株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
ホーム
プロフィール
掲載原稿・講演会
週刊コラム
出版物
連絡先
トップページ
 連載・ゴルフ場セミナー誌 2002年12月号    出版社:ゴルフダイジェスト社
 (1)「トム・モリスの国から」(連載第40回)

ハーフターンの立ち食い寿司
 帰国してしばらく経って日本の食生活にも慣れてくると、この店は美味しいとか他に較べて安いとかの判断ができるようになる。食べ物に対する評価基準を持つ為には、数ヶ月の食べ歩く時間とその土地の食材を実際に自分で調理してみないと、旅行の延長になってしまうように思えるのだ。日本は欧米に較べ新鮮な野菜が多種類手に入る為か、
気候風土に合っているせいか判らないが、和食がとにかく美味しくてたまらない。
元来和食には豆腐や鰹節や醤油などの半製品が多く、家庭で作る場合も少し手
を掛けるだけで簡単に味を変化させる事が可能で、出来合い製品やファースト
フードと違った意味で日本文化の美点だと思う。

 因みに、欧州人の考える世界三大料理とはフランス料理中華料理と和食
ではなくてトルコ料理であるらしいがこの2ヶ月というもの英国人は一生この
味は理解できまいとか、日本人に生まれてきて良かったなどと、密かにほくそ
えみながら秋の味覚を頬張っている。
 値段が高くてしかも口に合わなければ足が遠のき、安くて旨ければまた寄っ
てみようと言う気になるのは極自然な事に思えるのだが、問題はそれほど単純
ではない。TPOに相応しい価格と品質のバランスがあるからだ。
 
  最近は「小洒落たお店に旨い処なし」と言う格言は当っていると思うように
なった。ゴルフ場に目を向けてみると「小洒落た処」が多いように感じるが、
英国人の友人に言わせると菜食主義者(ベジタリアン)の食べる物が判らず、
困るのだそうだ。

 菜食主義者と言っても色々あり、経験測だが宗教上の理由から制限をしている
人は少数派で、現代では動物虐待に心を痛め自分の意思で肉を食べない事にし
ている心優しき人達が多いようだ。
肉類は駄目だが卵や牛乳は大丈夫な人、鶏や魚介類は何の制限もなく食べる人
などさまざまだが、最近ビーガンと呼ばれる完全菜食主義の人達が増え続けて
おり、家族から本人の健康を危惧する声も挙がってちょっとした社会問題に
なっている。
日本では見かけないが、欧州では米国資本のファーストフード店でさえ必ず菜
食主義者用の料理が在り、細かい注文にも丁寧に応じているのだ。
ゴルフ倶楽部の食堂でも必ず一種類は菜食主義者用の料理があるが4種類しか
ない中の一種類という場合が多く、苦笑してしまう。
余談だが欧州では会員制のゴルフ倶楽部の食堂はレストランと呼ばない。どう
してもカタカナを使う必要があればダイニングと呼んだ方が良いと思うが
日本式の汗臭いゴルフ着でラウンドの途中に昼食を取るスタイルとは橇が合わ
ないようにも感じる。
先日、買い物の途中で立ち食いの鮨屋(回転寿司ではない)があったので入っ
てみた。一カンが70円ほどだが、職人一人で切り盛りしており、注文にその場
で応じて握るのは普通の鮨屋と同じ。カウンターしかないが一度に8人ぐらい
なら対処できそうだった。これはまさに江戸文化の再現で、そそっかしくて気
短な江戸っ子にぴったり食べ物だったのだろう。
江戸時代に屋台で供されていた物は鮨の他にも蕎麦や天婦羅があるが、現代に
おいて客席数と厨房面積の割合から見ると、ゴルフコースのハーフウエーハウス
には立ち食いの鮨屋が最も相応しい。
今や日本食は世界中で健康食として認知されているし、胡瓜巻とカッパ巻は
ビーガンの人達も食べられるのだ。
 来年号から新連載です。