株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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 月刊ゴルフメイト誌 2003年11月号                出版社:丸善
  「迫田耕のアカデミック講座」(連載第12回)

ゴルフ場にまつわるお金の話
 今回は何かと問題になっている、
ゴルフ場にまつわるお金の話です。
初めに、欧州や米国のゴルフ場開発と日本の開発予算について較べてみたいのですがご承知のようにここ数年は、日本国内では殆ど新規開発がありません。そこで非常に大雑把な金額でお話しなければなりませんが、その違いにびっくりされる事と思い話題にする事に
したのです。
 一般的な18ホールを造る場合を例にすると、日本では100億円ぐらい掛かると
言われています。その内訳は、ゴルフ用地の確保に必要なお金が3分の1、
コースの造成工事費が3分の1、ハウス建設費や什器備品類、さらに会員募集の
宣伝費と倶楽部運営費が残りの3分の1などと言われていました。ところが欧州
の新規開発予算は最近のデーターでも8億円程度で日本の10分の1以下で済むの
です。海辺のリンクスコースなど、土工事や排水工事が必要ありませんから、
5億円以下で開発可能です。
 どうしてこんなに違うのか考える事も、今後のゴルフを占う上で有意義な事
かもしれません。先ず初めは用地の大きさですが日本は欧米に較べ国土の傾斜
がきつい為か、同じコースを造ろうとすると2割増以上の面積が必要です。
一般的な丘陵地のゴルフ場では30万坪(約100ヘクタール)。判りやすく言えば、1.5km四方の広大な土地を確保しなければなりません。また日本は農業政策上、
牧草地や畑をつぶしてゴルフ場に転用する事が事実上できませんので新規開発
は都市部から遠い山林に追いやられる事になります。結果的に更に敷地内の
傾斜がきつくなりますから、欧米に較べ土木工事量も増えます。また日本は
先進諸国の中では、群を抜いて国土に占める森林面積が大きくイギリス、
フランス、ドイツなど軒並み3分の1以下なのに較べ、3分の2以上ありますから
貴重な森林の保水量を減らす事になりそれを防ぐ為の調整池と呼ばれる
人工的なダムを作らなければなりません。
 次にクラブハウスも欧米に較べて巨大で豪華です。風呂好きで食いしん坊の
日本人の特性もあるのでしょうが女性のキャディーさんの存在も含め、いつも
外国のゴルファーの話題になっています。
 最後はコースのメインテナンスですが、2グリーンシステムの是非はともかく
として作るのも管理するのもお金が掛かることは確かです。更にラフの部分
まで綺麗に刈り込む事やフェアウエーの雑草除去の努力など、過剰管理に
思えます

 結果的に欧米の数倍の金額を掛けて作られるコースですがその資金の殆どが
預託金と呼ばれる会員の出資金によって賄われてきた事は、ご存知の通りです。
この預託金システムは日本独特の錬金術として戦後発展してきましたが
無利子無担保の莫大な資金がゴルフ場の親会社や関連会社に流れていった事は
想像に堅くありませんそれどころかバブル期には安易な資金調達の道具として、
それまでゴルフとは無縁だった企業もゴルフ場経営に参加することになった
のです。
何しろ1口1000万円の会員権なら1000口、500万円なら2000口の会員
集めれば、10年間返さなくて良い100億円が市場に流れ込むからです。
 資金を融資する銀行も工事を施工するゼネコン売上を上げる為に不必要な
加価値をつけて開発費を高騰させました。また会員権相場の果てしなき上昇を
夢見た投資家も開発コストの上昇には目を向けなかったのです。バブル崩壊後
10年経った今日でも、欧州で1u当り四千円以下でできるグリーンが、日本では
2倍以上かかる事を見ても体質は同じようです。

最近外国資本がゴルフ場経営に参画して話題になっていますが彼等がゴルフ場
を買い取った金額は、欧米の新規開発予算の枠を超えません。彼等には100億円
もするゴルフ場など信じられない事でしょう。一方、既存のゴルフ場の経営は
非常に行き詰まっており会員の年会費だけでは国に支払うべき固定資産税さえ
おぼつかない状況です。今からは、25年や50年と言った長いスパンで観て、
価値が目減りしない方法を考えるべきなのです。