株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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 月刊ゴルフメイト誌 2005年4月号                出版社:丸善
  「迫田耕のアカデミック講座」(連載第29回)
 
ラウンド前の所作について
日増しに暖かくなって、待ちに待ったゴルフシーズンの到来です。今回はクラブハウスを出てからの、ラウンド前の所作についてお話したいと思います。

最初はラウンド前のパッティンググリーンでの練習方法からです。殆どの方が、パターと複数のボールを持ってパッティンググリーンに上がり、足元にボールを落としてから目標を定めて練習をされると思います。以前ピッチマークの補修方法をお話したときにも触れましたが、短く刈り込んだ芝やグリーンの芝土は思いのほか衝撃に弱く、腰の高さから落とされたゴルフボールの衝撃でも僅かに凹んでしまいます。という訳でポケットから出したボールは、パッティンググリーン手前のラフの部分にトスするように柔らかく落とし、惰性でコロコロとグリーン面に上がってゆくような強さで、ラフやカラーの抵抗を感じ取りながら練習を始める事をお勧めします。一つはコースに対する思いやりですが、もう一つの利点はカラーを跨いだショートアプローチの距離感の足しになるからです。またこの方法は、当然グリーンの周辺近くから練習パットを始める事になりますから、朝の込み合った時間帯でも、パッティンググリーンの中央より比較的空いて、他のプレーヤーの邪魔になり難いのも利点です。

さて、実際の練習方法はロングパットから始める人や、ショートパットだけを納得するまで続ける人など、プレーヤーによってさまざまですが、朝のスタート前の練習ということを考えると、その日のグリーンの速さと自分の持っている距離感との調整が最も重要な仕事の一つであることは間違いありません。つまり4mぐらいのパットを中心に上りや下りのラインを何回か繰り返す練習は、誰もが必ずやっておきたい事なのです。個人的には練習グリーンで、3歩まで(約2m)のパットは入れようと思いますし、10歩以上離れたパットはホールから1歩以内に寄れば充分なので、4m程度の空いたスペースを見つけることはそれほど難しいことではありませんが、練習グリーンが小さい場合や大きなコンペ前で練習グリーンが混雑している時などもあるでしょう。

ここで重要なマナーは、他のプレーヤーの近くを狙ったり、他人が練習しようとしているラインと交差してボールを転がしたりするのは褒められた行為ではありません。また、同じ目標(例えば練習グリーン用の旗竿付目印)を複数のプレーヤーが共有することも感心しません。悪気が無くても他人が自分のボールを間違って持っていってしまったり、自分の打ったボールが他人のボールに当たって、バツの悪い思いをされたりした経験は誰にでもあると思うからです。「混雑しているからしょうがない」という言い訳は通用しません。もしそんな言い訳が通るなら「遅い組には打ち込んでも良い」という意見と同じことになってしまいます。更に言うと、混雑した練習グリーンではカップを長時間独占使用すべきではありませんし、数個のボールを使ってカップに向かって練習した後に、ボールが止まった位置から次の目標に向かって練習するのはマナー違反です。言うまでも無く、あなたがカップ近くに止まったボールを次の目標に向かって練習し終わるまで、そのカップを目標にしようとしている他のプレーヤーを待たせることになるからです。

このように朝の練習グリーンは、考えようによってはとても神経を使う場所です。ラウンド中は広いグリーンに最大4人までのプレーヤーしか上がりませんが、練習グリーンではその10倍の人数がグリーン上にいることも珍しくはないからです。だからこそ社会性が求められ、粗野な振る舞いをするプレーヤーと、洗練されたマナーを持ったプレーヤーとの差が、ことさら際立つ場所なのです。ですから、練習グリーンでの所作を観察していると、そのプレーヤーがどのようなプレー態度をするか想像がつくものです。逆に言えば、自分の立ち居振る舞いも他の人の視線に曝されている訳ですから、できれば格好良くありたいものです。

さて、スタート前の練習が終わりスタートするまでの間に、やっておかなければならない事はまだまだ沢山あるのですが、同伴プレーヤーと改めて挨拶を交わすことも忘れてはなりません。チョコレート争奪戦のルールを決めるだけでなく、使用球のブランドや番号を確認したり、打順を決めたりする必要もあるからですが、何よりもラウンド中の信頼関係を作り、楽しくプレーしたいと思います。次の話題はこの会釈の仕方についてです。

近年花粉症の方が非常な勢いで増え、この季節になると涙目や鼻水にお困りのゴルファーも多いと思います。一説には、戦中の無謀な森林伐採と戦後の画一的な植林作業の結果、広葉樹を主体とした雑木林が消えて、森林自体が成長の早い杉などの針葉樹に偏り過ぎた事が原因だと説く人もいます。また樹木が後継者不足で放置され、50年ほど経って立派に生長し、盛大に花粉を生産しているという説もあります。このコラムは農林業行政の無策を糾弾するのが目的ではありませんので、花粉の増加原因の究明はさておき、花粉症の対処方法についてゴルフファーの立場から提案するに留めたいと思います。

一般に花粉症が発症すると空調の行き届いた室内に閉じこもって生活することが最良で、外出する場合はゴーグルとマスクをつけて、できるだけ花粉との接触を避けることが有効だそうです。だからといって好きなゴルフを止められる訳もなく、厳重な防備をしてゴルフを楽しもうと考えるゴルファーも多いと思います。でも、目深に帽子を被り、ゴーグルを装着した上にマスクをして表情を隠した姿は結構不気味で、一昔前なら不審者と間違われてしまいそうです。先日出会ったゴルファーは、完全防備の上に無口な方だったので、ウルトラマンとゴルフをしているような錯覚に陥りました。

ゴルフプレー中のサングラスの是非について話題にした事を覚えていらっしゃる読者も多いと思いますが、改めて確認しておくと、相手から目の表情が読み取れないような色の濃いサングラス、言い換えれば被視認性の悪いサングラスは、一般ゴルファーが付けるべきではありません。眼の病気があり医師の勧めでサングラスを必要としている場合は別ですが、他人とのコミュニケーションを拒否して自分本位のプレーをするためにサングラスをかけている人は、同伴プレーヤーに対して無礼な行為をしているのです。賞金目当ての職業ゴルファーの場合、礼節よりお金の方が重要なので、同伴競技者と楽しくプレーする必要などありませんから、故意に表情を隠すメリットもあるかもしれませんが、テレビに映ったプロゴルファーの姿を深い思慮なく模倣するのは、余りに稚拙で感心しません。

ゴルフメイトの読者の皆さんの中にも、戸外では花粉症対策でマスクを手放せない方もいらっしゃると思いますが、スタート前には是非、帽子やゴーグルやマスクを外した状態で挨拶し、『花粉症なのでマスクを付けたままでプレーする無礼をお許し頂きたい』と同伴プレーヤーに許可を願い出るべきです。きっと快く了承してくださると思いますし、その事がきっかけで一日中楽しい会話が弾むかもしれません。