株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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月刊 ゴルフ場セミナー 2003年7月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第7回
 
土壌中の生物
 初夏の草原は、本来ならば動植物の営みが活発になる時期であるが、ゴルフ場に関しては農薬で押さえ込まれているせいか、あまり見かけない。
英国ではこの季節自分で作ったディボット跡を直そうとするとミミズが這い出していてビックリする事が良くある。

地表から僅か数センチの所にモゾモゾ動き回る動物がいるという事も驚きだが、
英国内陸部のゴルフ場は粘土質で覆われておりこの事は劣悪な透水性能の指標
でもある。雨が降った後にミミズが大挙して地上に出てくるのは、湿潤土壌に
よる呼吸困難が原因だと習った記憶があるが、ミミズが出ないフェアウエーは
透排水性が良いと考えられている。

ミミズや昆虫の幼虫は、芝の根を食い荒らす害虫かもしれないが地下の生態系
にとっては重要で、土壌の団粒構造を助長するばかりかその糞によって細菌を
養い、有機物の分解を促進させる役割を担っている。モグラ塚やミミズの掻き
出した盛り土は、確かにあまり気持ちの良いものではないが、ルール上でも
規則23にルースインペディメントとして処置の仕方が明記されている。
パッティンクォリティーを極端に悪化させるためグリーンだけはご遠慮
願いたいが、他の場所では別に気にする事ではないように思う。

 実は土壌の中には夥しい数の生物がおり、線虫ダニトビムシヒメミミズ
陸貝、カニムシなどの無脊椎動物は数千数万という単位を使えば辛うじて
数が数えられるが、微生物に至ってはたった1gの土の中に1000万個単位で存在
する事が知られている。 そうした生命の満ち溢れた地中生態系の頂点付近に
モグラやミミズは位置し下位動物を捕食するばかりでなく、互いに共存し
あっているのだ。

 これらを殺菌剤や殺虫剤で一網打尽に死滅させる事も可能かもしれないが、
それはあまりに身勝手で短絡的な発想だ。永久に無菌状態に維持することなど
不可能だし、新たな生態系が望む姿になる保障など何処にもないからだ。

もう少し穏やかな方法で彼らを退散させる事が出来れば、それに越した事はない。
方法としては、ゴルフプレーの支障になる動物の生活圏をあと数p地中に押し
やる事ができれば良く、彼らは乾燥した環境を好まないから、地表から5cmまでの
範囲を湿潤状態から救えればよい事になる。

日本ではあまり見ないが英国では頻繁にフェアウエーとセミラフのコア抜きを
しており8oから16oのホロータインを使い随分深くまで穴を開けているようだ。
要はグライ化層を貫通する事で、腐敗菌や嫌気性の菌の活動範囲を地中深くに
押しやり、その代わりに好気性の菌や芝の根を選択的に育てる事ができれば
よい訳だ。それでも不足の場合は最近流行っている25oのドリルを使った
ドリル&フィルだが、機材のレンタル料がもったいないというキーパーも多い。

 ここでコアリング技術の初期段階から伝えられてきた技術があるので
紹介しよう。
コアリングで最も危惧される状況は、同じ長さのタインを使い
続けるとタインの届く深さより少し下の土壌が常に圧密され(カルチベー
ションパン)不透水層になってしまうという不安であるそのためコアリングの
深さを毎回変化させる事が推奨されてきたのだが、長年の内に結局は一番長い
コアの下に圧密層ができてしまう。

もっと長いコアを開発するのが理想的だが、それが出来ない状況では、
圧密層が水平にならないように配慮するというのが秘伝らしい。不透水層が
傾斜していれば、その面を伝わって水が流れて行く道理で、昔のキーパーの
知恵に感心してしまった。