株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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月刊 ゴルフ場セミナー 2003年8月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第8回
 
グリーンの芝の根の長さ
 慌しい英国取材旅行から帰ってきた次の日、日本ゴルフ場設計者協会の理事会があり、協賛会員のプレゼンテーションがあったので出席した。
微生物を利用した土壌改良材を製造販売している会社の一時間ほどの発表は、欧米の同様な催しと較べて、言葉による表現もグラフィックを利用した発表方法も稚拙だった。

内容は、都市の生活廃棄物とも言えるヘドロを好気性のバクテリア群によって
分解し植物が摂取しやすい栄養素と残留バクテリアとして土地に戻せば、
化成肥料の削減に繋がり、保水性、透水性までも改善されるという事らしい。
元々、日本のゴルフ場開発では、微生物や有機物を多く含む表土を先に採取し、
造成後に表層に戻す事を主にコストの観点から行ってこなかった。

その結果、化成肥料を与えるしか方法がなかった訳で、この会社の取り組みは、
現状からの一歩前進と評価できるのかもしれないが既存のグリーンに行う効果
を考えてみると地表に散布する方法では容易に流亡してしまうためドリル&
フィルのような方法が相応しく感じた。少なくともコアリング直後の摺り込み
用の砂に添加する程度の配慮は必要だろう。

この会社のノウハウの大部分が土壌微生物群の配合割合にある事は明らかだが、
ヘドロを分解するのに適した配合がゴルフ用の芝土にとって最適なものであるか
どうかは、疑問の余地があると思う。また科学的根拠よりも納入実績の方が
重視されている印象を受けたのだが、これは商品の必然性の議論に蓋をし、
販売価格の正当性をアピールするのには都合が良いようだ。

そんな中で飛び出した、管理技術に詳しい理事の発言に、腰を抜かすほど
ビックリしたので、読者の意見も聞きたい。彼が言うには、日本の平均的な
ゴルフコースの芝の根は、グリーンもフェアウエーも5cm程度なのだそうだ。
恥ずかしながらすっかり浦島太郎になっている小生はそんな現状も知らずに
記事を書いてきたわけで改めて不勉強を悔いたのだが俄かには信じられない
話だったのだ。

毎度、欧米ではとか英国ではとか言っていると「出羽の守」と言われそうだが、
基本的にグリーンの芝の根の長さは10pを下回ると黄色信号で7.5pで赤信号。
5pなどという数字は瀕死の状態を表していると欧州では教わる。
健全な生育状態は15pから20pで、透水性の良いリンクスコースなどの場合は
もっと深くまで根を張る必要があるらしい因みにセント・アンドリュースでは
90p以上もあるそうで、150pという記録もあると聞いたことがある。

 5pしかない芝の根でも立派に管理する日本のキーパーのずば抜けた技術に
感心する一方で、何故もっと地下環境に関心を持たないか疑問である。
第一、15pと5pでは管理方法がまるで違ってきて当然でありその意味からは
安易に透水性のよいサンドグリーンは採用すべきではない。

ウォーターテーブルの低いサンドグリーンでは芝の根がウォータテーブルの
上面に届かず、芝は地下からの水分補給ができない。という事は、恒常的な
散水に頼るしかない訳で、結果的に芝はより地表近くに根を張るようになる。

 釈迦に説法のようで申し訳ないが、純粋な砂の層における毛管現象による
水面上昇は、中粒砂で20p、細粒砂でも40p程度で世界中同じである。つまり
USGA方式のグリーンで、30pの厚みの中粒砂だけでできたルートゾーンを持つ
グリーンの場合最低10p以上理想的には20pの根を持たなければ芝の根は
地中から水分を得る事が出来ない事は明らかなのだが、、、