株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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 月刊ゴルフメイト誌 2005年5月号                出版社:丸善
  「迫田耕のアカデミック講座」(連載第30回)
 
グリーン上でのマナーについて
今回はグリーン上でのマナーについて、改めて考えてみたいと思います。以前にピッチマークの処理の仕方については詳しくお伝えしましたが、確認のためにもう一度おさらいをしておきましょう。ボールがグリーンに衝撃を与えた反対側の方向から順番に、フォークまたはティーペグを数回突き刺してグリーン面の捩れを補修し、飛び散った芝を元に戻してパターの底で軽く叩く、というのがお行儀でした。さらに、ゴルファーが自分の付けたピッチマークの他にもう一箇所補修する習慣をつけると、コースの管理費用が削減され、グリーンの質を高く維持することができるという事もお話したと思います。

さて、テレビでプロの仕草を見ていると、自分のつけたピッチマークを補修するのはもちろんですが、パットの前に自分のパッティングライン上にあるピッチマークを直したり、パットした後ホール近くのスパイクマークをパターの底でトントンと均していたりするのを、見かけると思います。芝の根を持ち上げるようにして直すプロが多いので、機会があれば皆さんが正しい補修方法を教えてあげてくださいネ。それはそれとしてルール上、ピッチマークはパットする前に直すことができますが、スパイクマークは当該グリーンのパットが終わるまで直せません。トーナメントプロは後から来るプレーヤーのことを考えて、ホール近くのスパイクマークを補修してあげているのです。この事から分るように、ピッチマークはグリーン上にあればいつでも治すことができ、また治すことエチケットだと思いますが、スパイクマークは自分がカップインさせるまで治せない決まりですから、同伴プレーヤーのパッティングラインを不用意に踏むことは避けなければなりません。現実的に見てホールから10mも離れている場所では、ホールに向かって行くボールの勢いが強いので余り影響は出にくいのですが、球の勢いが弱まるホール近くではスパイクマークの影響は無視できません。ですからカップ周りでの行動は、よほど慎重になる必要があるわけです。

ゴルフメイト誌でよく話題になるカップイン後にボールをホールから取り出す時に、カップ周辺を踏まないというマナーはこの意味からとても大切ですが、他にも守っていただきたい基本的なマナーがあるので、お伝えしておきましょう。例えは変ですが、良いマナーは自動車の運転で言うところの「安全運転」と同じです。急発進、急ハンドル、急ブレーキはグリーンに負担をかけますし、カップ周辺を踏んでしまうのは信号待ちで横断歩道に乗り上げて停車するようなものです。カップインしなかったからといって地団駄踏んだり、飛び上がったりするのはグリーンにはとても辛い事なのです。快活な行動は若々しくも見えるのですが、時として稚拙にも見え注意が必要です。

また、物音を立てないというのは最も基本的なエチケットの一つで、同伴プレーヤーがパットしようとする時に鼻水を啜ったり、ゴルフ用のグローブを着脱して音を立てたりする人は、エチケット違反として何らかの制裁を与えるべきです。人間の出す音に対する反応は、国民性によってさまざまなので、日本には日本のマナーがあるように思いますが、欧米ではゲップに対してとても厳しく、逆にお隣の韓国では寛容なので注意が必要です。いずれにしても、我慢することが可能な音がする行為は、同伴プレーヤーのプレー中は慎んだ方が良いようです。ゴルフ場の中だけでなく、他の人を気遣って行動する事がマナーの基本精神で、ゴルフ場や倶楽部組織が社会生活の縮図であり、そこでプレーする楽しみだけでなく社会規範の要点を学ぶべきだという意見が、欧州では主流のようです。

さて近年、日本でもキャディーを帯同せずにプレーする機会が増えてきました。日本ではキャディーを付けなければ、乗用カートに乗ってプレーする事までを含めてセルフプレーと呼んでいるようですが、本来のセルフプレーの意味は自分の使う道具を自分で担ぐか、トロリーに積んで押すか、引っぱるかしながらプレーする事ですから、もし乗用カートにキャディーバッグを積み込んでプレーするスタイルをカタカナ英語で表現するのであればキャディーレス・プレーと呼ぶのが正しいと思います。この呼び方ならば、このプレースタイルが標準的に行われている米国でも正確な意味として通じると思います。因みに彼らは乗用カートに乗ってキャディーを付けずにプレーするスタイルは、当たり前すぎてセルフプレーとは呼びません。

キャディーさんを帯同しないと、今までキャディーさんに任せていた事を、同伴プレーヤー同士で分担してやらなくてはなりませんが、これは慣れるまで中々難しく不自由なさる方も多いと思います。逆に言えば、このマナーがスマートにこなせれば何処に行っても恥ずかしい思いをしませんから、是非よく原則を理解して正しく実践できるようになってください。スコアーは天候や運不運によって数個動くものですが、美しいマナーは一度覚えればゴルフを続けている限り、必ずゴルフメイトの読者の皆さんを助けてくれるのです。

グリーン上ではボールをマークしてピックアップし、ついでにボールに付着した汚れを綺麗にする行為や、芝目や傾斜といったラインを読むことまでキャディーさん任せにしてきた訳ですが、旗竿の処置の仕方も問題なので、お伝えしておきましょう。

先に述べたように旗竿を抜く時も、他のプレーヤーのパッティングラインを踏むことのないように注意することが必要です。次にカップから4m以上離れているボールの持ち主に対しては、旗を抜いても良いかどうか聞きましょう。10m以上も離れていても「必要ない」と答えるプレーヤーもいますが、下りのラインを残したプレーヤーなど旗竿が欲しい場合もありますので、一番遠いプレーヤーが抜いて良いと言ったからといって、全ての同伴プレーヤーが同意した訳ではありません。旗竿に付き添うときの注意点は順番に3つあります。
1 他人のラインを踏まない。
2 影が邪魔にならないよう注意する。
3 できれば傾斜の上側に立つ。
また、抜いた旗竿はグリーン上にバタンと倒さず、できればカラーの外側にそっと置くようにしてください。

一度本来のセルフプレーが上手くこなせるようになると、キャデギィーさんに頼ったラウンドが何もしない王侯貴族のお遊びのように感じてくるから不思議です。逆に言えばゴルフとは本来このようなスタイルで行うべきもので、60歳を過ぎて老化し、他人に対する配慮が欠けてきた人や、体力に自信のない人以外は、セルフプレーでゴルフをしてもらいたいものだと思います。