株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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 連載・ゴルフ場セミナー誌 2002年4月号    出版社:ゴルフダイジェスト社
 (1)「トム・モリスの国から」(連載第32回)

欧州の管理職はリストラ要員?
 春は何処の国でも人事異動の季節である。 EU内では国境を越えて職業を選ぶ自由が確保されているし、数年単位で勤め先を変わるのが普通で、十年も同じ会社だと珍しがられる位だからなおさらである。
今回は週38時間以内と言われる欧州の労働問題に焦点をあてる事にしよう。
 その前に英国は未だに階級意識が根強く残っているのだが、日本で考えられ
ているほど差別的ではないので最初に説明しておく事にする。
階級意識の根本は随分古い話しだが、農民の労働形態に端を発している。自分
の畑だけ耕していたのでは食べていけず、小作として労働力を売らなければな
らない人達が労働者階級。自作農家が中産階級。土地を他人に貸して自分では
耕作しなくなった農家を資産階級と呼んだのが始まりだ。
それが工場労働者が増えた産業革命以後、自分の時間と労働力を売って生活す
る人達を労働者階級。その人達を上司の命を受けて管理する人、つまり課長や
部長を中間管理職として、取締役以上の経営陣と区別したのだろう。
 欧州では激しい労働闘争の結果、労働者保護の立場から労働者はミスを起こ
さないものとして考える原則がある。
ミスが起きた場合やミスの発見が遅れた場合、また適切な事後処理を指示しな
かった場合は労働者を管理している側の問題だと考えられている。
当然その責任と復旧義務は管理者や経営者に帰属し、労働者個人は責任を追及
されず、無論解雇される事もない。
元々労働者は取るべき責任を持っていないと考えられているからで、これはボ
トムアップを旨とする日本と随分違うトップダウンの国の常識だと思う。ただ
気に食わない労働者を管理職に昇進させ、次の年に解雇するのは良く使われる
手で、中間管理職は常にいつでも解雇できるリストラ要員としての側面もある。
また管理職の常識として、他人の前で部下を叱咤することや、例えば部長が課
長を平社員の前で嗜める事は最も卑劣な行為だとされている。
顔を潰されたという感情的なしこりが残る以上に、誰が誰の人事権を持つか決
まっている欧州の会社組織では、統制が取れなくなるといった実利的な面があ
るかららしい。
つまり管理職は、日本の中流意識の幻想とはうらはらに、常に相当な軋轢にさ
らされ労働時間も長くなり、気力と体力の勝負になることが多い。
 欧州ではつい最近まで大学の進学率が一割以下しかなく、大学を卒業して就
職した瞬間から幹部候補生として部下を持つことが普通だったから、大学は専
門分野だけでなく将来の激務に耐えられるだけの人脈と体力をつける場として
の役割を持っていたのだ。
 という訳で、社会的地位が上がれば指数倍的に忙しくなるのでそれを嫌い、
能力も人望もあり管理職にしたいと望まれても頑として拒み続け、家庭や地域
者会の為に定年までの人生設計をする人達も少なからず存在する。
因に、定年が55歳のイタリアやオーストリーと60歳の英国やフランスで少し事
情は違うが、ほんの一握りのトップを除き定年間近の役員は少ないようだ。
その前に燃え尽きて早期退職を選ぶのが普通で、ドイツなど女性の定年が55歳、
男性は60歳なのだが、多くの男性が早期退職を選んで55歳で定年を向かえる。
 彼等早期退職者が新たなゴルフ市場を創出し始めている事は明らかで、比較
的高額な用具の需要が増えてきた事に加え、倶楽部の年齢分布を変化させる原
動力にもなってきつつある。驚いたことに、彼等のお陰で若返りを果たす倶楽
部が多いのだそうだ。