株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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 月刊ゴルフメイト誌 2003年2月号                 出版社:丸善
  「迫田耕のアカデミック講座」(連載第3回)

芝の種類と刈り高によるプレーへの影響
 今回は芝の種類と刈り高によるプレーへの影響について考えましょう。
日本では高麗グリーンとベントグリーンの2グリーンシステムが多く使われていますので、読者の皆さんも高麗芝が夏芝、ベント芝が冬芝と呼ばれている事はご存知だと思います。

実は高麗芝もベント芝も同じイネ科の植物なのですが、高麗芝は文字通りイネ
の仲間なのに対し、ベント芝などの冬芝は麦の仲間なのです。
イネは収穫期の秋を迎えると枯れてしまいますが、麦は冬でも青々としていて
麦踏みをしている光景を目にされた方もいらっしゃる事でしょう。
ゴルフ場の芝も同じで、イネの仲間の高麗芝は春から秋までの暑く日射量の
多い時期には繁殖力が旺盛ですが、寒くなると地上部分は枯れ、地下部分も
冬眠してしまいます。

逆に麦の仲間のベント芝は、夏の間はイネの仲間に較べて成長力が劣りますが、
冬でも発育し蒼さを保つので冬場のグリーンに使われている訳です。
 一般にベントと呼ばれていますが、冬芝には雑草も含めて色々な種類があります
ここ10年ほどの間グリーンで良く使われてきたペンクロスベント芝について
説明をしておくと、米国のペンシルバニア大学で開発された三種類のベント芝
の交配(クロス)種の事を略してペン・クロス・ベントと呼んでいるのです。
洋芝は常緑を保つ事の他に背丈が高くなる性質もあります。グリーンで4mm程に
刈り揃えられている芝でも、放って置くとすぐに膝の高さまで伸びて穂を出し
始めますので、裏庭に練習グリーンを作る場合には少なくとも三日に一回の
芝刈りは覚悟しておいてください。
また米国と日本は交配品種にせよ単一品種を育てる事が多いのですが、英国も
含め欧州では複数種類の芝の種を混ぜて使うことが一般的です。その方が環境
変化に強く管理コストが削減できるからです。

 さて、芝の種類が判ったところで実際のゴルフコースでどのように使われて
いるか見てみましょう。
先ほども書きましたがパッティンググリーンではゴルフボールが滑らかに転が
るように、芝本来の高さよりずっと低い高さに刈り揃えます。同じ強さで打た
れた球がより遠くまで転がる場合、速いグリーンと称されますが、決して球が
独りでに加速したりはしません。通常スティンプメーターと呼ばれる1m程の
アルミニューム製の樋を20度ぐらい傾けてボールを転がし、グリーン上を
転がった距離で速さを数値化しています。一般的なコースでの速さは2.5m程
ですが、最近のプロのトーナメントでは3mぐらいです。公表はされていませんが
毎年四月に米国ジョージア州アトランタで行われるマスターズトーナメントでは
4m以上にもなるようです。

このような高速グリーンではほんの少しの凸凹でも影響が大きいので朝晩2回、
しかも芝目の影響が出ないように縦横に2.8mmの高さで芝刈りをした上、
ローラーを掛けて固く締め、鏡のような状態を作るのだそうです。
 次に芝を低く刈る場所は、グリーン周りのカラーの部分とティーグラウンドです。
芝の硬さにもよりますが、大概8mmから12mmぐらいに刈り込み、フェアウエーは
もう少し長く12mmから16mmの高さに調整するようです。
ところで、読者諸氏はゴルフボールの大きさをご存知だと思いますが、直径
ほぼ42mmのゴルフボールの赤道まで、つまり21mm以上の芝に埋まった球は
相当打ちにくくなります。

という訳で、セミラフは21mm程度、ラフは25mmから球がすっぽり隠れてしまう
45mmほどの刈り高にすることが多いようです。それ以上にすると球が見つから
なくなってしまうからです。
 ところで、アプローチに使うウエッジはロフトが50度から60度もありますから、
絵に描いてみるまでもなくセミラフに鎮座したゴルフボールを芝に触らずに
打つことは不可能で、スピンも掛かり難くなるわけです。