株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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 週刊ゴルフダイジェスト(3) 2006年5月5日  出版社:ゴルフダイジェスト社

世界のゴルファー気質

日本人が考える英国は一つの国ですが、民族的にも政治的にも文化的にも、南北アイルランドを含めた英語圏で括った方が実情に合っているような気がします。という訳で、イングランド、スコットランド、ウェールズ、南北アイルランドという四つについて考えて見ましょう。

先ず文化的な考察ですが、イングランドは英国圏の中で過半の富と土地を独占する君主です。アングロサクソン民族を主体とし、協調と謀略を使い分けながら近代国家の礎を築き上げた十九世紀後半の雄でした。小生はイングランドの首都ロンドンにいた訳ですから、見聞きした話はイングランド人から見た諸外国という域を出ませんのでご注意ください。

スコットランドはイングランドの圧政に度々苦しめられながらも、結局はイングランドの保護を頼りにするしか方法がない貧しい国です。そのせいかスコットランド人は『しまり屋で頑固』と言われています。

ウェールズは政治的にも経済的にも殆ど陽の目を見ることなく、歌うことしか憂さ晴らしがないなどと言う人もいます。事実英国人歌手の大半はウェールズ出身です。

アイルランドは独立を求めイングランドに百回戦いを挑み『百戦百敗の民』と呼ばれ、ヒガミ根性が特徴だという人もいます。『元気かい?』と声をかけると、『元気だよ其方は?』と返答すのが普通ですが、『悪過ぎるという訳ではない』などと答えるのが特徴です。

奇妙な例えですが、英国圏を日本に擬えてみると、イングランドが本州、スコットランドが北海道、南北アイルランドが九州、ウェールズが四国といえるかもしれません。

さて肝心のゴルフですが、長い間エジンバラを中心としたスコットランド東海岸で郷土娯楽として行われていた遊戯が、トム・モリスの時代にグラスゴーを中心にしたスコットランド西海岸に紹介されると、瞬く間にマンチェスターやリバプール近郊を通ってイングランドに南下し、ロンドン近郊にたどり着くと同時に世界中に伝播していった事はご存知の通りです。つまり、ゴルフの伝播に携わったのは十九世紀中がスコットランド人で、二十世紀はイングランド人が主体だったのです。現在でも、ゴルフ文化の本流を自認するスコットランド人はゴルフが上手でなければ恥ずかしい。という意識を持ち続け、初心者も含めたゴルファー全体の1割以上がシングル・ハンディキャッパーだそうです。スコットランド人の友人曰く、『スコットランド人がゴルフを嗜む』と言ったら彼のハンデは3以下で、『過去に5以下のハンディキャップにもなった事の無い人が、ゴルフ倶楽部の理事になるなんて考えられない』のだそうです。プレースタイルにも特徴があり、スコットランド人のゴルファーは一般的に『プレーが早く』『あまり冒険を犯さず』『ランニングアプローチを多用する』といわれています。つまり、イングランド人ゴルファーはその逆なのでしょう。

欧州という意味で、ラテンやゲルマンのゴルファーに対する評価も存在します。元々彼の地でゴルフ文化が勃興したのは、発端になったプロゴルファーの存在が大きく、スペインのバレステロス、ドイツのランガー、女性ですがスェーデンのノイマンなどの名前が挙がります。評価もそれらに影響されてか、『ラテンゴルファーは素晴らしいショットを繰り出すが、簡単な所でミスをする』、『ゲルマンゴルファーは緻密で几帳面だがプレーが遅い』、『北欧のゴルファーは冷静だが時として攻撃的なゴルフもする』などです。一般的にゴルフは一ラウンドが三時間以上掛かりますから、『ラテン民族は長時間自己抑制ができず自滅する』などとも言われます。

一方イングランド人の米国人に対する評価ですが、殆どの人が『お喋りで、プレーが遅く、言い訳がましい』と喝破します。

さて日本のゴルファーに対する評価ですが、想像通りあまり芳しい物ではありません。日本人はキャディーさんに頼ったゴルフを続けてきたせいだと思うのですが、先ず言われるのが『ゴルフ規則をよく理解していない』で、次は『同伴プレーヤーのプレーを見ていない』です。次にお決まりの『プレーが遅く同伴プレーヤーの邪魔をしても気付かない』と続きます。

他には『申告ハンディキャップが疑わしい』という意見もあります。 欧州ではスタート予約をするとき所属倶楽部を聞かれることが多いのですが、日本のプレーヤーは倶楽部のメンバーでないことも多く、出鱈目な倶楽部名とハンデを告げてしまうことが多いからだと思います。 またコースレートの算定基準が違うのでJGAのハンディキャップは私の経験上二割方甘いように感じます。

無論好意的な表現もあって、日本人は押並べて『ティーイングショットやパッティングが旨い』と言われます。でもこれは裏を返して『アイアンショットやアプローチが下手』という風に考えるべき意見です。また『東洋人はスコアーを誤魔化す癖がある』などといわれると、本当に情けない気分です。

最後にロシア人ゴルファーの評価ですが、欧州内では全く存在しません。大半のロシア人のゴルフプレーヤーは、英国か米国に留学または駐在の経験があり、当地でゴルフを覚えたためかもしれません。昨年の秋ご一緒したロシア女性は、『日本に駐在して初めてゴルフに接し、結果として日本式ゴルフを覚えてしまったので帰ってきてから苦労した』と笑っていました。ゴルフが庶民的なスポーツとはいえない現在のロシアで、ゴルフ倶楽部のメンバーになっている人達は、所謂ニューリッチと呼ばれる階層で、大半が91年のソビエト崩壊時に下級官僚だった人達かその子息です。米国ホワイトハウスの大統領ルールや毎ショット・マリガンほどではないにしろ、大国選民主義を髣髴とさせる雰囲気は充分感じられます。