株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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 月刊ゴルフメイト誌 2004年7月号                出版社:丸善
  「迫田耕のアカデミック講座」(連載第20回)

韓国のゴルフ事情

先日大学の先輩達の作ったゴルフ場を彼らに案内されながら視察しようと、韓国に行ってきました。 
そこで、今回はお隣の国でありながら余り知られていない韓国のゴルフ事情について、纏めてお話しようと思います。

初めに、朝鮮半島の地理的な条件や気候風土について、確認しておきましょう。
南北朝鮮を合わせた韓半島は単一民族で構成されており南北およそ1,000km、
面積は22万平方キロメートルほどで英国と同じくらい日本の約6割の国土です。
また韓半島の東側には山脈が走っており山岳地帯が国土の70%を占め平野は
主に西部と南部に広がっています。

標準時正午線は東経135度で日本との時差はありませんが、北と南を分ける北緯
36度線は日本では福井長野県の蓼科埼玉県の桶川を通っていますから、韓半島
全体は日本と同じような緯度である事がわかります。

一方、南の大韓民国だけでは10万平方キロメートル弱ですから、日本の面積の
4分の1強の面積しかありません電子自動車機械造船鉄鋼石油化学など
主要産業で成長が著しく、国民総生産も順調な伸びを示しています。
通貨はウオンを使用し、旅行者の感覚では1万ウオンが1,000円位のレートです。
4,600万人の人口の2割以上が首都に暮らし、ソウルでは人口密度がとても高く、
高層アパート群が次々と建てられています。

ソウルの気候は日本と同様に四季があり我々が訪問した6月初旬は韓国の最も
美しい季節だそうです。しかし冬は、例えば1月の平均気温が氷点下になるほど
寒く、ゴルフ場も数ヶ月間は冬季休業するそうです。

ゴルフについて言えば、米国や日本のトーナメントで活躍する選手が出てきた
ためでしょうか韓国は今ゴルフブームの真っ只中にあります。ところがゴルフ場
はプライベート倶楽部が150箇所、練習用のパブリコースを入れても200箇所
ほどしかないので圧倒的に数が少なく、全てのゴルフ場で月先まで予約
いっぱいです。

そこ午前中と午後の2回(日照時間の長い夏場は3回にする事もある)スタート
を設け、プレーヤーを総入れ替えするシステムが導入されています構造不況に
喘ぐ日本のゴルフ関係者から見れば羨ましい限りなのですが1日18ホール
換算で最低でも50組200人、多い所では80組320人もの入場者を捌くそうです。
このような場合、プレー速度が遅いとすぐに渋滞を起こしてしまいますから
前の組と間隔が開かないように気を使います。

更に、サッカーのイエローカードやレッドカードと同じような警告方法があり
巡回に回ってくるレンジャーにプレー速度やマナーが悪いと注意されるとそれが
キャディマスターに報告されて記録されます。1度目は注意だけで済むのですが、
2度目は即刻プレーを止めてクラブハウスに引き上げる事を要求され、3度目
警告を受けるとその人は永久にそのゴルフ場に入場できなくなるのだそうです。
ですから、キャディーさんも含め全員がプレー速度に敏感で、プレーのペース
アップという意味では面白い試みです。

マナーに関していえば速度に気を取られ過ぎてバンカーの後始末やディボット
痕の処理、ピッチマークの復旧など、まだまだ改善すべき点はあるのですが、
クラブハウス内でのジャケット着用義務など日本のゴルフ場よりも西欧化して
いる部分もあり、興味深く感じました。

因みにプレーフィーはゴルフ場による格差が少なくキャディーフィーや食事
を含んだ支払い金額は、ビジターで25,000円、メンバーで15,000円見当です。
それほど多くの入場者があると、コースそのものにも大きな影響が出ます。
まずグリーンは、殆どが1グリーンシステムを採用していますがプレーヤーの
総入れ替えのタイミングに合わせて、1日に2回カップの位置を変更します。
カップ周辺が傷んで、プレーヤーに不愉快な思いをさせないためなのですが、
キーパーは仕事が2倍に増える事になります。

さらに、グリーンやティーインググラウンドの面積2倍必要なのでホールの
全景が欧米のゴルフコースとまったく違ったプロポーションを持っています。
比較的新しいコースが多いので米国タイプの池を絡めた設計に、アンジュレー
ション豊かな通称ポテトチップスグリーンを組み合わせている事が多いようですが、
フェアウエーラフ韓国産の高麗芝を誇らしげに使っているのが印象的でした。

さて、今回視察したゴルフ場は2箇所ソウルから車で2時間ほど南下したユソン
という温泉街近くにあるシルクリバーCCと、ソウル近郊のコンジアムCCです。
前者は先輩でレーモンド事務所卒業生の内藤恒方さんがクラブハウスの設計と
コース内の植栽を手掛けられたご縁でお邪魔できたのでが、ソウルら離
いる事もあり、地元の人達も集まる家庭的な雰囲気を持た倶楽部です。驚いた
事に、このゴルフ場のオーナーは山口県の下関で生まれ育った方で、日本式に
いえばとても優秀な在日韓国人です。ですから、日本人の組織力感性も理解
しながら韓国人特有のメンタリティーも併せ持ち完璧なバイリンガルで真の
国際人としての資質に溢れています。我々の不躾な質問にも嫌な顔一つせず、
歴史や文化遺産の話から、美味しいキムチの作り方まで丁寧に説明して下さり、
その知識の広さと深さに感服しました。

コンジアムCCの方も、クラブハウスを先輩の磯山元さんが松田平田設計時代に
設計されたのがご縁です。韓国の大手財閥のLGグループの資本で、十数年前に
竣工し
韓国内でも5本の指に入る高級接待用のゴルフ場ですクラブハウス内の
調度品を見て思い出したのですが、当時英国に居住していた私は磯山さんからの
連絡を受けLGグループの方々がサザビーズなどのゴルフオークションで
アンチッククラブや絵画を購入するお手伝いをしたのです。フロント掲げられた
大きな絵は確かに記憶にあり当時のの輝きを保っています時の流れを超越した
作品の存在感は、モノ造りを志す者の勇気を奮い立たせるものだと改めて思い
ました。

3泊4日の強行軍でしたが、全体的な韓国の印象は食べ物がとても美味しく、韓国
料理はにんにく臭く唐辛子辛いと思い込んでいた自分の不勉強を、深く反省した
事を付け加えておきたく思います。