株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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 週刊ゴルフダイジェスト(5) 2008年7月15日  出版社:ゴルフダイジェスト社

第137回 The Open プレヴュー

第137回のThe Openは北西イングランドのリバプール近郊、バークデールに10年ぶりに帰ってくる。
19世紀の三角貿易で栄えたリバプール近郊には、全英開催コースだけでもロイヤル・バークデールを始め、リザム&セントアンズやホイレークがあり当時の栄華が偲ばれる。
記録的な雨年だった昨年に比べ今年の天候は平年並みと予測され、統計によれば月間降水量百o、平均気温16℃で日中でも20℃を下回るから、プレーヤーにも芝にも理想的だが、夏至以降の天気は変わり易く、毎年スコアーも天候に大きく左右される。

R.バークデールの倶楽部創設は1889年だが、現在のアール・デコ様式(1925年のパリ万博が発端)のクラブハウスは1935年に完成し、コースは三巨頭時代を担ったJ.H.テーラーと初代ホートリーの大改造後、歴代のホートリー一派が一貫して改修設計を努めている。
コースは9度目の全英開催に当たりマーク・オメーラが優勝した前回より155yd伸びて、全長7173yd、Par70となった。単純にPar72に換算すると7400yd弱で、出場選手を考えると長いとは言えないが、パット巧者よりショットメーカーを優遇する英国ゴルフの伝統に則り、今回も飛距離よりも知略的なゴルフを推奨するような改造が施されている。
具体的には20個のバンカーが新設され(内16個がフェアウエー傍)、3,9,11,16,17番の5ホールでプレーラインそのものも見直された。
これは飛躍的に伸びた近年の飛距離と打球事故に対する配慮による物で、現在のプロの飛距離は必ず近未来のアマチュアの飛距離になるからだ。
1例を挙げると、25年前のこのコースでトム・ワトソンは最終18番の2打目、残り212ydで2Iを使い優勝したが、現代のプロなら同じ距離を5Iで乗せるだろうし、5Wを手にするアマチュアも多いだろう。
他の改造箇所の基本はフェアウエーを斜めに狙わせる事と、フルバックから300yd地点にバンカーを新設する事だが、グリーン周りやティーインググラウンドの新設など多義に亘り、前回と変わらないのは7番12番の2ホールだけである。
また現代的な改修設計らしく、古典的なリンクスコースの不可視性を旨く回避し、倶楽部メンバーのプレーと国際大会の開催との両立を図った、地味だが内容の濃い改修である。

The Openに話を戻すと、粗暴なデューンと深いラフの隙間を蛇行するフェアウエーは緩やかに傾斜しているが、ベント芝主体のグリーンも極端には早くはなくコンパクションも低めだから、天候次第で15アンダー内外のスコアーも出るだろう。
今回の改造を検討すると、270yd程度に飛距離を抑えた方が有利なホールが多く、この距離は強打者がアイアンを使って容易に達成可能だから、何よりも我慢強いプレーを続ける事がコース攻略の鍵になると思う。

最後に、我々が入会する事は事実上不可能なので無意味な情報だが、英国の著名リンクスコースの会員になるためには、数十万円の年会費とその倍額程度の入会金が必要だ。