遣唐使の時代から、日本は外国文化を取り入れて咀嚼するのが得意な国でした。その結果の貪欲な知識欲の賜物として、我々は沢山の文字体系を持つに至りました。
外国の友人は全ての表現を30個ほどのアルファベットだけで済ませますが、私達は2000以上もある漢字、50ほどのひらがなとカタカナ、さらにアルファベット
も使います。
特にカタカナは、外国語を簡単に日本語にしてしまう特効薬で、気が付けば、
意味不明な和製英語が多く出回っているようです。今回はゴルフにまつわる
奇妙な和製英語の話しですが、別に欧米と同じ意味でなければならないとは
思いませんし、正そうとも思いません。ただ、その表現の違いが生まれたもっと
根本にある、概念的な違いを好学のためにお伝えしたいのです。
最初の例は、英語の単語や熟語をハッショッテしまった為、英語として
意味が判らなくなった物です。ドラコン、ニアピン、コンペ、ハンディ、ティ
グラウンドなどですが、無論読者の方々は、外人にも判る表現も当然ご存知の
事と思います。
因みに外国でのニアピンは、グリーン上の球とは限りません。
また打順も、カップから遠い順に打つのがルールブックにも書かれたマナー
ですから、ピンを抜いてグリーンの端に乗った球をプレーした後、またピンを
挿して、バンカーショットをする事が良くあります。
日本の習慣は、キャディーさんの便宜を優先させた結果のようです。
これとは逆に、ホールカップのように、屋上屋を架す例もあります。
この犯人はどうも故宮本留吉プロのようですが、欧米ではホールとカップは
同時に重ねては使いません。でも随分昔のテレビ放映初期の時代の事ですから、
許してあげて下さい。
3番目の例は、バフィーとクリークのように、名称が間違って伝わって
しまった物です。最近ではドライバーとパターを除いて、他のクラブを固有
名称で呼ぶ事が少なくなりましたが、昔はマッシ−だのニブリックだの、
全ての道具を固有名称で呼んでいました。
如何した訳か日本では4Wの事をバフィーと呼び、5Wの事をクリークと呼び
習わしていますが、欧米ではまったく逆に呼んでいました。
同じ例かどうか判りませんが、ディボットも日本では奇妙な使い方をされて
いるようです。本来はアイアンクラブなどで削り取られた芝土そのものの事を
ディボットと言いますから、えぐれた地面や芝面はディボット跡と呼ぶべきです。
つまり、ディボットに入ってしまったと表現するのは間違いです。
同様に、ロングホール、ミドルホール、ショートホールという単語は、必ず
しもパー5、パー4、パー3と同値ではありません。確かに距離の長いホールは
パー5になりやすく、短いとパー3にはなりますが、ミドルホールとはあまり
言いません。
最後に登場するのは、パッティングでよく使われるスライスラインや
フックラインの話です。この造語は、ひょっとしたら日本文化を象徴するような
大発明かもしれないと良く思うのですが、残念な事に、欧米人のゴルファー
にはまったく理解できない表現です。
彼らはいつも左から右とか、右から左に曲がるとか表現します。
彼らに言わせると、球を打つ動作が間違っていたために右に曲がるのをスライス
ボールと呼ぶのは正しい。しかし、真直ぐ打ったにもかかわらず右に曲がりながら
転がってゆくのをスライスと表現するのはおかしい。と、主張して譲りません。
本来スライスという言葉は、薄くそぎ取るように切るという意味で、人間の行為
や行動を表しています。それが転じて、ゴルフスィングが未熟で、カットボール
しか打てない人の球をスライスと呼ぶようになったのだそうです。
つまり、人為的なミスではないのに、地形などの副次的な原因によって球の
行方が左右される場合、人間の行動様式から派生してきた単語で表すのは
可笑しいと言うのです。
なんだか哲学的な問題に発展しそうですが、納得して頂けましたか?
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