株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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月刊 ゴルフ場セミナー 2003年4月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第4回
 
ゴルフ倶楽部や設計家の戸惑い
 フランス人のゴルフ場設計家が欧州ゴルフ場設計家協会の全メンバー宛に過激なメールを発信したため、ちょっとした騒動に発展している。

英国ゴルフ場設計家協会が大陸での仕事を有利に進めるために、欧州の既存設計家達を取り込んで欧州設計家協会を立ち上げたことは前にもお伝えしたが、
今回の事件は起こるべくして起きたように思う。

詳しい話は割愛するがメールは以下のような内容である。
「スイスでのゴルフ場設計コンペに参加した設計者の中に、施主からの要望
欧州設計家協会承認されていない者も混じっており、非常識なネゴを
繰り返すので、彼を糾弾し排除する手助けをして欲しい」

 ゴルフを長年続けていると、最後には設計にも手を染めたくなるものらしく、
欧州においても設計家の生い立ちはさまざまである。大学で都市計画を学んだ
人がいると思えば、幾つかのゴルフ場に芝の種を納入しながら管理技術の
コンサルタントをしていた人グリーンキーパだった人もいれば練習場経営
をしながらレッスンをしていたプロゴルファーまでいるのだ。

英国に限ればここ10年程は資格制度が機能しているが大陸の既存設計家に
関しては欧州連合を早急に機能させる目的で野放し状態が続いていた。
それどころか、未だに過半数のゴルフ場で施主自らがデザインし現場管理まで
やってしまうような原始的な状況から脱しておらず、打球事故や訴訟問題が
後を絶たないのだ。

そんな現状の中で、設計家を雇った方が安上がりで結果的に利益が上がる
という実績データーを基に、欧州の設計家達は細々営業活動を続けている。
因みに設計料は、土木畑出身者は工事総額の6%、造園畑出身者は労働時間を
元に計算する例が多いようだが、バンカーの移設などの小額工事は個別に算定
され割高になる。

現在の欧州では一時代を築いたような有名設計家が亡くなり、スター性を
持った設計家が不在である事も一因だが、層の厚い米国には正直に言って差を
つけられている。設計料も同様で米国は桁が1つ違うようだ。
唯、才能のある若手も育っていて、個人的には建築畑出身のベルギー人と、
ドイツに住むカナダ人と私の担当教官だったスコットランド人の3人を推すが、
彼らとて自らのスタイルを模索中で米国風の作風が苛立たしいという
評論家もいる。


本来ゴルフ場はその場所やその国の原風景を起点に熟し育っていくものだが、
情報伝達機器の進歩と連動した世相の移り変わりの速さに、倶楽部も設計家も
戸惑っているのだ。

多分ゴルフ場は時代進化や流行を取り入れるには初期投資が大き過ぎ
いつも対応が後手に回るので結果的に保守的又は伝統的というレッテルが
貼られるが、本質的な機能は利用者の遊興施設である。とすれば、常に彼らの
懐具合と相談する必要があり、地域性や民族性は後回しになりがちなのだ。
ゴルフ王国スコットランドの例を挙げるとゴルファーは年収の4%程度毎年
ゴルフに費やすそうだが、間違っても1割は越えないらしい。

日本において年収1000万の人が年20回ビジタとしてゴルフに行くと仮定すると、
毎回交通費も含めて2万円になる計算だがそれは道具や球を新調しない場合
の話で、現実には練習場にも行くだろうし靴や服も買うだろうから、庶民的な
ゴルファーの場合は更に厳しいはずだ。

 メンバーの利便性はビジターフィーの底値と年会費とのバランスから生まれる
から、倶楽部組織の存続は、残念だが現状ではコースの良し悪しと人件費を
含めた管理費の削減に収斂するに違いない。