株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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 連載・ゴルフ場セミナー誌 2002年6月号    出版社:ゴルフダイジェスト社
 (1)「トム・モリスの国から」(連載第34回)

英国の土地保有形式とゴルフ
  百歳を超えたエリザベス女王の母が亡くなり、荘厳な葬儀が行われたので御覧になった読者も多いと思う。
ゴルフ倶楽部も国旗を半旗にして弔意を表していたが、欧州の倶楽部組織ではメンバーが亡くなった時は倶楽部旗を半旗にする習慣がある。
日常生活と倶楽部ライフが密接に結び付いていて、とても羨ましく感じられる
光景だ。
 英国の皇族達は未だに広大な土地を所有し、その地代などで資産を維持して
いる。因にエリザベス女王の個人資産額は英国の上位20人に入っており、多額
納税者でもあるのだ。つまり固定資産税との関係から大規模土地所有者の存在
が不動産価格の下げ圧力になっており、土地の価格は安値で安定してきた。
しかし此所数年、好景気を反映してか住宅の価格が急騰し問題になっている。
通常、不動産は好景気時期には売買物件が多く出廻り、不況期には賃貸物件が
多くなると言われているが、大地主の多い英国では売買物件と雖も所有権
(フリーホールド)は少なく過半が日本で言う借地権付物件(リースホールド)
である。大概が30〜50年程の借地権だが、香港のように最長99年まである。
 ゴルフコースの敷地も大地主から借りている場合が多いのだが、不動産価格
の高騰に連動した固定資産税に音を上げた地主が土地を維持できず、その対処
に苦慮している所が多いのだそうだ。
契約上、地主の返還要求には応じなければならないが、新たなゴルフ場用地の
手当がつかず、結局解散する事になったゴルフ倶楽部もある。
日本の場合とは事情が違うにしても、長年所属してきた組織が消滅してしまう
のは、やはり寂しいのだろう。と、思っていたら当のメンバー達は以外にサバ
サバしている。
『俺達は随分楽しんだし、次世代の若者は古びたコースに囚われずにその時代
に合った倶楽部を造れるじゃないか』
と言われると妙に納得させられてしまった。
 欧州ではゴルフコースは適度に管理された自然環境であると認識されている
ようで、樹齢の高い大木を切り倒す時には地域住民の賛同を得なければならな
いが、その事を別にすれば比較的簡単に許認可が下りる。また牧草地や放牧地、
耕作地などを纏めてゴルフコースにする事が多い。
 日本では農地転用は殆ど御法度状態だが、再考する価値はあるように思える。
政府の減反政策や輸入規制緩和によって放置されている農耕地を纏めて、英国
のリースホールドのように農家から土地を借りる事はどうだろうか。無論減反
政策が廃止された暁には元通りに復旧して返す前提である。大規模な工事は行
わず最低限の予算しか使えないが、逆に現況を活かすために防災工事の必要も
無く、パブリックコースにはぴったりの方法だと思う。
この開発の利点は、政府にとっては税収が増すことと減反保証金が節約できる
こと。農家にとっては自分の土地を手放さずに新たな収入源が生まれること。
ゴルファーにとっては低料金の選択肢が増えることだろう。
 設計者協会も参加しているので言いにくいのだが、ゴルフ関連団体が数年前
から取り組んでいるゴルフ場利用税廃止運動は、税制調査会側から見れば税収
入が減ることに見合うメリットが見つけにくいのではないかと思う。
また、欧州のゴルフ事情から見れば自分が使う道具をキャディーに運ばせるの
が普通の日本のゴルフ環境を、国民スポーツと呼んで良いのかどうか自信が持
てないでいる。