株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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 月刊ゴルフメイト誌 2005年3月号                出版社:丸善
  「迫田耕のアカデミック講座」(連載第28回)
 
キャディーバッグについて
今回は、前回に引き続きキャディーバッグについての話題です。

私が学生ゴルファーだった頃は、現在のようなダブルショルダーのバッグは無かったのですが、キャディーバッグの担ぎ方についても先輩に厳しく指導されました。最初に習うことは、ストラップは基本的に右肩に掛け、クラブヘッドが肩よりも前にくるような向きに担ぐことでした。クラブヘッドが肩の後ろ側にくる担ぎ方は、『鉄砲担ぎ』とか『兵隊担ぎ』といってライフルなどを携行するときに使います。これは、長い得物を垂直方向に担ぐことになり、水平方向にヤジロベイのように担ぐ場合より、安定性が悪くなりがちですが、銃口を空に向けることによって歩きやすさや安定性より、銃が暴発したときの安全性を優先した結果採用された担ぎ方です。また、キャディーバッグは伝統的に右肩で担ぐようにデザインされていますから、左肩で担ぐとポケットやジッパーが体と擦れて調子よくありません。

次に先輩から習ったことといえば、ストラップの長さでしょう。山登りやハイキングを趣味にされている読者ならすぐに判ると思うのですが、肩に掛けるストラップを長くしたままでリュックを担ぐと、肩に後ろ向きの力がかかりますし、体の動きとリュックの動きがバラバラになってすぐに疲れてしまいます。さらにリュック内部は軽い物を下に詰め、重い物を上に載せて、リュックの重心を高い所に維持した方が、圧倒的に担ぎやすく疲れません。リュックの重量にも拠るのでしょうが、重心が高い方が倒れようとする時の動きがゆっくりで、体勢を立て直す時間的な余裕があるからです。という訳でゴルフのキャディーバッグも、苦しくない範囲でストラップは短く調整した方が好ましく、またその方が歩く姿も颯爽としていて気持ちが良いものです。最近の学生ゴルファーやジュニアのキャディーバッグを引きずるようなだらしない担ぎ方は、なんだか嫌々ゴルフをしているようで気になります。

さて、キャディーバッグの材質は大昔には木製の物もあったようですが、牛革製やもっと軽い布製に進化してきました。ゴルファーは新しい素材を求め続け、大航海時代以後は帆の材料であったキャンバス地だったようですし、近年ではパラシュートに使う生地を使うこともあります。一般的には革から発展した人工皮革を使っている読者も多いと思いますが、安価で軽量で発色がよく、防水性も高いのでなかなか便利な素材です。考えてみれば、キャディーバッグの素材や形は軽量な最先端素材を使う物と、旧来の伝統を踏襲する物に分化してきました。前者はダブルショルダーやスタンドも復活してよりセルフプレーの快適性を追求し、後者はカートに積まれることを前提にしてポケットの位置を工夫した物や、クラブセットをより厳重にガードするため緩衝材を多用した物に発展してきました。旧来のキャディーバッグはボストンバッグの延長線上にあり、人が持ち運ぶ際の利便性や美しさを追求していたようですが、近年ではコース内ではカートに積まれる事が一般的ですから、全く別な機能が必要かもしれません。さらに、ゴルフ場への行き帰りは自家用車のトランクか宅配便でしょうし、飛行機に載せることなども考えるとボストンバッグの進化型では役不足で、トランクやアタッシュケースなどのもっと丈夫な形からの派生系の方が相応しく思います。現在のところ日本では市場に出回っていませんが、欧米ではトロリー(手引きカート)と組み合わせて使う腰掛にもなるタイプの物や、飛行機で移動することを前提に軽量で丈夫なプラスチック製の旅行用トランクみたいな物まであり、用途によって色々の選択肢が用意されています。

ところで、キャディーバッグの大きさはその口径をインチで表示するのが普通です。プロ用の物は10インチ(25cm強)以上、クラブメンバーが使う物は8.5インチから9.5インチ、ハーフセット用が7インチ、サンデーバッグと呼ばれる練習場に持っていくものが5インチか6インチ程度でしょう。これらは全て円形の枠であることが前提でしたが、セルフプレー用のバッグなどから縦に長い楕円形やもっと複雑な形をしたキャディーバッグが開発されています。これらの意図は重量物を体近くに沿わせる事によって、少しでも担ぎやすくすることですが、大昔にも小判型といって楕円形のハーフセット用バッグがありました。これなど現代にリバイバルさせると、とてもお洒落だと思います。私個人はとっくに競技ゴルフを止めてしまったので、藍色のキャンバス地を使って長径8インチ、短径6インチ程の小判型のキャディーバッグを注文してみたいと考えていますが、そのような面倒な注文を受けてくれる鞄屋さんが見つからず難儀しています。

ゴルフメイト読者の皆さんは、自家用車でゴルフコースまで行かれることが多いと思うのですが、19番ホールを楽しみたい方や帰り道の交通渋滞を嫌って、また友人の車に同乗する場合など、宅配便を利用される方もいらっしゃるかもしれません。最後に、先日来友人のゴルフマナー研究家の鈴木康之さんと話題になった事件をお伝えしておきましょう。それは、ゴルフ宅配便の「お届け先」の欄はどのように書けばよいかという問題です。私自身は自家用車を持っていませんのでキャディーバッグの宅配便を利用することが多く、どのように書けばよいか気になってマナー研究家に伺ってみたのです。鈴木さんはあまり宅配便を利用されないので、はっきりとした主張はお持ちではないようですが、宛先の欄には「○○ゴルフ場御中 鈴木康之宛」と書かれるそうです。不思議に思って色々なゴルフ場に聞いてみましが、大多数の方が同じように宛先の欄にご自分の名前を書いているのです。多分、宅配便を受け取りプレー当日の朝キャディーバッグ置き場に並べる係の方が、氏名を確認しやすいようにとの配慮だと思うのですが、プレーヤー本人の名前は「依頼主」の欄に書かれているはずです。とすれば、倶楽部や紹介して下さったメンバーに失礼な事になりそうに思えます。

的確な例えが見つからないのですが、友人の紹介で人様のお宅(○○家)に初めて伺う場合を想像してください。そのお宅でホームパーティーがあるとして、自分の飲み物を予め宅配便で相手方のお宅に送り付けるでしょうか?更に、その送り状に「○○家 ××宛」と自分の名前を宛名として書くでしょうか?ゴルフ場自体が営利目的で、お客の便宜を図るため宅配便制度を積極的に導入した、という日本のゴルフ場が持つ特別な経緯もあるかもしれません。(因みに欧米では全くない制度です。)しかし、キャディーバッグを宅配便で送る大多数の場合は、自分の所属している倶楽部ではなく、ゲストかビジターとしてプレーしようとしている倶楽部宛に送るのですから、メンバーでない人のあたかも所属構成員のような書き方は感心しません。以上の理由で、宅配便の「お届け先」の欄には「○○ゴルフ倶楽部御中」でも良いかもしれませんが、私は「○○ゴルフ倶楽部 スタート係様」と書くことを標準解とし、キャディーさんを付けることが判っている場合には、「○○ゴルフ倶楽部 キャディーマスター様」と書くことにしています。