株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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 月刊ゴルフメイト誌 2003年8月号                出版社:丸善
  「迫田耕のアカデミック講座」(連載第9回)

クラブヘッドとボールの降る舞いについて
 今回はインパクト前後のクラブヘッド
とボールの振る舞いについて、ゴルフ以外のスポーツによって得られた情報をお伝えします。
 最初はビリヤードの研究から解ってきた事象で、パターでボールを転がす時のエネルギーの話題です。

一般に、均一で密実な球(最近の2ピースのゴルフボールはこの状態に近い)が
滑らずに転がっている時は、球の重心が移動するエネルギーだけではなく、
球が回転するためにもエネルギーが必要です。
パターでゴルフボールをヒットした瞬間は殆どスピンが掛かっていませんから、
重心が移動するだけのエネルギーを与えているようです。
その後、芝との摩擦によって徐々に回転がつき始め、距離にして全体の1割
ぐらい進んだ地点からは、滑らずに転がると考えられています。
実は力学上の法則から、水平に力を加えられた球が、その瞬間から滑らずに
転がってゆくためには球の直径の七分の五の位置に力を加えなくては
ならない事が分かっています。

ビリヤードではこの場所より高い位置を突くと「押し球」、低い位置を突くと
「引き球」になる事が知られていますし、ビリヤード台の枠(クッション)は
正確にビリヤードの球の直径の5/7の高さに調整されているのです。

パットの名手は、転がりの良いパットを打つために多くの練習時間を費やし
ますが、打った瞬間から順回転が掛かるようなパットを打ちたいと言っている
のを良く聞きます。
パターのロフトは一般に4度ほどありますからインパクトの時にハンド
ファーストにする事を考えても、ボールの中心より上の部分にインパクトする事は
難しくまして直径5/7の位置をヒットするためには、ロフトが-20度位の
パターを使わなくてはなりません。

 近年スイートスポットの拡大のためにクラブヘッドがどんどん大型化して
きましたが、その発端はテニスのラケットの大型化(デカラケ)にヒントを得た
カーステン・ソルハイム氏(ピンの創設者)である事は、よく知られた事実です。
デカラケは当初、普通サイズのラケットに比べてローボレーに難があると
言われていました。

理由はサイズの大型化に伴って低い位置のボールを処理する時に、フレーム
地面を擦る事が多くなり、球を拾い上げ難くなるからでした。ゴルフでは
ティーアップできるのは1ラウンドで18回だけですから、他の大半のショットは
芝の上に鎮座した球を打たなければなりません言い換えれば大半のショット
はテニスのローボレーと同じような状態で、球を捕らえているのです。

つまり、フェアウエーで使う事を前提に作られたアイアンクラブやフェアウエー
ウッドは、水平方向(トウ、ヒール方向)には今後スイートエリアが広がってゆく
可能性はありますが、垂直方向には余り余地がありません。垂直方向にスイート
エリアを広げようとして大きくすると、ダフらない限りジャストミートできない
クラブになってしまうからです。
そのような事から考えると近未来のクラブはヒラメや鰈のような平べったい形
になるのではないか、と思っています。

 最後は、野球のバットの話です。
バットのスイートスポットはバットの重心の位置よりずっと先端よりにあることは
ご存知の通りです。ゴルフのクラブも同様に重心位置よりもずっと先端のクラブ
ヘッドにスイートスポットがあるのですが、同じヘッドを使ってもシャフトが
変わるとスイートスポットの位置が変化する事をご存知ですか?

一般に、同じヘッドに重いスチールシャフトを装着するとスイートスポットの
位置はヒール側の高い位置にずれますし、軽いカーボンシャフトを入れると
バランスも変わりますが、スイートスポットはトウ側の低い位置に移動します。
また、グリップする手の位置によってもスイートスポットの位置は変化します
林の中から低いパンチショットをしようと思って、グリップとシャフトとの
境目に指を掛けるぐらい短く持つと、スイートスポット2mmほどヒール側の高い
位置に移動しますので注意が必要です。