株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
ホーム
プロフィール
掲載原稿・講演会
週刊コラム
出版物
連絡先
トップページ
 連載・ゴルフ場セミナー誌 2002年9月号    出版社:ゴルフダイジェスト社
 (1)「トム・モリスの国から」(連載第37回)

全英オープンの評価を変えた一言
  全英オープンの事前取材でミュアフィールドを訪れた時、キーパーが虎用の罠を仕掛けておいたと笑っていた
スコットランド人の彼は同郷のモンゴメリー選手を勝たせたいのだが、彼の為にコースをセットすると同じような球質を持つアーニー・エルス選手にも有利になってしまうと嘆いていたのが印象に残っている。現代の優秀なグリーン
キーパーは、トーナメントゴルファーの技術をも冷徹に分析するらしい。
 今年はバンカー毎に各地から集まったグリーンキーパーを配置する方式を
やめ、ドロー毎にレーキを担いだキーパーが付いて歩く形式だった。
この方が一流選手のプレーを間近で観察できるので、ボランティアで集まった
キーパーからは好評らしいが、バンカーレーキを担いで歩く姿は孫悟空に出て
くる猪八戒のようでユーモラスだった。
 グリーンスピードは規定の11.5feetを大幅に下回っていたがこの理由を説明
しておこう。これは大会直前に主催者側の役員が視察プレーをして、グリーン
に不陸が多く滑らかな転がりが得られていないと不満を言ったことが直接の原
因らしい。
慌てて薄目砂し良く擦り込んだのだが、1週間では芝が砂を食う暇もなく、
結果的に砂が浮いてしまい本来のスピードを殺したばかりか評価まで落として
しまったのだ。
欧州では砂の浮いたグリーンを極端に嫌う。その理由はパットの度にボールを
拭かなくてはならない繁雑さに加え、公正なテストにならないと考えられてい
るからである。
砂の浮いたグリーンはスピンの利いたボールの食い付きが悪く、逆に棒玉でも
適度に止まってくれるので技術の優劣が結果に現れず不公平だと考えられてい
るのだ。
後で聞けば件の役員はパット上手とは言えず、グリーンキーパーの口惜しさを
考えると、何処の国にも思慮を欠いた一言で現場を混乱させる輩はいるものだ
と思う。
 という訳で、やっと先月の続きのゴルフ場の将来にたどり着いた。先月は
大衆化の行き着くところは、彼等に判りやすいゲーム性に尽きるという所まで
だった。
逆に尖鋭化の目指す方向は、イデオロギー無き社会主義国家の日本において、
誰にでも判る差別化だろうと思う。
 欧米において標準的に存在し、日本には未だ無い差別化の筆頭は、何といっても
ハンデキャップ制限だろう。
極端な例かもしれないが、シングルフィギアーハンデを持つ人しか入会できな
い倶楽部が在っても良いと思う。
当然、ハンデキャップが二桁に落ちれば退会しなくてはならないが、アク
ティブ会員が多い方が組織の活力が高まる。
入会資格は簡単で、ハーフセットのバッグを担いで、3ボールで3時間半以内に
90以下のスコアーで楽しく廻れば良く、倶楽部の正式ハンデは倶楽部競技の
スコアーカードが必要だから練習ラウンドも含めると年間ラウンド数が多くな
るだろう。
試算して驚いたのは、難易度の高いコースを管理する方が全体の管理費用が安
く収まる可能性がある事だ。
例えばティーの先端からフェアウエーの前端までの距離を180y程に延ばせれば、
随分管理面積が減る事が判っているのに、今までは初心者を取り込もうとし過
ぎて逆に自分の首を締めていたようだ。
日本のグリーンキーパーの管理技術は充分に高く、グリーンを含めて過剰管理
に思えるので、ヘッドを含めて十人程度で何処まで質を落とさずに管理できる
か真剣に考えて見る必要があるだろう。