株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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月刊 ゴルフ場セミナー 2010年12月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第96回
 
コース管理機材の接地荷重

雪国の人は自然と身についている所作なのだろうが、雪道や凍った場所での歩き方は万国共通である。 背を丸めて視線を足元に落し前屈みに小股で歩くのだ。
あまり格好の良い歩行姿ではないが、足をすくわれて尻餅を付きそうになる時が一番怪我しやすいので、風土に根ざした歩き方なのだろう。 よく観察すると、前のめりになった重心を堰き止めるように、出す足を少し前に滑らせながら爪先に力をいれるのがコツらしく、クサビ状の足跡が残っているのが普通だ。 積雪のあるゴルフコースではプレーはおろか芝草管理もしないだろうが、この機会に摩擦について考えてみよう。

学校で習ったと思うがレオナルド・ダ・ヴィンチが五百年前に発見した摩擦力は『垂直荷重に比例し、見かけの接触面積には拠らない』のだ。 その三百年後のクーロンによって、静止摩擦力と動摩擦力とに再定義され、常に前者が後者よりも大きい事と、動摩擦力は速度を問わず一定である事が分かっている。 つまり、一旦滑りだした靴底は接地圧を高めて静止摩擦力(つまりグリップ)を取り戻さない限り体重を支えない。 逆に滑らせた状態から徐々に体重を掛けて、グリップ状態を確かめてから体重移動する歩行方法が有利なのだ。

実は、このクーロンの法則はゴムを使うタイヤ等では額面通りには働かない。 ゴム等の弾性体は変形によって平面摩擦とは違うメカニズムでグリップし、接地面積の大小が即、グリップ力に近い状況も生まれるからだ。 競技用自動車のタイヤなどが良い例だが、雪上競技では逆にクーロンの法則通りの極端に細いタイヤが使われる。 一般に路面の摩擦係数が低いと、クーロンの法則がゴムの弾性効果に打ち勝つようだ。

さて、コース管理機材の中でグリーンやフェアウエーで使用するタイヤ付きの物も多いので、その接地荷重を大雑把に計算してみよう。 (学術的には力や圧力の単位はNとPaを使うべきですが、簡易計算なので許して)

タイヤ接地面積を官製葉書と同じだとすると148平方cm。 軽トラックの車重を900kgとすると、四輪で平方センチ当り1.5kgの加重になる。 同様に乗用リールモアは3kg、ホッパー付で5kgだ。 三輪のアプローチモアやグリーンモアは1.3kg程度だが、細いタイヤの二輪自走モアを80kgとすると0.5kg程の静加重になる計算だ。 比較の為に60kgの人間が裸足でグリーンに乗った場合、足の裏の接地面積は葉書程度だから0.2kg程でしかない。 実際には靴を履くのでさらに接地面積が増えるから、接地加重が減る筈なのだ。 つまり、フェアウエーは言うに及ばずゴルフグリーンでさえも、プレーヤーによる転圧や圧密は管理機材より軽微だろうと予測できるのだ。

次に摩擦係数だが、乾いたアスファルトの管理道路が0.7、砂利道が0.5程度で圧雪路が0.15というデーターから考えて、芝面では0.3程度ではないかと思う。 という事は、摩擦係数の低い芝の上ではクーロンの法則で細めのタイヤが求められているが、先述の接地加重の観点からは太いタイヤが望ましく、二律背反の難問のようだ。 が、小生はタイヤの接地幅と外径を大幅に増した接地面積の拡大が解決方法だと思う。 更に言えば、接地面の形状から考えて、扁平率65%のラジアルタイヤが最適だ。

これらのことから考えて、現在の芝草管理機材は重過ぎ、タイヤも含めて改良の余地が随分あると思う。