株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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月刊 ゴルフ場セミナー 2011年6月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第101回
 
もし原発事故が隣国で起きたら
 もともと日本は自然災害の多い国だが、東日本大震災は特に多くの宿題を残した。
例えば建築基準法は、大地震の度に進化発展してきた。
今回の震災を建物の耐震性能だけで見ると、超高層ビルの長周期振動や垂直方向の揺れへの対処等の問題は残るものの、経済的な耐震建築手法が確立されつつあるようだ。
しかし、犠牲者の九割以上が水死者だという事実からは、建物の強度以前に地域の防災計画や都市計画上の弱点が指摘されるだろう。
今回の津波の最高到達地点の標高は40m弱だから、地形の個別考慮は必要だが、今後防災上の避難場所は標高20m以下には計画しにくい。
またギネス記録を持ち、1200億円も掛けた釜石港の防波堤さえ十分に機能しなかった訳だから、海沿い平地の用途は人命被害の少ない田畑や倉庫が中心になるだろう。
ご承知のように日本の国土は傾斜がきつく2/3が森林なので、海辺の平地は貴重な居住及び商業地域だったのだが、人命尊重の観点から高台に移動させざるを得ないのだ。

 これは既存の不動産価値が激変するという問題に加えて、今後改定される都市計画法の線引きにも影響する。
具体的には区域区分である市街化調整区域や、地域地区の用途地域や生産緑地の線引き等だろうが、法律だから震災を受けた東日本だけでなく、全国規模で発布されるのだ。
更に都市施設と呼ばれる公官庁施設や計画道路、避難場所となる公園や学校や病院、各種インフラ設備建設も高台に重点が置かれるだろう。
つまり、今後十年以内には多くのゴルフ場で不動産価値が増すだろうが、税金の支払額も上昇するのだ。
現実的に見て余震が収まった後の数十年間は、同じ場所で地震が起こる確率は低いから、期間限定もしくは段階的な市街地移動になるのだろう。
しかし、建築基準法や都市計画法の改訂は数年以内だろうから、不動産価値やゴルフ場の営業利益が上がる前に税額だけが上がる可能性が高い。

 さて、前回もお伝えしたが欧州では放射能汚染を含めた原発問題に感心が集まっていたが、最近では日本製工業製品の滞りによる経済への影響も話題になっている。
日本製品は実に多品種で意外な所にも使われているから、日本の底力を見るようで誇らしいやら、もっとデザイン力があればと悔しいやら、複雑な気分になってしまう。
更に今やフクシマはチェルノブイリと同格の文明が引き起こした負の遺産として、ハンガリーの小学生にまで知れわたり、国際的にも名誉挽回は非常に困難に感じられる。

 家人に「暫定基準値以下で風評被害に苦しんでいる農作物は、東電や政府が買い取って社員食堂で食べれば良い」
と言ったら、「アラブ人のような考え方だ」と笑われた。
それではイスラム社会ではなく、日本の隣国だったらどのように考えるだろうか?
現在の日本は米国、ロシア、北朝鮮、韓国、中国、台湾、フィリピンと排他的経済水域が接している。
もし、今回の原発事故が自国で起きたとしたら、どんな反応をするだろうか?
幾つかの国では、事故を起こした会社の経営陣は無事では済まないかもしれないし、刑事裁判で極刑を求刑される可能性さえあると思う。
結局イスラム社会でなくても、国際的にも歴史的に見ても取り返しの付かない重大事故を起こした場合、会社は社会的責任として相殺策や挽回策(金銭補償だけではない)を行う義務があるのだろう。