株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
ホーム
プロフィール
掲載原稿・講演会
週刊コラム
出版物
連絡先
トップページ
 月刊ゴルフメイト誌 2004年5月号                出版社:丸善
  「迫田耕のアカデミック講座」(連載第18回)

ゴルフに纏わる事故や疾病
今回から文章量が増え、少し纏まった意見も書けるようになりました。
という訳で、安全にゴルフを楽しんで頂きたいという意味から、ゴルフに纏わる事故や疾病の話から始めることにしましょう。
ゴルフ場での事故といえば、何といっても打球事故でしょう。
欧州ゴルフ場設計家協会では、細かなガイドライン(テーインググラウンドから
150m進んだ地点で、右サイドに73m、左サイドで65m余裕を取る事等)を定
各ゴルフコースに指導していますが日本ではゴルフ倶楽部設計者自主性
任されているのが現状です。
また運用面でも欧州では危険な打球を打ってしまった本人が「フォアー」と
大声を出してその声が相手方に届いたかどうかが、一般的な(裁判でも)争点
です。
ゴルフが上手くいかず、球の行方が定まらないのは罪ではありませんが、他人に
危害を加えるかもしれない行為をしたのに、だんまりを決め込むのは糾弾される
べき行為です。
キャディーやゴルファーズ保険に頼る前に、自己の責任において対処する姿勢が
大切です。
先日、コンペの幹事さんが不幸にも打球事故の加害者になってしまった話を聞き
ました。彼は幹事というある意味の社会的な責任と、他人を傷つけてしまった
というゴルファーとしての責任の狭間で迷った挙句、被害者の介護をゴルフ倶楽部
に頼んでプレーを続けてしまいました。
日、その判断が激しく批判れ、局、社会的な面目も果たせなくなってしまった
のですが、各個人の誠意や英知の集積が、社会を形作っている事を忘れてはなりま
せん。

落雷による傷害も、生命の危険を伴うので注意しなければなりません。雷が鳴って
いる時は、突然の雨や強い風の事も多く、近くの大きな樹木の下で雨宿りしたく
なるものですが、この判断は最悪です。
電荷は先端現象といって、尖った物(金属などの導体とは限りません)に集まり
やすく、高い木の天辺は雷神から見れば格好の標的です。
非難小屋までたどり着けない場合は、できるだけ低い姿勢を維持し、雷親父が通り
過ぎるのを待つしか、方法は在りません。

ゴルフコースでの疾病で死亡につながる可能性が最も大きいのが、パッティング
直後の心筋梗塞です。
近年は脳梗塞やくも膜下出血といった平常時でも起こりうる原因も増えているの
ですが、どちらにしても精神的なプレッシャーが掛かる場面で起きやすい疾病です。
大部分の心筋梗塞は、パッティング直後に起こると書きましたが、拙いパットを
してカップにボールが入らなかった事が、直接の引き金になっていると考えられ
がちです。
しかし統計的に見ると、パットを終えカップからボールを取り出そうとした瞬間に
起こる事例が最も多く、安堵感と屈み込む事による心臓の圧迫、急激な頭の位置の
変化が本当の原因のようです。
ホール近くを踏むため、マナーの問題は残るのですが、ホールからボールを拾う
ときの姿勢は、上体を起こしたまま膝を屈めるのが安全です。
笑い話ですが、ゴルフ好きの医師によると平素からパットの練習を怠らなければ、
これらの疾病で倒れる可能性が軽減されるのだそうです。
つまり、パッティング技術き、どんな難しいラインからでも入れば心筋梗塞で
倒れる事などないはずだ。
というのが彼の主張ではありません。
本当の意味は、練習をする事によって自分のパッティング能力を知り、過剰な期待
をせず平常心でいる事の大切さを伝えたかったのです。

パッティングの話が出ましたので、トーナメントに出てくるような職業ゴルファー
の練習量と腰痛との関係についても書いておきましょう。
彼らは試合のない通常の日でも、4時間から8時間は練習するそうですが、大半の
時間をアプローチやパッティングといったショートゲームに費やすそうです。
シーズン中はロングショットの練習は調整の範囲に留め、スィング改造やクラブ
交換は冬場のオフシーズンに済ませておくそうです。
というわけで、毎日のパターの練習は2時間以上にも及び、アドレスの姿勢から
動きの少ないパッティングは、腰に相当な負担をかけます。
ロングパターは、プロゴルフファーの職業病と言われている、腰痛の軽減には
すこぶる有効ですので、近年の人気の一因かもしれません。

運動不足のアマチュアの場合は、急激な運動で筋を伸ばしてしまった腰痛が多い
そうですが、他にも日常生活であまり使わない筋肉を使ったために肋骨にひびが
入ったり、フォロースィングで力が余って鎖骨同士がぶつかって炎症を起こしたり、
頭を残そうとしすぎて鞭打ち症状になったりするそうです。
それに比べれば、グリップがしっくりしないため手にマメを作ったり、履きなれ
ないゴルフシューズで踵に靴擦れを起こたりする事は害が少ないかもしれません。
他にもアマチュアの場合、乗用カート運転経験の不足による事故も増加して
います。
カート同士の衝突よりも単独事故、また同乗プレーヤーを巻き込んだ事故が増加
しているそうで、改めて周囲への配慮が足らないゴルファー像が浮かび上がって
きたようです。

これから夏に向かい、日射病による頭痛や目眩、日焼けの処置は他のページでも
書かれているでしょうから割愛しますが、水分補給と複数回の日焼け止め塗布が
有効です。
それよりプレーが終わって風呂に入り、冷たいビールを飲み干す時が幸せという
左党の方に要注意。
長時間のプレーと入浴による発汗で、体内の水分量は平常時に較べてずいぶん
減っているそうです。
この状態で利尿作用の強いビールを飲むと、水分補給どころか一気に脱水症状に
なりかねません。
更に、尿酸値の高めの方は痛風の発作の危険性さえあるのです。
くれぐれも、喉の渇きを風呂上りのビールまで我慢せずに、こまめな水分補給を
心がけてください。

その他、蚊やアブなどの昆虫や、毒を持った蛇、ウイルスを媒介する可能性のある
野鳥類、花粉症の原因物質など、数えればきりがないくらい危険因子は在ります。
しかし日本のゴルフ場は管理が行き届いており、自然環境下としては比較的安全な
方です。英国など欧州諸国では、破傷風等の風土病にも注意しなければならない
からです。
今回は、ゴルフに纏わる危険を書き連ねました、決してゴルフの楽しさを否定
するものではありません。
危険因子健康増進の効果が補って余りあることは、読者の皆さんが一番良く
ご存知でしょう。