株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
ホーム
プロフィール
掲載原稿・講演会
週刊コラム
出版物
連絡先
トップページ
月刊 ゴルフ場セミナー 2003年2月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第2回
 
ある英国キーパーの言葉
 不思議なことに日本で寒さを体感するのは、戸外ではなくて自宅の脱衣室である。英国で150年前に建てられた通称ビクトリアンの家に住んでいたものだから築34年なんて新築同然と思い、鉄筋コンクリート造アパートに引っ越してみたら暑い寒い結露する。
おまけに電気容量も足りない事に気付いて愕然としている日本人は新製品開発
には熱心だが、つくづく長期間にわたるメインテナンスが下手な国民だと思う。

ゴルフ場のメインテナンス方法その国の需要に合わせるのが妥当だから欧米
のやり方をそのまま導入しても意味はないが近代的な管理手法を標榜して力を
つけてきた若手に道を譲り、昨年楽隠居したある英国のキーパーの言葉が、
コース管理の本質をついていると思うので紹介しよう。

彼は古いタイプのキーパーだったので薬剤使用に不可欠な化学の知識など持ち
合わせていないし管理機材の刷新にも無頓着なのだが人柄のせいかメンバー
からとても信頼されていた。彼が言うには、学生アルバイトが一日8時間働いて
貰う賃金(日本では800円×8時間=6400円程)以上のグリーンフィーをビジター
から頂いているゴルフ場では、次の三点は少なくとも守らなければならない
のだそうだ。

1)グリーンは球を転がす場所だから滑らかな転がりが得られるように管理する。
 芝は決して5mm以上の高さにならぬように練習グリーンも含め総ての面を毎朝
 刈り込む事またホールカップエッジが丸くならぬようにカップは毎日切り
 直す事。

2)ティーマークの位置は毎日変えティーグラウンドの芝高はフェアウエー
 以下に維持する事。
 フェアウエーはスピンをかけやすいよう決して15mm以上の芝高にならぬ
 ようにし特にアプローチエリアでは予想外の撥ね方をしないようにグリーン
 と同じ程度の硬さに仕上げるよう管理する。
 セミラフは球を見つけやすくするために球の半径以上直径以下の芝高を
 維持する事。

3)ハザードの境界線をはっきり指示してトラブルを未然に防ぐ事と、管理者は
 プレーヤーの視界に入らないように注意する事。また道具類メインテナンス
 はその日のうちに済ませておく事。

これらはメンバーが快適にプレーしてもらうという立場からの意見であって、
必ずしも管理者側にとって簡単なことばかりではない。特にOUTとIN両方から
スタートする場合キーパーがどんなに朝早くから働き始めても途中でスタック
してしまうし、昼間プレーヤーと顔を合わせるなと言われれば仕事にならない
はずだ。

一方グリンは転がす場所フェアウエーはスピンの効いた球を打ちやすくする
場所というように機能別に区分けすれば過剰管理になりにくいフェアウエー
は雑草だらけでも刈り高が均一ならば十分な品質だしラフは一打未満の
ペナルティーを与える場所なのだから刈高は一定でない方がむしろ好ましい。
彼はリール歯の研ぎ方にも一家言を持っていて、常々最近のメーカー製の刃は
鈍らだと言っていた。

彼に言わせると日常的に火花が散るほど荒々しく研いでしまうと、どのような
刃でも焼き戻されてしまい柔らかい金属に変質してしまうのだそうだ。そこで
彼は知人と協力して独自に焼入れをした刃を作り切削油で刃の温度上昇
を抑えながら時間をかけて研いでいた。さらに方法は判らないが季節に
刃の裏側の角度を変化させて切れ味と保守期間のバランスを取っていたの
だった。


現在の彼と彼の友人は小さな芝刈り機メーカーのアドバイザーとなって、現役
時代よりも忙しいくらいだと笑っているが、この話を聞くと倶楽部メンバーの
信頼は的を射たものであったと思わざるを得ない。