株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
ホーム
プロフィール
掲載原稿・講演会
週刊コラム
出版物
連絡先
トップページ
 連載・ゴルフ場セミナー誌 2002年5月号    出版社:ゴルフダイジェスト社
 (1)「トム・モリスの国から」(連載第33回)

ハウス内の事務所にキーパーの机
 家庭的な雰囲気を持つ欧州のローカルなプライベート倶楽部では、コース管理スタッフの数は臨時雇いを含めても9人以下が普通で、中には4人で廻している所さえある。
当然できる事には限りがあり最高級の管理には程遠いが、人数を考えると良くやっている印象を与える。
同様にハウス内にいるスッタフも支配人を含め8人程度が標準的だが、パソコン
をうまく利用して、的確な情報を会員に提供している。
 会員数をスタッフの数で割ると4〜50人程度になるが、この割合は同時に
ホールあたりの適正会員数でもあると考えられている。こうしたバランス感覚
は快適な倶楽部ライフには是非とも必要で、ヒューマンスケールから逸脱した
バランスは早晩破綻をきたすようだ。無論、クラブハウス内に120人もの
スタッフを抱えてホテル機能を持ち、結婚式や国際会議までこなす倶楽部もあ
るが、大都市近郊の極限られた地域にしか需要はない。
日本のゴルフ環境が今後どのように展開してゆくか判らないが、大部分のコース
で激しい省力化の波は否応無く押し寄せてくると思う。今回は設計家つまり自
分自身の存在意義を見つめ直す話しです。
 先日、日本ゴルフ場設計者協会の総会の為一時帰国した折りに、下関ゴルフ
倶楽部の西尾キーパーを訪ねた。
今年の日本Openの舞台になる高麗芝で出来た海岸沿いのゴルフ場を見たかった
のだが、芝環境以上に考えさせられる事が多かったので紹介する。
 先ずクラブハウス内の事務所にキーパーの机がある事で、この様な例は欧州
も含めて初めてだった。なる程これならメンバーの声が直に耳に入るし、他の
部署や支配人との風通しも良い。
管理棟に閉じ篭っていると、理事会や支配人がキーパーを呼びつけて指示を出
すという状況になりがちで、独立性は守れるが要求は通りにくくなるだろう。
昨今のように厳しい経済状況下ではなおさらで、実力のあるキーパーなら考え
て見るべきだと感じた。
 次はコース全体を見通した大局観で、長期的に見た海岸沿いのコースが動く
原因への深い理解である。
これまでリンクスコースのアンジュレーションの成り立ちについて、A.マッケ
ンジーは波が造ると言い、地勢学者は風が造ると言ってきた。しかし、伏流水
の変動によって起伏が変化するという西尾さんの考え方は的を得ている。
美しいアンジュレーションはその成り立ちを理解しなくては造ることはできない。
この事から我々の最終的な目標は外国の著名なコースの模倣をする事ではなく、
自然其の物を写取る努力をする事なのだと改めて感じた。
 3番目は3年程度の中期的な管理計画を立てることにより、管理費削減の可能
性を判断する事ができるという話しで、芝草や床土についての愛情と経済環境
の折り合いを何処でつけるかの指針になると思った。
 最後は設計家の限界を指摘する話しで『設計家は工事が終わると逃げてしまう』
と言われた時にはドキッとした。
私個人はキーパーの仕事は補修工事までで、改修工事は我々設計者に任せて欲
しいと思ってきたが、何年にも渡って毎日コースを見続けてきたキーパーに勝
る人材はいない。
少なくとも年4回、四季折々に経年変化を確かめる事ができない設計者は
オミットすべきであると感じた。
設計者の仕事に較べキーパーの仕事はゆっくりとしか進まないが、樹木の成長
と同じように日々の楽しみがあるのだ。