理を任されているキーパーの見識に係わることに思えるので、
取り上げることにした。
事例に挙げるのは、ロンドンの南西部サリー州に百年程前に開場し、フェア
ウエーの中にバンカーがあることで物議をかもしたホールである。
 ウォーキングGCの4番は現在ではバックティーを増設したので336yardだが、
開場当時は300yard程度の纔に右ドッグしたボギー4だった。
グリーンはティーから見て左奥から右手前にかけて明確な傾斜があり、左右の
ガードバンカーのうち、左側は顎が高くて危険である。
ホールの右サイドは鉄道が走る為一直線にOBゾーンで、ティーショットの落下
地点付近に縦に2つのフェアウエーバンカーがあるのがこのホールの特徴である。
このバンカーはフェアウエーの中央付近にあり、前後に長いグリーンの長手方
向の延長線が丁度この2つのバンカーに向かうように設定されていて、バンカー
近くからのセカンドショットが有利なように考えられている。フェアウエーの
左サイド手前にもバンカーがあり、ティーショットの落とし場所とセカンド
ショットの球筋を同時に考える必要に迫られる事がこのホールを有名にしてい
る理由である。
 フェアウエーバンカーの左のルートを選ぶと、セカンドショットが顎の切り
立ったガードバンカー越えになり、更にグリーンは横傾斜になるので、ボール
をグリーン上に留めるのに苦労する。
一方、フェアウエーバンカーの右のルートを選ぶと受けグリーンに向かって花
道を使って攻めて行く事ができるが、OBラインとバンカーの間の狭いフェア
ウエーにボールを運ばなければならず、ティーショットのリスクが増す。
 此所までで、このホールがセントアンドリュースのオールドコースの16番の
近代的な解釈に基づくコピーである事に気付いた読者は相当な博識で、グリーン
キーパーの犯した間違いも解決方法も既に判っている事だろう。
 この様な有名なホールではプレーヤー側も事前に攻略方法を考えている事が
多く、右側のルートを選ぶ割合が高いようだ。しかし現実は幅15yardのフェア
ウエーをなかなか捕えられず、倶楽部側にバンカー右のフェアウエー幅を広げ
るように圧力を掛けることになる。事なかれ主義の支配人は倶楽部の総意とし
てグリーンキーパーにフェアウエーを広げるよう指示し、ホールの難易度が下
がる事を考えた結果としてフェアウエー全体を10yard右に移動させ、件のバン
カーを中心に左右25yardをフェアウエーとし、ホール全体を緩やかなドッグ
レッグから真直ぐにする事で一件落着とするわけだ。結果として、フェア
ウエーをOBラインぎりぎりまで広げた為に、かえってOBが増えてしまい、渋滞の
原因になっている有様だ。
 現代の一流プレーヤーならば、ティーショットで楽々バンカーを越えて打て
るだろうし、6番アイアンとウエッジでもバーディを狙えるだろうが、ティー
グラウンドでの選択肢が複数になるという意味で良いホールには違いない。
ハンデキャップが二桁のアマチュアにとっては正にハザードの近くに打てた人
が得をするという戦略設計の見本であり、挑戦意欲を掻き立てるホールの典型
である。