株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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 連載・ゴルフ場セミナー誌 2002年8月号    出版社:ゴルフダイジェスト社
 (1)「トム・モリスの国から」(連載第36回)

テニスやサッカーの人気の秘密
 前回の競馬場に引き続き、今回はテニスコートの芝の話しから始めよう
ウィンブルドンのローンコートは、体積比で4分の1が粘土質の重い土を床にし擦り切れ対抗性の観点からライグラス(Loria)100%を使い15mmに刈り込んだ上ローラー掛けで弾みを調節している。
芝が水分を含むと、ボールが弾まなくなる事に加え、プレーヤーが滑って危険
であるとの理由で、雨が降ると一斉にシートを掛けてカチンカチンの状態を維
持するのだ。
倶楽部全体で試合用コートが20面と練習用コートが14面あり、15人の管理スタッフ
と夏場に数人の外国人研修生を加えて管理しているそうだ。
 ウィンブルドンのテニス大会の歴史はゴルフのThe Openとほぼ同時期の
1877年、倶楽部の財政難を救うために始められた事は興味深い。
腕自慢のアマチュアを集めて懸賞金を争奪する試合形式と、その試合を見せて
入場料を徴収するという当時としては画期的なアイデアが当たり、見事に倶楽
部は財政危機を乗りきったばかりか、現在の隆盛の礎を築いたのだ。
 このような素朴な競技会はゴルフ競技でも実現可能で、メンバーが進んでボ
ランティアを引き受ければ、倶楽部組織の結束力も強まると思う。
組織の弱体化と財政難は卵と鶏のような関係で、何処かで悪循環を止める手だ
てを打たなければ衰退を食い止める事はできないと思う。
 何故こんな縁起でもない話しをするかというと、サッカー(欧州ではフット
ボールと呼ぶ)のワールドカップをテレビ観戦していてゴルフの将来に危機感
を覚えたのだ。
 興行的にみてサッカーに較べてゴルフは3つの欠点があると思う。
1つ目は競技時間と競技場の規模の問題で、観衆が熱狂できるのは長くても2時
間までだし、サッカーコートの百倍の面積を歩き廻る事も考えなければならない。
この事から現在大勢を占めているストロークプレーの是非も考えるべきだろう。
2つ目は現代は代理戦争の時代だという世情認識である。多数の国籍の違う選手
が活躍しない限り個人競技ではなかなか自己投影ができない。
この事からもっとチーム戦を取り入れてゆくべきだろう。
3つ目は(これが一番重要だと思うのだが)ゴルフは実社会の世相を反映した
競技ではないという事実を認識しなければなるまい。
反則の警告後に出てくるスローモーションを見ると、明らかに相手選手を妨害
しているにも係わらず、両手を上げて無実をアピールしている場合が多い。
ゴルファーから見るとサッカー選手は虚偽の申告ばかりしている様に感じるが、
現実の社会とはこのような物だろう。
元々、ゴルフに限らず倶楽部組織自体が実社会から隔絶された一種の夢の空間
として企画されてきたのだ。
 これらから導き出せる結論は、ゴルフは大衆化と尖鋭化という二極分解する
だろうという極当たり前のものである。
大衆化の行き着くところは、低料金のパブリックコースに始まり、シニア用や
女性専用倶楽部などの分化を経て、全く新しい競技へと発展してゆくだろう。
テレビなどマスコミの先導が必要だが、9H程度のマッチプレー形式で、一打一打
がサドンデスの様な緊張感を持たせるため極端に難しいコースを用意する。
この場合難しいライさえ再現できれば必ずしも現実のコースが必要な訳ではなく、
倉庫の中にスタジアムを造っても、電脳仮想空間であっても構わないだろう。
 誌面が尽きたので以下次号